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「インターナショナルめぐみオーケストラ」代表の木下ラファエルさん。 |
群馬県大泉町で活動している子供達の小さなオーケストラ「インターナショナルめぐみオーケストラ」。多国籍の子供達合わせて15人が週一回、バイオリンやチェロの練習に励んでいます。
オーケストラを発足させたのは代表の日系ブラジル人3世、木下ラファエルさん(24歳)です。木下さんは家族と一緒に6歳で大泉町に来ました。最初は日本語がしゃべれず、学校でも友達がなかなかできなかったそうです。外国人であることを理由にいじめもありましたが、中学生になって地元のオーケストラに参加。そこでは国籍関係なく、仲間と楽しくバイオリンを弾くことができたそうです。
人口約4万人の大泉町は日系ブラジル人を中心に外国人が約7千人住んでいます。人口の16%ほどにもなりますが、日本人と外国人の間には「様々な壁を感じる」と木下さんは話します。例えばアパートを借りたい時、「そこの大家さんは外国人には貸さないんです」と言われたりします。木下さんは「そういう壁を感じなかったのがオーケストラなんですね」とオーケストラ結成の理由を説明します。
また、木下さんは「日系人の子供達が非行に走らないために、何か打ち込めるものをと思ったんです。それが僕の場合は音楽でした」とも話していました。
非行防止や国際交流を目的に、2008年の4月、木下さんはオーケストラを作りました。その時は、バイオリンのレンタル料などを含め、月謝5千円で教えていました。しかし、秋になって不況が大泉町も直撃。派遣で働いている日系人が契約を次々と切られました。子供達の親も失業して月謝を払えなくなり、11月頃には全員練習に来られなくなったんです。
木下さんはオーケストラを何とか続けたいと考え、バイオリンやチェロを譲ってくれる人を探し回り、少しずつ揃えて行きました。木下さんが載った新聞記事を見て、亡くなった娘さんが使っていた思い出のバイオリンを譲ってくれた方もいたそうです。木下さんは「埼玉県の方なんですが、電話があった時は信じられなかったです。他人を思う気持ちがすごいなと思いました」と話します。
譲られたバイオリンの中にはかなり古いものもありましたが、修理を引き受けてくれる日本人も現れました。木下さんは工場勤めをしながら、ボランティアで教えることにして、オーケストラを2009年1月に再開しました。
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5月に大泉町で開かれたファミリーコンサートに子供達が出演。「歓喜の歌」などを披露しました。 |
練習を休んでいる間に、一家でブラジルに帰った子供もいます。その一方、新しく参加した子供もいて、崎山敏也記者が取材した頃は、日系ブラジル人10人、日系ペルー人2人、日本人3人となりました。
初心者の子もいますし、音楽家を目指す子もいます。日系ブラジル人の小学5年生、山崎香さんは「音がきれいなので、バイオリンが好きです。バイオリニストになりたいんです」と将来の夢を語ります。友達の中学1年生、古賀恵子さんに話を聞くと、元々は仲良し3人組で一緒にバイオリニストを目指していたんだそうです。しかし一人は、景気が悪化して、ブラジルに帰ってしまいました。山崎さんも古賀さんも一度は練習を中断、夢をあきらめかけましたが、色々な方に支えられて練習を再開できたんです。
木下さんのバイオリンの先生だった日本人もボランティアで加わり、取材した頃は8月末の発表会に向けて、バッハの「メヌエット」を練習中でした。新しく参加を希望する子供もいるので、木下さんは子供の身体の大きさにあったバイオリンを探して、今も走り回っています。
木下さんは「インターナショナルめぐみオーケストラは、僕の一人の夢じゃなくなったと思います。応援してくれる方の夢にもなっているので、みんなで力を合わせて頑張ります」と話していました。
不況で誰もが苦しい時ですが、子供達の音楽が、町に元気と夢を与えてくれるかもしれません。
「インターナショナルめぐみオーケストラ」の活動に興味を持った方は事務局(imo_1chr410@yahoo.co.jp)まで。