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絵本でアルコール依存症を伝える活動
放送日:2015年09月05日
担当:楠葉絵美
今回は
アルコール依存症について描かれている絵本を取材してきました。
「ボクのことわすれちゃったの?−お父さんはアルコール依存症−」
という絵本です。
内容は、
主人公のハルくんのお父さんがアルコール依存症になってしまいます。
そこで始まる家族の苦悩と、
そこからどのようにして立ち直っていくのかが描かれています。
この絵本を、全国各地の言葉で読み聞かせをしているんです。
例えば、
沖縄や大阪弁、青森の津軽弁、岩手や三重の方言バージョンがあります。
絵本を各地の方言で読むことを進めている
NPO法人アルコール薬物問題全国市民協会の代表 今成知美さんの話です。
「たまたま著者のお1人、絵を描いてらっしゃるチアキさんは関西の方で、
朗読をされる時に関西弁でやるんですよね、
「あ!これは良い!」と思って。
やっぱり標準語で聞くのと自分たちの地元の言葉で聞くのとでは、
まるで心に届く深さが違います。」
故郷の言葉で聞くと、より心に響くということなんです。
代表の今成さんは「ハルくん全国プロジェクト」というものを発案しました。
これは方言による朗読会を、
それぞれの地域で自発的に開いてもらおうというものです。
昨年の11月に始まったのですが、
この6月までに13箇所で朗読会が開かれました。
今までの朗読会の様子を今成さんに聞きました。
「アルコール依存症ってまるで知らない人が
「ああ、こういう病気なのか。」ってわかったってこともあるし、
自分自身がアルコール依存症から回復するとか、
または家族がアルコール依存症だったって方も、
本当にジーンと深く入るんですね。男の方たちが泣いてますから。
会場内みんなシーンとしてすすり泣きみたいになります。」
絵本は終始ハルくんの目線から描かれています。
それが聞いている人の心にグッとくるわけです。
しかも、アルコール依存症のお父さんが、1度お酒をやめるんですが、
つい飲んでしまって家族がガッカリするというエピソードや
お父さん本人もやめたいのにやめられない葛藤、
お母さんの悲しみなど、
本当にリアルなんです。
イラストは油絵のようなタッチの
ダイナミックで、でも温かい筆使いの絵で描かれています。
ハル君が悩んでいる時は、色使いも暗くて黒や灰色、濃紺が多くて、
お父さんの症状がよくなってくるにつれてオレンジやピンクなど
明るい色が使われています。
巻末には、アルコール依存症についての資料も載っているんです。
絵本の一部分を紹介します。
【ボクのお父さん、お酒を飲むとこわくなる。
お父さん、ボクのことわすれちゃったの?
前は休みの日に キャッチボールをしてくれたのに
今朝だって約束してくれたのに
やっぱりウソだった。
昼間からお酒を飲んでる】
この絵本を作ったのは
「プルスアルハ」という精神科の医師と看護師、2人組のユニットです。
実際に治療の現場であったことを基に作成しました。
アルコール依存症という病気について、再び今成さんです。
「アルコール依存症、様々な依存症みんな同じですけど、
家族が巻き込まれて一緒に苦しむ病気なんですね。
家族崩壊なんて日常茶飯事というか、離婚があったり、
場合によっては酔った状態でDVがある場合もありますし、
本当に病気だということをもっと早く知っていればっていう風に
みんな後で言うんですよね。
あと回復出来る病気だって知っていればってことですね。」
アルコール依存症についてこんな数字があります。
2013年の厚生労働省の調べでは、
日本国内のアルコール依存症患者は推計109万人。
そのうち治療をしている人はわずか8万人だけなんです。
治療していない人がこんなに多いことに驚きました。
「アルコール依存症は病気」だと早く気付くためにも、
こうした絵本などを通じて広く知ってもらいたいと今成さんは話していました。
全国各地で「ハルくん全国プロジェクト」に賛同した人たちが
朗読会を開いていますが、その形はさまざまです。
沖縄では、路上ライブとして紙芝居で道行く人に聞いてもらったり、
京都では、絵本の主人公ハルくんと同じ年齢くらいの小学校低学年の子が
朗読したこともあったそうです。
絵本は全国の本屋さんに並んでいたり、インターネットで買うことも出来ます。
「ボクのことわすれちゃったの?−お父さんはアルコール依存症−」
ゆまに書房から、税込み2268円で発売されています。
絵本とお国言葉、
その二つが合わさることで今まで伝わらなかった思いが伝わりやすくなる。
ハルくんと同じような悩みを抱えている家族は少なくないかもしれません。
絵本なので、子供にもわかりやすく、誰もが理解出来るので、
こうした本をきっかけにプロジェクトが広がっていくと良いなと思いました。
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