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片手で作る料理教室
放送日:2012年06月30日
担当:長田新
今日は、脳梗塞や脳内出血の後遺症などで「体が不自由な人向けの」料理教室を取材しました。
体が不自由でも「どのように上手に料理を作るか?」という教室なんです。
今回、取材したのは、東京世田谷区の「サロン・アップル」という料理教室で、
6年前に、区の社会福祉協議会のサポートを受ける形で始まりました。
栄養士で主催者の藤田あけみさんはこう話しています。
『だって私、自分のエプロンすら付けられないんですよ。それをスタッフが、パッと黙っていても来て付けてくれます。もちろん、生徒さんにもスタッフが手を貸します。いくら、医学を学んだ先生が教室をやっても、ちょっと違うと思うんですよね。やっぱり私が、すごい大変な格好でやっているところが、サロン・アップルなんですね』
先生である藤田さんご自身が、体がご不自由なんです。
藤田さんは、元々、栄養士として都内で料理教室や講演会などを開催する一方、
趣味のケーキの受注製作を請け負ったり、油絵を描いたりコンサートに出かけたりと、
大変、オシャレで活動的な暮らしをしていました。
ところが、8年前、脳内出血を発病し、重い左半身のマヒが残りました。
着替え、お風呂、買い物から食事の支度まで、全てご主人に委ねる生活になりました。
藤田さんは当時、「リハビリをやれば、元の体に戻る」と思っていたそうですが、
現実は、リハビリを繰り返してもなかなか体は動かず、絶望感からうつ病の治療も受け始めました。
そして、とうとう、藤田さんが自慢だった「味覚」にも障害が出て、
食べ物の味が分からなくなってしまいました。
退院後は、引きこもった状態で、ご主人が、1年間仕事を休職して、藤田さんを支えたそうです。
そして、そんな状態から、「料理教室」を開くまでになったきっかけは…、初孫の誕生でした。
『孫を毎日見ていて、3ヶ月目ぐらいかな。「そうか、この子の成長を楽しみに生きて行けば良いか」って。そうしたら急に「あー、良いおばあちゃんになりたい!」って思ったんですね。で、「この子を早く大きくするためには、母乳だ。じゃあ、濃い母乳を作ってやろう!」と。娘にご飯を作ることを思い切ったんです。主人に「私、料理がしたくなった」と言ったら、主人が包丁磨ぎを習いに行ってくれました。シャープな包丁だったら、なんでもサッと力を入れなくても切れるんです』
藤田さんの復活を、お孫さん、娘さん、そしてご主人が支えました。
そして、藤田さんは6年前、「自分が体験した生活リハビリを伝える場を作って、
自分と同じように悩んでいる人に、お医者さんが与えることの出来ないヒントを与えたい」と、
片手で作る料理教室、サロン・アップルを始めました。
6月25日月曜日には、南烏山市民センターの地下、料理講習室で、第61回の教室が開かれました。
サロン・アップルは月1回のペースで世田谷区の区民センターなどで開かれています。
参加者は15人程度。藤田さんがお手本で料理を3品ほど作り、
参加者はそれを見て料理を作っていきます。参加者の声です。
『先生自身が色々と研究していらっしゃるから、手の不自由な人の切り方とかを教えてくださるので、皆さん助かっていると思います。「男性お一人ということで?」今日はひとりですね。「なにか、立ち上がってご覧になっていて、ものすごく興味深くご覧になっているようだったんですけど」まあ、楽しいですね。20代ラストで病気になって、半身マヒになったの。滑らないボウルを教えたりしてくれるから、買いに行ったりして、自宅で活用したりしています』
こうした参加者の皆さんに囲まれている藤田さんは左半身のマヒという苦難の中で教えられたのは、
「料理が持つ大きな力」だったと話しています。
『お母さんの食事作りという役割は、それが達成出来たら、生活面のほかのことにも意欲が湧いてくるんです。やっぱり、料理って、家族の命を預かるみたいな大きな仕事なんですよね。それが出来たというだけで、自分を尊厳したくなるような「よっしゃ!」という気持ちになるんです。お料理って、力を持っていますね』
料理は、食べる人のためだけではなく、作る人にも勇気や自信を与えているんです。
支えになる人がいて、やりたいことが出てくれば、こんなことまで出来る。
藤田さんのますますのご活躍を、願ってやみません。
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