担当:田中ひとみ
今日は、「特別養子縁組」について取り上げます。
まずは、取材した、さめじまボンディングクリニックの院長
産婦人科医の鮫島浩二さんのお話です。
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ずっと僕一人で病院のドクターとして特別養子縁組を
やっていたんですが、片や赤ちゃんを妊娠して困っている人たち、
片や子供が欲しくて一生懸命外来に通っている方がいまして、
その両方の狭間にいるのが私たちだったんですね。
25年やってきて、実際に養子縁組にまでなったのは100件以上です。
困った妊産婦さんたちを手助けしたいということと、
産まれた赤ちゃんに家庭で育っていく、そういう権利をちゃんと
作ってあげたいと思ってやっております。
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鮫島さんの話では、中絶手術は、
日本では毎年20万件以上あるということです。
※ちなみに、「特別」養子縁組は、婿養子などで知られる
「普通」養子縁組と違い、生みの親との関係は戸籍上完全に断ち切られます。
「養子」ではなく、「実の子」として家系に加わることで、財産分与など、
法的に子供の権利が守られることがこの特別養子縁組の特徴です。
では、子供を手離す状況にまで追い込まれた母親は、
どのような心境で病院にやって来るのか。
鮫島さんに聞きました。
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ときには、このクリニックに高校生とか中学生を長期で預かって、
人目を偲んでここで生活する場合もあるんです。そういう子供たちは、
男性に騙されてこんな目にあっているというのがほとんどなので、
すごい人間不審がベースにあるんです。
結局はそれで自暴自棄になり、ドラッグにいっちゃったり、
自分はもうどうなっても良いやとなってまた妊娠して、
そういう人生になることもあります。人は暖かいんだよということを、
この施設で味わってもらいたいなと思っているんです。
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望まない妊娠をする人の中で圧倒的に多いのが「未婚」の人たちで、
その中でも、7割近くが10代の中学生や高校生ということです。
最近の傾向は、出会い系のサイトなどで知り合った男性に
妊娠を告げた途端、連絡がつかなくなってしまったという相談も
増えているそうです。
この病院では、例えば
「この中学生には、子育てのベテランである50代のお母さんをつけよう」
という感じで、相談に訪れた母親の性格に合わせて、
看護師と助産師の中から二人の担当者が選ばれます。
ときには、清掃係の女性も、「体調はどう?」と声をかけたり、
病院一丸となって時間をかけて、心身ともに傷ついた母親たちを、
立ち直らせていきたいと話していました。
特にまだ10代の母親だと、なかなか本音を話せないことも多いので、
正直な気持ちを引き出すためにも、心を割って接していくことが
大切だということです。
では、一方で、手離された赤ちゃんを実際に引き受けた夫婦は
どのような思いなのか。
2年前に赤ちゃんを引き取った、40代前半のある夫婦に聞きしました。
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◆母親:私たち、子供は一応できたはできたんですけど・・・
もう安定期までいったんですけど失ってしまったんですね。
そこからもう心も体も立ち直れなくなって、
やっぱり年齢もあるだろうし。
もう感謝しかないですよね、
だって私たちが親になれた訳なので。
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更に、二人に、初めてお子さんと会ったときの感想も聞いています。
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(最初にお子さんのお顔を見たときどうでした?)
◆母親:いや、もう、ねぇ。
◆父親:初めて会ったという感じじゃなかったよね。
◆母親:そうだ、私そう言ったんだ。いや、もう本当に、
「あーこの子、私の子だ!」っていう感じです。
分かりますか?分からないですよね。「あー」っていう。
「あなただったのね」っていう感じですかね。
◆父親:もう・・・私は可愛いの一言ですよね。
「よくきたね」「待ってたよ」って感じです。
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息子さんの名前は、
産みの両親の希望でこの夫婦が自ら名付けたそうです。
子供への告知は「真実告知」というそうなのですが、
こちらの夫婦は、1歳ごろから、子供向けに書かれた
特別な絵本を通して行っているそうです。
鮫島さんも、大きくなって他人から知らされるよりは、
早い段階から告知していくことを勧めているそうです。
そして、この鮫島さんの橋渡しですが、実は全てボランティアで行っています。
なぜ、ここまで精力的に活動を続けるのか。
鮫島さんのお話です。
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中絶は僕はしない。
別にしませんとして威張っている訳ではなくて、僕はしない。
今までも選んでこなかったし、これからもきっと選ばないと思います。
生まれてくる命は全部大事だと思っていますので。
私たちを支えているのは、スタッフみんなが、
助けてあげてよかったねと、赤ちゃんが救えたねと。
この思いだけです。この職業を選んだ限り、
この取り組みを続けていこうと思っています。
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酷いケースだと、男性から暴力を受けて妊娠してしまうこともあるので、
お腹の中にいることを無視されたり虐待を受けながら産まれてくる子も
少なくないそうです。(定期検診でエコーを見せようとしても、
画面から目を背けて無視しようとする母親もいるらしいです)
鮫島さんは、何よりもまずは子供の人権を守るために、
【生まれてきた赤ちゃんに「家庭で育つ」という当たり前のことを味あわせたい】
という思いから、この活動を出来るだけ長く続けていきたいと話していました。
関連情報・お問い合わせ先
- 医療法人きずな会 さめじまボンディングクリニック
http://bonding-cl.jp/
- あんしん母と子の産婦人科連絡協議会
http://anshin-hahatoko.jp/