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順天堂大学の樋野興夫教授には「がん哲学外来の話」などの著書がある。 |
5月22日の「人権TODAY」は、「がん哲学外来」という「がん医療」の現場での試みを紹介しました。
「がん哲学外来」に取り組んでいるのは、東京の順天堂大学の樋野興夫教授です。樋野教授は病理学者としてがん細胞を長年研究してきましたが、数年前、アスベストが原因となったがんの患者の専門外来を担当しました。その時、患者が病気のこと以外にも様々な悩みを抱えていることに気づいたそうです。
そこで、樋野教授は、30分〜1時間、患者やその家族のどんな話にもじっくりと耳を傾ける「がん哲学外来」を始めました。料金は無料です。
外来ではまず、患者やその家族の話に耳を傾けます。そして、「がんという病気とつきあいながら、これからどう生きていったらいいのか」、すぐに答えが出るというわけではありませんが、前向きに考えてゆくために、樋野教授自身の体験や、哲学者、思想家などの言葉を引用してアドバイスします。
最初は2008年に順天堂医院で試験的に3ヶ月間開かれましたが、受診希望者が相次ぎました。その後は、この試みに共感したボランティアの人達が各地で外来を開き、樋野教授が医師として出張しています。
2010年5月の時点では、横浜、東京の新宿、東久留米、千葉の柏、そして福島の5カ所で「がん哲学外来」が月にほぼ1回、開かれています。1回に2〜3組、本人や家族が相談に来ています。
横浜の「がん哲学外来」は、神奈川区にある訪問看護ステーションの中の部屋や、緑区にある眼鏡店の2階のスペースなどを使っています。ボランティアも加わって、「静かな喫茶店のような雰囲気」の中で相談にあたれるよう心がけているということです。
外来を手伝う糸川幸子さんの話では、相談に訪れた方の家族が、自分も落ち着いたらボランティアとして手伝いたい、と申し出たり、患者自身が、相談を受けてどんな風に受け止めたか、ノートに書いて役立てて欲しい、と申し出たこともあるそうです。糸川さん自身も最初は相談に訪れたのがボランティアとして加わるきっかけでした。
このように、外来を支えるボランティアの輪が広がっています。NPO法人「がん哲学外来」も設立され、シンポジウムの開催や人材の育成などに取り組んでいます。
誰もがかかる可能性がある「がん」。しかし医療現場では患者や家族の様々な悩みを受け止めきれず、それが不安や不満につながっているようです。「がん哲学外来」はがん医療の隙間を埋める試みの一つとして、広がりを見せています。
関連情報・お問い合わせ先
- NPO法人「がん哲学外来」
http://www.gantetsugaku.org/