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ジュートのバッグ
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「発展途上国から世界に通用するブランドを作ろう」と、バングラデシュの特産品、ジュート(黄麻)を使ったバッグや小物を製造、販売している会社があります。東京・台東区の「マザーハウス」は、先進国のブランドを「人件費が安い途上国で作ろう」というのではなく、現地の技術を取り入れ、現地の人と一緒に考えて、作っています。「バングラデシュ発のブランド」を日本に、世界に広めることを目指しているのです。
2年ほど前から「マザーハウス」の商品を取り扱っている「イデアインターナショナル」ショップ事業部の田邊紗耶香さんの話では、「商品を通して、社会貢献をしたい」という考えから、フェアトレードの商品などを取り扱おうということはよくあるそうです。
その中で、「マザーハウスはいいな」と思った理由はその理念だけではないようです。田邊さんは「フェアトレード商品の中には、欲しいと思って買う、というよりは、買ってあげなきゃ、というようなイメージの物が正直多かったんです。でもマザーハウスの場合、気持ちだけで商品を売るのではなく、かっこいい、と思ってもらえるバッグをきちんと発信して行きたいと考えているようです」と話します。
(イデアインターナショナルでは、「生活や社会の必要性をデザインしよう」というプロジェクト「YUEN`TO」で、鎌倉市の福祉作業所と共同して企画し、障害者が端材の毛糸を使って作ったおしゃれなボンボンアクセサリーなども販売しています。商品を通して、社会貢献をしたい、という考えからです)
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現地の工場で。真ん中の女性が山口さん。 |
「可哀想だから買ってあげよう、では長続きしない」と考え、「マザーハウス」を3年前、24歳で立ち上げたのが代表兼デザイナーの山口絵理子さんです。
学生時代、国際機関でインターンシップをした経験などから、「途上国の人々の生活向上のためには、ものやお金の援助ではなく、製造業を育てたい」と、バングラデシュの大学院で勉強した後、起業しました。最初の頃は、信頼していた人に裏切られたり、と苦労の連続でしたが、デザインや品質にこだわり、持続的なビジネスにしようと頑張ってきました。
崎山敏也記者が台東区入谷の直営店で山口さんに話を聞いたのですが、「何が大事ですか」という質問に、「途上国の生産者の情報を伝えるとか、生産者の明るい未来を目指すとか、社会にとっての利益を意識はしているけど、そこに甘えちゃいけないんです」と強調します。「百貨店などでは、他の店もうちも、どれだけ売れたかがはっきり数字で出ます。大きな企業とも同じ舞台で戦っているので、ほんとに日々競争なんです。そのうえで、社会的なことも知ってもらえたらいいな、という感覚でやらないとだめなんです」とも話します。
入谷店に一歩入った段階では、マザーハウスの理念や途上国の現状について知らせるものは見あたりません。全く普通のお店です。まずはゆっくりと買い物をして欲しい、という考えからです。もし商品の背景などを知りたい場合は、奥にある小さな家(ハウス)の中に、素材としてのジュートの説明や、生産者やバングラデシュの現状などが展示されています。
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入谷店の店内。左奥に「ハウス」が見える。 (写真はいずれも「マザーハウス
」提供) |
尊敬するマザーテレサからとった「マザーハウス」という名前ですが、「ハウス」には「バングラデシュのストリートチルドレンとか、そういう人たちが戻れる場所、安心していられる場所」という意味も込められています。
山口さんは「私の場合ですと、工員たちが『明日も仕事がある』と120%言えて、誇りがあって、そして『良い仕事をしている』という風に思える環境があるということです」と説明します。現地では2008年11月に自前の大きな工場を立ち上げたばかり。「みんなが楽しく働ける場所を」という気持ちはますます強まってきたようです。
そのためにも、「これからが正念場だ」と山口さんは話します。
3年たって、百貨店や雑貨店で扱ってもらう他、直営店も4つになりました。バッグや小物の種類も増えました。イデアインターナショナルの田邊さんも「扱ってみたい、遊び心もある商品が増えてきている」と話します。
山口さんは、バングラデシュに2ヶ月、日本に1ヶ月、というペースで仕事をしています。現地ではデザインの企画を練り、試作品を作り、生産します。日本にいる時は、お店でお客さんの反応を見るんです。「1年目から今までは、スタッフ一人一人がガッツで乗り切ってきましたが、注文も増えてきたので、生産と販売をリンクさせたシステム作りが今一番の課題なんです」と山口さんは話します。
将来は、パリやニューヨークなどでも「メード イン バングラデシュ」のバッグを使ってもらいたい。さらには、他の素材、他の国のブランドも作りたい、と夢を語ってくれました。山口さんの挑戦はまだまだ続くようです。
「商品を通した社会貢献」という考え方だと、商品を買う消費者の側から見ても、日常生活の中で、無理なく社会貢献ができます。途上国支援のあり方の一つの可能性を示しているのかもしれません。