今日は、この番組でも過去、何度か取り上げたことのある「高次脳機能障害」について
長田新さんが取材してきました。
「高次脳機能障害」というのは、交通事故や水の事故、脳卒中などに遭い、
命は助かったけれども、「高次脳」と呼ばれる脳の中で、記憶や感情を司る部分、
「高次脳」が障害を受けて、物の名前が覚えられなくなったり、注意が散漫になったり、
感情のコントロールが出来なくなったりする障害です。
この障害は、見た目ですぐに分かりませんから、逆に相手に分かってもらうのが難しいんです。
また、当事者自身や家族も、「高次脳機能障害」がどんなものかを知らない人が多く、
また、専門医も少ないため、医療関係者の間でも、なかなか理解が
進んでいないのが現状です。
今回は、埼玉県三郷市を拠点に「高次脳機能障害」の啓蒙活動に取り組んでいる
「地域で共に生きるナノ」というグループの活動を取材しました。
代表の谷口(たにぐち)真知子(・まちこ)さんの息子さんは、今から17年前に、
大学を卒業し、入社式の日の夜、川で溺れているのを発見されました。
その後遺症で、高次脳機能障害が残りました。
息子さんの現状について、谷口さんに伺いました。
「うちの息子の場合は、体の麻痺はほとんどないんですけれども、自分で何を行って良いのか分からなかったり、やはり、記憶に障害がありますので、自分でどこかに通ったりすることが全く出来ない、誰かがまわりにいてくれないと難しいというのが現状です」
息子さんが入社して、その日の夜の出来事ですから、谷口さんにとっては、
天国から地獄のようなご経験だったと思います。
谷口さんは、同じ悩みを抱える人と「ナノ」を作り、悩みを分かち合ったり、
勉強会などを開いて、高次脳機能障害と向き合ってきました。そして、
一昨年、三郷市にコミュニティカフェ・ミルクをオープンし、活動の拠点にするとともに、
息子さんが作業などをして過ごす「日中の居場所」にもなっています。
現在、高次脳機能障害を持つ人は、厚生労働省の推計では、全国で27万人、
東京都では4万9000人となっていますが、高次脳機能障害が知られない中で、
診断されていない人もまだまだ多くいます。こうした状況の中、
ナノでは、2年前から、埼玉県の委託を受けて、高次脳機能障害の地域相談会を開いています。
取材したのは越谷市の相談会で、この日は、参加者18人に加え、
スタッフや見学者が8人。参加し用意していた会議室が満員になる賑わいでした。
参加者に話を聞きました。
「『他の家族の方が、普段、どういうことで悩んでいるか?それを知りたくて来ました。なんて言うんだろう。納得じゃないですけれど、ああ、同じ意見なんだなというところが一杯ありますね』『正直申しまして、私ももう、20年近く付き合っていますから、もう、ヘトヘトなんです。私も先が無いものですから、どうしても焦っちゃうんですね。私が亡くなった後に、ちゃんとやって行けるかどうか?それが今、一番の悩みの種です。早く自立が出来るように。社会のお世話になりながら…。と思いまして。』」
最初の方は、お嫁さんが交通事故で高次脳機能障害になった方。
2人目の方は、息子さんがやはり、交通事故で高次脳機能障害になりました。
皆さん、介護している方が、ひとりで悩んでいたようで、相談会に来て、
色々な情報に触れることが出来て、ホッとしている姿が印象的でした。
また、医療関係者や行政側の関心も高まっているようで、この日は、
ケアマネージャーの方や、わざわざ他の市から職員の方が相談会に参加していました。
さて、障害についてなかなか知られていない中で、ナノが今、一番、力を入れているのが、
脳卒中のリハビリ中の方へのアプローチです。ナノ事務局長の丹直利(たん・なおとし)さんです。
「特に、若くて脳卒中で倒れられる方がいらっしゃるので、そういう方が浮かび上がってくるように、そういう人を支援している人。具体的に言えば、ケアマネージャーと言われている、介護保険の関係でケアプランを作っている方々。そういった方々に、まず、地域相談会のことをお知らせして、『たまたま、当事者の方を支援しているよ』という、そういう方が浮かび上がってくるのを待っているという、そういう状態です」
「高次脳機能障害の方の、8割の方が、脳卒中が原因で高次脳機能障害になった」というデータもあります。
脳卒中など、脳に障害を受けた人の中で、前と比べて、「記憶に障害があるとか、
段取りが上手く行かなくなった。性格が変わった。注意が上手く向けられなくなった」という人は
高次脳機能障害の可能性があります。
一度、お住まいの地方自治体の支援拠点に連絡してみて頂きたいと思います。
支援の輪は少しずつ拡がってきています。
関連情報・お問い合わせ先
- 地域で共に生きるナノ
http://nanojp.jimdo.com/