担当:崎山敏也
震災で大きな被害を受けた、長田区のJR新長田駅前の再開発ビルの中にあるデイサービスセンター「ハナの会」を取材しました。在日の朝鮮や韓国人一世の高齢者を対象に開いていた食事会が発展して、10年前に始まったもので、「ハナ」とは「一つ」という意味です。
私が訪ねた日は午前中、食事や声を出す機能が低下しないよう、
発声練習をしていました。韓国の流行歌を歌ったり、日本語の早口言葉を練習したり。スタッフの説明によると、戦前の朝鮮半島の農村部では、女性は教育を受ける必要がない、と考えられていたので、学校へ通わしてもらえず、ハングル文字を読み書きできない方が多いので、歌は耳で覚えているそうです。そして、日本語は話せますが、生活に追われ、学ぶ機会もなかったことから、読み書きは難しく、高齢になってから、夜間中学に通った経験のある方もいます。
「ハナの会」を運営するNPO法人「神戸定住外国人支援センター」は震災直後に、長田区に多いベトナム人の生活相談をしていたグループと韓国・朝鮮人、中国人を主に支援するグループが一緒になったもので、平常時にも、いろんな言語で相談を受けたり、日本語の学習支援を行なうようになったんです。
理事長の金宣吉さんは震災当時について、「普通に暮らしていると思っていた外国人が実はいろんな困難を抱えているとか、みんなに見えるようになった部分がある。在日の高齢者は60年、70年住んでいても、文字が読めないから、災害広報を読んでも何が書いてあるか分からない、仮設や避難所の張り紙一つ見てもわからない。そうした人の居場所を誰かが作らなければならないということが、今の活動の原点です」と話します。
そして、在日のためだけの施設ではもちろんありません。「ハナの会」や3年前に始まったグループホームはいわゆる残留孤児、中国からの帰国者やベトナム人、そして日本人も利用しています。
スタッフも様々なルーツを持っています。ペルーから来たという女性は「最初は難しかったけど、慣れたので、いまは、大丈夫です。いろんな人がいるので、いろんなしゃべりかたがあります。遊んでいるし、歌っているし、いろんなレクリエーションがある」と話します。また、中国の内モンゴル自治区から来た男性は、モンゴル語、中国語、日本語が話せるということですが、「仕事はほとんど日本語ですが、土曜日とかは中国帰国者の方がいるので、中国語を使ったりします。ある意味、心地よいところです。利用者も文化が違う、スタッフも文化が違う」と話します。
お昼に、私がいただいたのは、いわゆる韓国料理でしたが、調理担当の韓国人の方に聞くと、「肉じゃがを食べたいという方もいるので、覚えました」ということでしたし、カレーも出るそうです。民族の料理を出せばいい、というわけではなく、利用者の好みを考えているんです。
理事長の金さんは「何人だから、ではなく、それぞれの個性を尊重して運営している」と話したうえで、「ここは、日本人の利用者もたくさん来ます。二十年で何が蓄積したかというと、どんな人も排除しない。少し個性が強いからといって、排除しない。きっと、多文化共生というのは、何人とか分類したり、きれいに並べるのではなく、混沌としていても、いろんな器の中に、はじき出さず、いてもいいんだよということだと思います」とも話しています。「多文化共生」とは単に相手の文化を理解し、交流すること、ではないようです。
崎山記者はセンターが運営する子供の学習支援教室にもお邪魔しました。アフガニスタンやパキスタン、中国の子供たちが勉強していましたが、ボランティアスタッフは、何人だからとか、ただ日本語を教えるのではなく、一人ひとりの性格や学校での状況、両親の生活のことまで配慮して向き合っているようでした。
背景には、差別から親が思い通りの就職ができず、子供に学ぶ環境を作ってあげられない、という格差、貧困の連鎖の問題もあるんです。
金さんは「お互いの持っているものを尊重するということは小さな衝突は必ずあるし、簡単なことではないけど、それを乗り越えようとする歩みの中にしか、一緒に生きていく営みはないのかな、という気がします」とも話していました。
関連情報・お問い合わせ先
- NPO法人「神戸定住外国人支援センター」
http://www.social-b.net/kfc/