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「学校で教えたい授業シリーズ」は、東京・豊島区の日本福祉教育専門学校の教室で開かれた |
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「精神障害」の授業をする佐藤妙さん |
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授業が終わった後は、講師達と様々な意見が交わされた |
貧困や野宿、セクシュアルマイノリティ、不登校・ひきこもり、精神障害。こういったテーマについて教える「模擬授業」が、2009年の11月23日、東京・豊島区の日本福祉教育専門学校で開かれました。「模擬授業」を担当したのは、こういった問題の当事者や当事者を支援する活動に携わってきた人たちです。
「学校で教えたい授業シリーズ」と名付けたこの「授業」を中心になって企画したのは、大阪で野宿者の支援に取り組んできた生田武志さんです。
野宿している人=ホームレスを、主に10代の少年たちが襲撃する事件が各地で相次いでいますが、なかなかなくなりません。生田さんは、ホームレスへの偏見や差別をなくすために、「ホームレスはどんな人たちなのか?ホームレスになった背景には社会のどんな問題があるのか?」学校で教えることが必要と考え、実際に授業を小中学校で試みてきました。その試みを「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」で広げていく中で、身近なことなのに子供達が学校で学んだり、当事者と接する場がない他の問題についても「模擬授業をやってみよう」ということになったんです。
この日用意された模擬授業は4つで、75人の参加者は2つを選んで受けました。
○「貧困・野宿」の授業では、生田さんの他、「女性と貧困ネットワーク」呼びかけ人の栗田隆子さんが「女性と貧困」について授業をしました。
○「不登校・ひきこもり」の授業は、豊島区内で「居場所作り」をテーマに地域活動を展開している「不登校・ひきこもり研究所」の天野敬子さんらが担当。
○「精神障害」の授業は、「働く女性と母子の支援」をコンセプトとした、カウンセリング・コーチングスペース「こころスペース奏」代表の佐藤妙さんが担当。
○「セクシュアルマイノリティ」の授業は、「性的少数者の可視化」を高めるため、パレードを開催するなどの活動に取り組んでいる「東京プライド」の代表、砂川秀樹さんらが担当しました。
終わった後のアンケートでは例えば、不登校の子供の気持ちをロールプレイで理解し、思いやりを持とうという「不登校・ひきこもり」の授業について、「そのまま学校の授業に導入できそうな印象を受けた」という感想の一方で、「当事者でもある小中学生にはちょっと刺激が強いかな」という感想もありました。
また、「カミングアウトした子供と親の手紙」の朗読などを取り入れた「セクシュアルマイノリティ」の授業では、「当事者の話が聞けるのは貴重な機会です」という感想がある一方、「中高生がどこまで理解して、感情移入できるか、概念的で難しいかな」という感想もありました。
意見は様々ですが、参加者それぞれ、真剣に授業を聞き、色々考えたということがアンケートから伝わってきました。
取材した崎山敏也記者は、親子3人の参加者に直接話を聞きましたが、3人とも受けた授業は様々で、感想も様々。中学生の女の子は「不登校のロールプレイは面白かった、というか、どんなこと言われるかロールプレイだからわかってても気持ちがぐっと自分はなったんだから、当事者はもっといやだろうな、と感じました」と答えてくれました。また、小学生の男の子は「精神障害の授業はわかりやすかった。薬物依存になるきっかけが多いという中学校で教えたらいいかな、と思いました」と答えてくれました。
また、2人の母親は「セクシャルマイノリティの授業は子供達には難しいかな、と思ったけど、逆にこれだけテレビで性を超えた人が活躍しているのだから、これからこそ受け入れられるのでは」と話します。そのうえで、「子供の方が柔軟性がありますから、親の偏見をこれからの世代が覆してほしいと思います」と話していました。
授業が終わった後の意見交換の場でも様々な話や意見が出ました。
生田さんは、「野宿の現場にいると、精神障害がある人は多いし、不登校・ひきこもりだった方はいる。セクシャルマイノリティも確実にいる。どの現場も孤立しているのではなく、つながっているし、どの現場も学校で教えられていないんです」とあらためて話しました。「野宿者の間でも差別はある。問題解決のためにはばらばらではダメだということです」とも話していました。
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教材用DVD「ホームレス」と出会う子どもたち |
また、授業の方法や教材についても話が出ました。
生田さんはこの日の授業で、「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」が制作した教材用のDVD「『ホームレス』と出会う子どもたち」を使いました。このDVDは、日雇い労働者が多く住む街、大阪・釜ヶ崎で続いている「子ども夜まわり」の活動の様子や、ホームレス生活を送る60代の男性の仕事や生活、思いに迫っています。
でも、他の分野にはこういう教材はありませんし、今回教えた人達も現場の当事者や支援者で、初めて授業をやった人がほとんどです。
DVD作りに関わったノンフィクションライターの北村年子さんは「中学生には難しいかな、という授業もありました。でも、これを見た大人がヒントを得て、現場の子供達の段階に即した授業を作っていくと、実り多いと思います」と話していました。また、生田さんも「現場の先生達が、こういうテーマだとこういう教材がある、とか、こういう流れで展開するといい、とか教材や方法で協力をお願いしたい」と話していました。実際、「『ホームレス』と出会う子どもたち」には、現場の先生達が協力したそうです。
「将来の希望」である子供達に「学校で教えない」ことを教えてみよう、という「学校で教えたい授業シリーズ」。この後、大阪でも開かれましたが、今後は現場の先生も巻き込んで、様々な形で展開したい、と生田さんは話していました。
関連情報・お問い合わせ先
- 学校で教えたい授業シリーズ
http://d.hatena.ne.jp/a-r-class/
- 女性と貧困ネットワーク
http://d.hatena.ne.jp/binbowwomen/
- 不登校・ひきこもり研究所
http://www.zb.em-net.ne.jp/~hikiken/top.htm