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「ホースパラダイス群馬」入り口 |
馬やポニー、ロバなどで乗馬を楽しめる場所がある中、永井洋満ディレクターは10月の始め、群馬県伊勢崎市にある「ホースパラダイス群馬」という牧場を取材しました。
「ホースパラダイス群馬」は、「高崎競馬」で26年間厩務員を勤めた栗原修さんが「処分されていく競走馬を見ていて、一頭でも
助けたい。馬の余生が幸せになれる、馬の楽園になれる様に」と
考え、9年前に作りました。楽園といってももちろん、餌代は
かかります。様々な人に体験乗馬を楽しんでもらうことで、馬も稼ぎながら、余生をのんびり送っているんです。
栗原さんはまた、ホースパラダイス群馬で主宰するNPO法人「す馬いる」の様々な活動を行っています。
中でも力を入れているのはリハビリの専門家である作業療法士が行う「障害のある子供たちの乗馬療法」です。東京・小金井市の
専門学校「社会医学技術学院」で作業療法学科長をつとめる石井孝弘さんが、3年前から月2回ほど来ています。
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男の子がロバに乗る。付いているのが石井孝弘さん。 |
永井ディレクターが取材した日は、脳性麻痺のため、手を上手に
動かせなかったり、背筋を伸ばして座るのが難しいという4歳の男の子がロバに乗っていました。男の子はまるでロデオでもする様に体を後ろに反らしたりして、笑顔いっぱいで、30分かけ、1周30メートルのトラックを何周もしていました。乗馬療法を始めて1年ということで、「そろそろ体の大きなサラブレッドに乗せてみようか」という話もでていました。
男の子のお母さんは「ここに初めて来た頃には、長時間ひとりでちゃんと座っていられなかったのが、今は1人で座って、手を使って遊ぶことができるようになりました」と話していました。
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牧場を始めた栗原修さん(左)と石井さん |
石井さんの説明によりますと、馬に揺られたりすると、人の姿勢は崩されますが、その時に、身体は必ず元に戻ろうとするので、筋肉の正常な働きを引き出すことにつながるそうです。
また、馬に乗るのは身体の障害がある子供だけではありません。
石井さんは元々、発達障害が専門で、滑り台やブランコといった
遊びによる体や心への刺激が入りにくい、そんな障害を持つ子供とも接しています。そういう子供を馬に乗せた時には、あえて早足にすると、発達に必要な刺激が入って、ふだん見たことのない笑顔を見せるそうです。
石井さんは、乗馬療法について、「馬に楽しく乗れてよかったね、ということも大事ですが、その方たちの日常生活での困難さをなんとか解決できたらと思っています」と話します。
「普段あまり手を使わなかったのが、使うようになった」「普段の座ってる姿勢がよくなった」といった言葉を保護者から聞くのは、自分のやっている事が、少しずつでも効果があるのだと感じられ、一番うれしい瞬間だということです。
「ホースパラダイス群馬」のすぐ隣には、栗原さんの畑があり、馬の餌である草を刈ったり、人参を掘って、馬に食べさせたり。
また、肥料になる馬の糞を片づける、といった体験も子供たちはできます。
「子供たち一人一人の障害の状況は様々ですが、
それに合わせた乗馬や、自然の循環を体感できる活動ができるのがこの牧場の魅力です」と石井さんは話していました。
また、サラブレッドに乗る時は、引き馬や、馬の両サイドで補助するアシスタントが必要です。地元で福祉を専攻する大学生や、石井さんの学校の生徒たちもボランティアで手伝っています。作業療法士を目指す若者が、発達障害などのある子に実地で接するいい場にもなっているようでした。