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ハンセン病療養所の中に開園した保育園
放送日:2014年03月15日
担当:崎山敏也
東京・東村山市にある国立ハンセン病療養所「多磨全生園」。現在、入所者はおよそ220人、平均年齢は84歳です。園内に広がる豊かな森は、国の誤った政策で、強制隔離され、子供を持つことも許されなかった入所者が、故郷を思って植えたものです。
その全生園のコミュニティセンターで2月、全生園の中にある「花さき保育園」の子供達が、普段の遊びの中で楽しんでいる歌や合奏を発表する、1年に1度の「おたのしみ会」が開かれました。「花さき保育園」は元々東村山市内にあったのですが、一昨年の7月、全生園の中に移転してきたのです。
ハンセン病問題を解決するため、2009年に「ハンセン病問題基本法」が施行されました。患者だった人の名誉回復、正しい知識の普及、療養体制の確保と共に、療養所の入所者が地域社会から孤立することのないよう、地域に施設を開放して、地域に開かれた療養所としていくことを定めています。療養所の病院を地域住民が利用できるようになったり、老人ホームを誘致するなど、各地の療養所で様々な試みが行われています。全生園への保育園の移転もその一環というわけです。
「花さき保育園」が移転してから、園内には、散歩する子供達の声が響くようになりました。「おたのしみ会」には、保護者や地域の住民だけでなく、入所者の姿も見えました。多磨全生園入所者自治会の佐川修会長は「毎年来ているんですけど、非常に楽しみに見ているんです。子供達がとんだりはねたり、大きい声、出して。ひ孫やもっと下の子供みたいな子供達の声を聞くとほんとうれしいですね」と話していました。
保育園では運動会や夏祭りの時も入所者に声をかけています。園長の森田紅さんの話では、御神輿をかつぐ「わっしょい」という言葉が耳から離れなかったよ、とそっと、でもうれしそうに言ってくる入所者もいたそうです。
「おたのしみ会」を見に来た子供の保護者の方二人にも話を聞きました。一人のお母さんは「花さき保育園は母親目線でものごとを考えてくれるので、親としては助かってます。最初、ハンセン病の施設ということしか知らなくて、子供から色々話を聞くようになってから、どういうところだよ、というのを知ったりとか、いろんなおじいちゃんとかおばあちゃんとかと会話するようになったんだよとか聞くようになりました」と話します。またもう一人のお母さんは「保育園の雰囲気とかもすごくいいので、子供ものびのびできるし。環境も整って、親としても安心して預けてますね。お散歩の時に全生園の中を通っていったりするのも、子供達にとってはそれが当たり前のことになっているので、特別なことではないので、いいことだと思います」と話していました。
森田園長は「子供達がここを巣立って、社会に出た時に、全生園の中で育ったんだよ、と言えることは大事なことだと思います」と話します。ハンセン病についての記憶を引き継ぐことになるわけです。また、「この保育園を拠点に、地域と入所者が交流する。そしてハンセン病問題を考える人が増えて欲しい」とも話していました。
花さき保育園の園舎と前の小道の間にはベンチがあります。腰掛けると、大きなガラス窓越しに子供達の声や姿を感じることができるようになっています。
森田園長は「時には、こちらに足を運んでいただいて、園庭や園舎で子供達が元気に遊ぶ様子を見ていただいたり、感じてもらいたいな、という風に思っています。互いの生活の流れを大事にしながら、無理なく、できる範囲で、細く長く交流をして行きたいと思っています」と話していました。
全生園には、3万本の樹木や草花、歴史を語る建物などの史跡、故郷へ帰ることなく亡くなった方が眠る納骨堂、そして花さき保育園などがあります。入所者自治会と東村山市は、これらを「人権の森」としていつまでも残していこう、という構想を持っているんです。
「おたのしみ会」の最後には0歳から5歳の子供たち130人を含む 会場全体が一緒になって、アニメ「となりのトトロ」の歌「さんぽ」を歌いました。実は、アニメ監督の宮崎駿さんは、全生園の森を愛し、「人権の森」構想にも協力していますし、花さき保育園とも交流があるんです。
子供達を中心にした交流を通じて、差別と偏見に苦しむ人たちが人間らしい老後を過ごせること、そして、人権の森が実現することで、ハンセン病問題の記憶が伝わっていくことが、ハンセン病患者を差別した歴史を持つ日本社会の取り組むべきことなのです。
「ハンセン病問題」はまだ終わっていません。
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