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普通の民家を使った「桃の木亭かたひら」 |
川崎市麻生区に認知症の高齢者が利用する小さなデイサービスがあります。去年オープンしたばかりで、木造二階建て、築25年の普通の民家を使っています。名前は「桃の木停かたひら」。バリアフリーなどの改造はせず、数年前まで持ち主が住んでいたそのままです。
池田智子リポーターが取材した日の利用者は2人。1人の男性は歌が大好きなのですが、ただ歌うだけでなく、スタッフと一緒に歌詞を思い出しながら、歌います。思い出した歌詞は、スタッフがホワイトボードに書き、なるべく最後まで歌い切ります。「りんごの歌」「青い山脈」………等々。伴奏が欲しい時のために、昭和の曲が中心のカラオケも用意してあります。
取材中に電話がなり、スタッフが出ましたが、よく見ると、電話機は昔の黒電話。また、窓の外を見ると、庭には、赤い、丸い郵便ポストが佇んでいます。
スタッフで社会福祉士の川内潤さんの話では、以前見学をした老人ホームの庭に丸いポストがあったそうです。そこでは、認知症のある入所者が、例えば、昔の知り合いに宛てて、手紙を自分で書き、自分で歩いて行って庭のポストに入れていたんだそうです。川内さんは「ポストに手紙を入れる、ということは、自宅で暮らしていたらできなかったかもしれません。でも庭にあれば、ポストまで行って手紙を入れることができます。そうすると、一つのことを成し遂げた、という達成感が持てるんです」と説明します。
そこで、「桃の木停かたひら」でも、夏のイベント用の郵便ポストを一時的に借りてきて、置いてあるんです。
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ポストのある庭で、スタッフの川内潤さんにインタビュー |
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庭には金だらいや洗濯板も |
カラオケに黒電話に丸いポスト。川内さん達がこういう懐かしいものを置いたり使ったりしているのは、利用者ご本人が好きなこと、やりたいことをしてもらうためです。それがここの介護の方針の全てなんです。
取材した日のもう一人の利用者の男性は、元々庭作りが趣味だったそうですが、赤いポストを前にして、「植える花は黄色にしたらどうだろう」という感じで、庭作りへの意欲がかき立てられているようでした。
庭には他に、金だらいと洗濯板もありました。女性の利用者が気が向くと、スタッフに昔の洗濯の仕方を教えてくれたりするそうです。
去年の11月にオープンしたこの「桃の木亭かたひら」。川内さんは「ここに来ると、自分の得意なことができて、輝ける場所がある、ということが、利用者の方々にとっても、安心に繋がっているのかな、と思います。また、自宅ではいつもふさぎ込んでいた利用者が、明るくなった、という家族の声も聞きます」と話します。「最近、うちの家族変わったんです」と家族が言ってくれると、よかったな、と感じるそうです。
認知症の高齢者は本人もそうですが、介護する側も大変です。「自宅とは別に、この人には楽しい場所があるんだと、家族がわかると、家族も楽になれます。それが大切です」と川内さんは話していました。
川内さんは、懐かしいものを使ったケアをもっと充実させたいと「自宅に昔のものが眠っていたら、是非こちらに連絡してほしい」と話していました。