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商店街の一角にある「永山福祉亭」 |
日本に「団地」が生まれておよそ40年。各地の団地では住民の「高齢化」への対応が始まっています。
およそ20万人が住む東京の多摩ニュータウンで1971年、最初に入居が始まった多摩市の永山・諏訪地区を山口智子リポーターが取材しました。街の中は坂道や階段が多く、5階建ての団地にはエレベーターがありません。当時はバリアフリーの考えがなかったからです。このため、足腰の弱い高齢者はつい自分の家に閉じこもりがちになってしまいます。
この地域で活動するNPO法人「福祉亭」の元山隆理事長は、仕事でニュータウンの設計に関わり、その後自ら移り住んできました。元山理事長は「作っている側も住んでいるのも若い人間ばかりですから、高齢化社会についての認識はまるっきりなかったんです」と当時を振り返ります。この地区の高齢化は現在、20%を越えているうえに、一人住まいの方の率が高いそうです。元山理事長は「いつ家の中で倒れるかわからないし、経済的にも状況が深刻な人がいます。そのためのセーフティネットがどうしても必要なんです」と話します。
そこで、NPO法人「福祉亭」が4年前、永山団地の商店街の空き店舗に開いたのが「永山福祉亭」です。誰でも気軽に立ち寄れる「たまり場」を作って住民同士の交流が出来るようにしようというわけです。
「永山福祉亭」は喫茶店スタイルのお店で、営業時間は朝9時から夜7時まで。およそ30席ほどの店内ではお昼の定食やコーヒーを楽しみながら、何時間でもくつろぐことができます。「健康麻雀」や「囲碁」、「フラダンス」といった日替わりのイベントがほぼ毎日あるほか、「落語を楽しむ会」なども開かれています。
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水曜午前は「唱歌」の時間 |
山口リポーターが取材した水曜日は午前中が「唱歌」の時間です。リクエストに応えながら、秋の歌や懐かしい歌、クリスマスの歌などを歌いました。「体調を整えながら、なるべく参加するようにしています。みんなで歌うのがすごく楽しいですし、ハモったら嬉しいんですよ」と話す方や、「唱歌は苦手だったんですが、ここに来るようになって、だんだん声が出るようになり、楽しくなりました」と話す方もいました。
「唱歌」の時間が終わるとちょうどお昼どき。そのまま残って、450円の日替わり定食を食べる方もいました。定食は天ぷらなどの副菜が4皿もあって栄養バランスもとれていて、山口リポーターもいただきましたが、大満足だったようです。新しいお客さんも入ってきていて、お昼の定食は毎日30食から40食ぐらい出るそうです。
「近所の方たちとお友達になれます。お互いに元気だった?とか言って」と話す女性や、「食べにくるし、脳みそ鍛えてくれる算数の時間にも来ます。今のところ、歌とお習字と算数とごはんですかね」と話す男性もいて、まさに地域の皆さんの気軽な「たまり場」になっています。
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お昼の定食をいただく山口リポーター |
この「永山福祉亭」では調理も配膳もすべて住民の「ボランティア」です。例えば、水曜日の調理は地元の保育園で長年給食を担当していた方が腕をふるっています。福祉亭はまた、高齢者や子育て世代の家庭の家事などを手助けするボランティアの拠点にもなっているので、小さな子供を連れたママ達がお客さんとして来ることもあります。
地域で「子育て支援」に取り組み、福祉亭の理事でもある真板久美子さんは、若いお母さん達にボランティアにも加わって欲しいと考えています。「子育て中のママ達が、レジとか運ぶのとか参加するようにしてもらったりとかそういうことをしないと、似たような世代で集まってしまいます。その方がある意味楽なのかもしれないですけど、意識して違う世代が交流する空間を作って行かなくては、と考えています。まだこれからなんですけどね」と話していました。
高齢者の「たまり場」、そして「地域の交流の場」をめざす「永山福祉亭」。NPO法人「福祉亭」ではこのほか、お互いの助け合いをしやすいように、「何かあった時に助けてください」あるいは「困っていることがあれば手を貸します」、という意思表示になるリボンを胸につける「リボン活動」や、自宅に閉じこもって「福祉亭」に来ない人にも働きかけようと、一人暮らしのお年寄りに「絵手紙」を送る活動も行っています。また、介護や相談の窓口、医療機関の連絡先などを載せた「便利帳」を作って配っています。古い団地を再生させようという取り組みがこうやって住民の中から生まれているんです。
「バリアフリー対策」などは、民間の力だけでなく「行政の力」も必要です。こうした取り組みは、各地にある同じような団地でも今後欠かせなくなってくるでしょう。