担当:長田新
今日は、一風変わったかるた。「幻聴妄想かるた」をご紹介します。
この「幻聴・妄想かるた」は、「精神疾患を患う人たちが、自分が聞こえている幻聴や、
悩まされている妄想を読んだかるた」なんです。
「幻聴妄想かるた」が作られた舞台となっているのが、
世田谷区にあるハーモニーという共同作業所です。
ここでは、統合失調症などの精神疾患の方たちが、内職をしたり、
リサイクルショップを営業しています。
すでに15年以上の歴史があります。これまで、あまり語られることの無かった、
精神疾患患者の幻聴や妄想を、あえて、かるたという形にしようと思った動機を
ハーモニー施設長の新澤克憲さんに伺いました。
『自分でも笑っちゃうような幻聴妄想体験というものを、少しくだけた形で、かるたという遊びの形にして提示することによって、笑いながら、「だんだろう?」と一般社会の方が思って頂けるような、そういう切り口で出す方が、彼らの気持ちに沿っているのではないか?』
つまり、幻聴や妄想がどういうものかを隠すのではなくて、広く知ってもらいたいということなんです。
「幻聴妄想かるた」は、特に、精神疾患を学んでいる大学や専門学校などで話題になり、
去年、医学書院から、かるたと解説本、女優の市原悦子さんの朗読CD、
ハーモニーを紹介したDVDがセットになって発売されました。
今日は、市原悦子さんの朗読と、札の読み手の解説を幾つかご紹介します。
では、さっそく、1つ目の札をお聞き下さい。
『幻聴妄想かるた 「の」 脳の中に機械が埋め込まれ、 しっちゃかめっちゃかだ』
実際に聞いてみると、想像していたよりもユーモラスなんです。
市原悦子さんのナレーションも、効いています。
では、この札を読んだ方の話をお聞き下さい。40代の男性の方です。
『最近はあまりないですけど、前は毎日ありましたもん。起きている時はずっとですもう。なんか、人に見張られているっていう感じで、どこに行ってもそうなんです。秋葉原に行っても渋谷に行っても。「じゃあ、今は、楽になりましたね。」だいぶ、お陰さまで、はい』
人に見張られている感じが、かるたの中で、「脳の中に機械が埋め込まれ、
しっちゃかめっちゃか」という表現になっているんです。
続いて、もうひとつお聞き下さい。
『「い」 いつの間にか、ご飯の食べ方が分からなくなった』
これも、かるたを聞いただけでは、どういうことかちょっと、分かりにくいですよね。
この札を読んだ方に聞きました。70代の女性の方です。
『手づかみで食べてたの。こうやって、わかんなくて。で、お父さんが、「なんだよ。手づかみで食べてんじゃないか!?」って言うのよ。それでねえ、それから全然分からなくなっちゃって、10分ぐらい経ったらもう、「お父さん、私、ご飯、食べたかしら?」って。全然分からないのね。自分でしたことが』
この方は、目がご不自由です。後で分かったことですが、
脳梗塞でこういう状況に陥ってしまったそうです。
では、幻聴妄想かるた、3つ目の札をお聞き下さい。
『「ま」 毎日、金縛り状態』
ちょっと怖い感じがしますが、こういうことなんです。
40代女性の解説をお聞き下さい。
『夜中、トイレに行こうと思ったら、金縛りにあってた。目も開いているし、意識もしっかりしているし、首も動くんだけど、手足と体は動いてくれないの。なんか、じたばたしているうちに、そのうちおねしょしちゃうのよね。結局』
精神疾患の患者さんは、薬の影響で、大量に水を飲みます。
そして、夜、眠れない場合、処方された睡眠薬を飲んだりするんですが、
夜中、意識は起きていても、体は眠っている状態で、
こういう、金縛り体験をする方が多いそうなんです。
こういう解説がつくと、分かりやすくなりますよね。
このかるたの目的について、再び、ハーモニー施設長の新澤さんに伺いました。
『一般的な理解で言うと、精神障害の方、一応、精神の病気であるから、その病気が治ってから社会復帰があるという風に思われている方が多いような気がするんですけれども、例えば、高血圧や糖尿病と同じように、慢性的な一生関わらなければいけないような病気の場合もあります。なので、治らないまま社会に受け入れて行くという形の間口がもっと広がって欲しいなという風に思います』
シンプルなかるたですが、結構、耳に残ります。
こうしたかるたを通じて、精神疾患に対する理解が広がると良いですね。
関連情報・お問い合わせ先
- 「幻聴妄想かるた」(商品説明)
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=82112