高度成長期に各地に生まれた団地では今、高齢化が進んでいます。楠葉絵美・情報キャスターはマンモス団地として有名な東京・板橋区の高島平団地を取材しました。
高島平団地は入居が始まったのが1972年。時代は第二次ベビーブームで、多い時は3万人近くの人が住み、若い夫婦、幼い子ども達で賑わいました。しかし今はその子供達が巣立ち、団地内は高齢化が進んでいます。住民の3割は65歳以上。5年後にはそれが5割になるという推計もあります。つまり、「高齢者だけの街」になる可能性があるんです。
そこで、すぐ近くにある大東文化大学が団地を活気づけようと「高島平再生プロジェクト」に取り組んでいます。具体的にはボランティア意欲がある学生を募って、実際に団地に住んでもらうんです。
とはいっても、団地の家賃は学生にはちょっと高め。そこで、大東文化大学ではUR都市機構と話し合い、空き部屋をまとめていくつか借りて、学生に安く貸しています。学生は安く住める代わりに、地域の活動にボランティアで参加します。環境創造学部を中心に、留学生を含めた学生16人がこの3月までに入居しています。一人で住むだけでなく、広い部屋を2人でルームシェアする学生たちもいます。
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桜祭りの後片付けを手伝う |
楠葉キャスターが訪ねたのは、3年の女子学生の部屋。2階にある部屋はリフォームされていて、第一印象は「きれいで広い!」だったそうです。
訪ねた日は団地の桜が満開で、窓をあけて一緒に外を眺めながら「昼間は保育園の子供たちの声が聞こえるし、お花見や散歩している人もいるから、一人じゃない、という感じがするんです」と話していました。
取材した日は、自治会主催の「桜祭り」の日。初顔合わせをかねて、中国・内モンゴル自治区からの留学生2人を含めた6人が片付けを手伝いました。テントの撤収などをした後、打ち上げまで一緒の学生もいて、自分の故郷の話をしたり、自治会の人から一年を通した行事などについて説明を受けました。お互い話題は尽きないようで、連絡先を交換して、「家にご飯食べにいらっしゃい!」とか、「今度部屋まで行って夕飯作ってあげる!」なんて声も聞こえてきました。
こんな風に学生たちは3月頃から、高島平地域の住民のサークルや学校などにも顔を出して、ご近所づきあいを広げています。サークルで学生たちとお茶したことがあるという二人の方に聞くと、「私たちが年とってきているから、すごく子どもの声が聞けないのが寂しいです。団地にはけっこう空いている部屋があるから、若い人が大勢入ってきてくれたらとっても良いと思います」「一人暮らしの高齢者が多いですから、若い方と刺激になって、表に出て行くような機会ができれば、もっとよくなるんじゃないかなって思います」と話していました。
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女子学生2人に楠葉キャスターがインタビュー |
ボランティア活動の方では、環境の勉強を生かして、ゴミのリサイクルや、一人暮らしの高齢者の話し相手などをすることが決まっています。
話を聞いたもう一人の3年の女子学生は「住む前は、高齢者と手紙のやりとりとかするのかな、と
思っていました。実際に住んでみると、高齢者が盛んな活動をしているので、高齢者と子供が楽しく仲良くなれるような運動会を企画したいです」と話していました。
地域の活動に取り組んでいる方は団地のあちこちにいるので、そういう方とつながりを見つけ、話し合いながら、一緒に実現を目指します。
5月には学生が運営するカフェ「サンク」が団地内の商店街の空き店舗を利用してオープンしました。自然と人が集まって、くつろいでお茶を飲みながら、交流が生まれる場所を目指しています。
プロジェクターやステージもあるので、世代に合わせて、音楽などのイベントを組んで、楽しめる場所にもなります。団地内にFM放送を流し、様々な情報を伝える場にもして行く見通しです。
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山本孝則教授にインタビューする楠葉キャスター |
大東文化大学の試みは本格的に始まったばかりですが、なぜ大学が団地の活性化に取り組むのか、中心になって進めてきた環境創造学部の山本孝則教授は「少子化と高齢化はセットになんです」と話します。「大学は少子化に直面してますが、その裏返しが高齢化。同じ問題が根本にあるので、大学が元気になるためにも、街を元気にしなくてはいけないんです」ということです。
各地の団地も同じ課題を抱えています。「高島平再生プロジェクト」がうまくいけば、いろんなヒントが得られるかもしれません。大学と団地の今後を見続けようと思った楠葉キャスターでした。