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ランチタイムには「にこまる食堂」の看板が出る |
横浜市に「250円」で色々な種類のランチが食べられるお店があります。「250円」なので「にこまる食堂」といいますが、そういう名前のお店があるわけではありません。ニートやひきこもりの若者を20年以上支援してきた横浜のグループ「K2インターナショナル」が運営しているお好み焼き屋や喫茶店のランチタイムが「にこまる食堂」になるんです。
お店の一つ、横浜市中区にあるお好み焼き屋「ころんぶす」を山崎景子・情報キャスターが取材しました。ランチタイムに訪れると、席はあっという間に埋まって行きます。
ここでランチを250円で食べるためには、会員になって年会費1000円を払います。もしくは、一回ごとに50円を寄付します。こうやって、支援の輪をさらに広げようという取り組みなんです。
「ころんぶす」でも職業訓練中の若者たちが働いています。その一人、24歳の佐藤さんは大学を中退後、何をやっても長続きしない時期がありました。しかし、2009年の4月から自立のための訓練やお好み焼き屋での職業訓練を続け、2010年の4月からは正式なスタッフになりました。
「接客とか飲食とか全然考えたことが無かったんですが、いざ働いてみると、それまで自分が考えていた事務系、こつこつやるような仕事よりも向いていたんじゃないかとすごく思います」と佐藤さんは話します。これまでと充実感が違い、疲れても次の日につながっていく感じがするそうです。
「にこまる食堂」に関わる仕事はランチタイムだけではありません。250円で出すために、「にこまる食堂」をやっている5つのお店のランチの仕込みは市内にある一箇所の「センターキッチン」でまとめて行っています。ここでは毎日15〜20人ぐらいの若者が小さいことから一つずつ、野菜を洗ったり、切ったりすることから仕事を始めています。その他、外で「にこまる食堂」を宣伝する係もいますし、掃除専門のグループもあります。
センターキッチンで働く、27歳の葉山さんは、大学を中退した後、ひきこもりに近い状態がずっと続いていましたが、去年の秋から自立のための訓練を始め、今年の1月からセンターキッチンに来ました。
週に4日ほど、食材の仕込みの仕事をしているという葉山さんは「働いた経験があまりないので、やること全部が初めてです。最初は慣れないことが多くて、疲れもたまったりするんですけど、体調管理とかいろいろ基礎的なことから支援していただいているので、頑張れていると思います」と話していました。
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「にこまる食堂」で働く若者たちに山崎キャスターがインタビュー |
彼らが作る250円のランチは他にも様々な支えがあります。近所の馴染みの八百屋さんは、その日安くて良いものを提供してくれます。また、この活動に賛同した農家からお米や野菜、果物を安く仕入れたり、時には農家や一般の人から無料で提供されることもあるそうです。
会費を払うお客さんも支える人たちの一人です。山崎キャスターが話を聞くと、「私たちにも安くて、そのお金が役に立つというのは、お互いにとって良いことだと思います」「他で食べてもお金はかかりますから、そういう支援に使われているということが、手軽に自分もそのサポートをしているという感覚です」といった答えが返ってきました。
会費は食堂の運営費だけでなく、職業訓練や就職支援のための費用にもあてられているということです。
「にこまる食堂」プロジェクトのリーダー、岩本真実さんは「若者にとってはどこに行っても、『にこまる食堂』という看板を見たら、ここに行けば安心してご飯も食べられるし、何か自分が自立するためのきっかけが得られるんじゃないか、と思えるような状況になることを目指しています」と話します。
呼び掛けに応えて、東京・大田区にある居酒屋が最近、「にこまる食堂」に参加して、250円のランチを始めたそうです。岩本さんは、地方で若者支援をしている団体が自分たちの経済的な支えとして取り組んだり、企業にも「にこまる食堂」に取り組んでもらえれば、「街作り」「村おこし」にもなるのではないか、と話していました。
「安くて、温かくて、美味しい食事」。生きづらい世の中を元気にする一つのやり方かもしれません。