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「浩仁堂」の事務所 |
精神障害者の雇用を確保しようという試みはいろいろありますが、池田智子リポーターは東京・武蔵野市に事務所があるインターネットの古本屋「浩仁堂」を取材しました。
店主の直志浩仁さんは去年まで精神障害者の施設で働いていましたが、「働く力はあるのに、仕事に就けない障害者が大勢いる状況をどうにかしたい」と考えていたそうです。当時、直志さんは古本を集め、通販サイト「アマゾン」に出品して売るのを副業にしていました。「やっているうちに、これはビジネスになるということ、そして、自分の仕事にして障害のある方を雇用するという形を追求する、ということを思いついたんです」と話します。売り上げが伸びるに連れて、現実的に考えられるようになってきたそうです。
仕事をやめ、去年の8月に、6畳間と小さなキッチンがついた家賃3万円台のアパートを借りて、浩仁堂の事務所にしました。池田リポーターがお邪魔した時は、2人の方が、精神障害者の授産施設から派遣される形で、週3日、10時から16時まで働いていました。
主な仕事は、パソコンを使って、集めてきた古本の情報をアマゾンに登録することです。週に約450冊の登録を目指して、打ち込みをしています。その他、表紙を拭いたり、鉛筆の書き込みがあるものは消したりします。
体調が自分で管理できて、仕事があればいつでも働きたい、という方達で、一人の女性は、コンビニでアルバイトもしているそうです。パソコン入力は元々得意というこの女性は「たくさん冊数入れられたら嬉しいです。将来はアルバイトや正社員で働きたいです。こういう作業がずっとできたらいいなと思います」と話します。
もう一人の女性は、パソコンは初めてでしたが、教えてもらいました。本好きだというこの女性は「この本欲しいな、とか、読みふけっちゃったりして、脱線することもあるんですが、入れた冊数が伸びた日はやっぱり達成感がありますね」と話します。
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店長の直志浩仁さん |
病気とつきあいながら働き始めたばかりの人にとって、ネットの古本屋での仕事は「対人関係のプレッシャーが少ない仕事だ」という良さもありますし、「少ない資金で始められる」、という良さもあります。
資金繰りが苦しくて大変な時期もあったそうですが、今はスタッフも作業に慣れ、2009年の4月からは黒字になっています。2009年中には会社にすることを直志さんは目指しています。
会社になれば、今いる方達はアルバイトにして、いずれは正社員にステップアップして欲しいと考えていますし、「体調の波がある人にも、うまく時間のペースなどを配慮して働いてもらうこともできるかもしれない」と直志さんは話していました。
浩仁堂の外にも仕事は広がっています。
古本のクリーニングは小金井市の精神障害者共同作業所「希望の家」にお願いしています。外に働きにいけない方もいるので、室内でできる作業はありがたいようです。
また、本の仕入れは直志さんの担当ですが、直接仕入れるだけでなく、福祉施設を通している場合もあります。様々な障害の方が通う練馬区の「石神井福祉園」もその一つで、利用者の方が外に出て、古本を回収し、浩仁堂に売っています。地域の人には、施設の存在を知ってもらえるし、施設としては収入にもなるうえ、施設の利用者が地域の中に出て行くことにもつながっているようです。
直志さんは「こういったことをやって、ちゃんと利益をあげている企業があって、障害者の雇用はビジネスの邪魔にならない、ということを世の中の人に知ってもらえるようなところまで頑張りたい」と話します。「ビジネスと福祉は両立する」ということを証明したいんです。
ビジネスとして成り立つためには、ネットの古本屋には常に一定程度の在庫が必要です。浩仁堂の場合は1万冊ぐらいだそうで、直志さんは「高く買って、安く売りますので、読み終えた本や、CD,DVDを、提供してほしいです」と話していました。
興味のある方は、浩仁堂(info@kojindo.jp 電話080−6614−4970) まで。