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「E-net」でまとめた「5分でできる介護食」 |
病院、学校、企業など様々な現場で働く管理栄養士ですが、楠葉絵美・情報キャスターは今回、自宅で病気の療養をしていたり、介護を受けている人を支援する「訪問栄養指導」の現場を取材しました。
楠葉キャスターが取材したのは、訪問栄養指導に以前から取り組んできた管理栄養士のグループ「E-net」の住垣聰子さんです。住垣さんは、普段は病院の糖尿病センターに勤め、空いた時間や土日を使って、訪問栄養指導をしています。
楠葉キャスターは、以前訪問していた世田谷区の石川弘義さんご夫妻と一緒に話を聞きました。
石川さんは数年前に食道がんの手術を受け、その数ヵ月後に脳梗塞になって、嚥下障害になりました。必要な栄養は体に直接つけたチューブから取り入れていました。
退院して、自宅で療養とリハビリを始めた時、リハビリ担当の医師から依頼を受け、住垣さんが、月1回程度、訪問することになったんです。当初は、食べやすいゼリー状のものから始め、少しずつお粥や卵豆腐など食べられるものを栄養のバランスを考えながら増やし、作り方は住垣さんが奥様の爾智子さんにアドバイスをします。
食事の好みはそれぞれです。食べやすい柔らかいものが中心ですが、ちょっと食べにくそうでも、大好物のものは住垣さんが工夫して食べてもらいました。
例えば、石川さんが大好きなラーメン。短く切って、ラーメンのおつゆにとろみをつけました。「何回か繰り返しているうちに、食べるようになり、元気になってきました。そうすると、笑顔も出てきたんです」と住垣さんは話します。横から爾智子さんが「人間は食べることが基本なんですよね」と言葉を添えます。
口は食べる場所ですが、言葉を発する場所でもあります。新しい食べ物に挑戦する時は、言語聴覚士も一緒になってチェックしました。住垣さんは「医師やケアマネージャー、言語聴覚士、そして介護する人、本人。チームでうまくやることが成功できる条件だと思います」と話します。爾智子さんは「皆さん気持ちのよい方ばかりで」と付け加えていました。
また、実際に毎日食事を作るのは爾智子さんです。住垣さんが来る日以外は、毎日食べた物を細かくメモし、一週間分まとめてFAXで送ります。「何がどれくらい不足していますよ」といった、アドバイスの返信が届くので、それを元に工夫して、食事を作りました。「大変だったけど、ちゃんと食べてくれて、成果が少しずつでもみられると、自分のモチベーションもあがります」と爾智子さんは話します。
石川さんはチューブを完全に取り外し、今は毎日3食、しっかり口から食べています。身体の麻痺は残っているので、車椅子は使いますが、食事会や演劇鑑賞など積極的に外出するようになったそうです。取材した日も、奥様や住垣さんの話を終始笑顔で聴いていました。
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楠葉キャスターのインタビューに答える住垣さん |
住垣さんたち「E-net」のメンバーは、一人一人の生活に合わせた指導を大事にしています。「介護者が楽に作れて、療養者が楽に食べられて、楽しく食事ができる」がモットーです。
最近は、食事を作り慣れていない男性介護者も増えていますが、住垣さんは、訪問した時に作り置きをしたり、スーパーやコンビニに一緒に行って、栄養バランスを考えた買い物ができるようアドバイスもしています。
在宅療養や在宅介護が増える中、介護保険と医療保険の対象になっていますが、「訪問栄養指導」はあまり知られているとはいえません。介護サービスの中でもまだ利用率は低いようです。
住垣さんもそれを実感することはありますし、訪問できる栄養士が少ないことも問題です。病院に勤めている管理栄養士は訪問介護の現場になかなか出られません。また、フリーで働いていても、訪問栄養指導だけでは生活するには十分ではないのが現状です。「そういう状況の改善も必要です」と住垣さんは話していました。
医師やケアマネージャーとも連携して、管理栄養士の力が発揮しやすい環境を作っていくことが今後の課題のようです。
楠葉キャスターは「子育てが一段落して時間がある、という栄養士の資格を持つ主婦の出番に期待したい」という住垣さんの言葉が印象に残りました。
訪問できる管理栄養士を探したい時は、かかりつけ医やケアマネージャーに相談してみるほか、「全国在宅訪問栄養食事指導研究会」のホームページも参考になるということでした。