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「救急医療情報キット」の普及に取り組む上池上自治会(大田区)の海老沢会長 |
東京・大田区の雪谷地区の自治会がこのほど、「救急医療情報キット」の普及に乗り出しました。「救急医療情報キット」は高さ約20センチ、直径約5センチの円筒形の容器で、かかりつけ医や持病を書いた紙や健康保険証の写しなどの情報を入れておくものです。冷蔵庫に保管し、一人暮らしの高齢者や障害者などが救急車を呼んだ時に役立てようというものです。
これは東京・港区が2年前に開発したシステムで、雪谷地区の自治会の一つ、上池上自治会の海老沢信吉会長が導入を提案しました。海老沢会長は消防団の経験から、「救急車が来ても病院へ運ぶのに時間がかかる」という現状が気になっていたそうです。そこで周りの自治会にも呼び掛け、地域ぐるみで取り組むことになったんです。
「救急医療情報キット」が冷蔵庫にある家は、玄関のドアの裏側に「救急車の絵」のシールが貼ってあります。119番通報で到着した救急隊員はドアの裏のシールを見ると、冷蔵庫を探し、キットを取り出します。一人暮らしの場合、救急車を呼んだ人が話ができない状態だったり、意識を失っていることもあるからなんです。
また、家族がいても役立ちます。キットを購入したという古川福松さんのご自宅を新崎真倫・情報キャスターが訪ね、古川さんご夫妻に話を聞きました。奥さんの恵子さんは「飲んでる薬とか、かかってる病気とかも全部一目瞭然ですよね。いざ救急隊が来ると、家族も慌ててしまうと思うので便利です」と話します。また古川さんは「去年、孫がけがをして救急車が来た時に、病院を探すだけでもすごく時間がかかったんです。私は、かかっている病院の名前をキットに入れていますから、すぐに連れて行ってくれると思います」と話していました。
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海老沢会長に新崎キャスターがインタビュー |
雪谷地区ではキットを一個100円で買ってもらっています。海老沢会長は「行政が無料で配っても、タダだと結局使わないことがあります。うちでは、必要性を理解していただきながら、100円で買ってもらうんです」と話します。上池上自治会では2千個を注文し、2010年の1月の末頃から呼び掛けを始めました。
例えば、一人暮らしの高齢者や障害者は民生委員や障害者団体を通じて、購入を呼び掛けます。また、雪谷地区には最近できた大きなマンションも多いんですが、自治会と疎遠だったり、マンションの中でも住民同士のつきあいがないところが多いそうんです。
海老沢会長や先ほどの古川さんご夫妻は、一軒一軒、そしてマンションの管理人や管理組合にも説明に回っています。古川恵子さんは「ただ回覧板で回してもだめなんですよ。でも1対1で話せば皆さん絶対買って頂けるんです」と話します。こういうコミュニケーションが生まれることも、キット導入の目的の一つです。海老沢会長は「簡単なあいさつだけでもいいから、これを利用してもらうことを通じて、地域にコミュニケーションが生まれていけば一番いいですね」と話していました。
また、キットには大田区ならではの工夫があります。大田区は工場の町、中小企業の町ですが、ある企業の若い30代の社長さんが工夫して、他の自治体で使っているものよりも安く作ってくれたそうです。また、容器に貼ってあるシールは上池台障害者福祉会館に通っている人達が一生懸命曲がらないように貼っています。地場産業にも貢献し、障害者の仕事にもなっているんです。
普及の方法は様々ですが、この「救急医療情報キット」のシステムは現在、東京都内では港区の他に檜原村や日ノ出町。北海道や九州でも取り入れているところがあります。全国に広がりつつあるんです。