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インタビューに答える武井実良さん |
障害者のために考案されたスポーツには様々なものがありますが、今回、山口智子リポーターは目が見えない、見づらい人のための「テニス」を取材しました。「視覚ハンディキャップテニス」といいます。
ほとんどのルールは普通のテニスと同じです。違うのは、全盲の人は3バウンド、弱視の人は2バウンドまでに打ち返せばいい所です。音をたてて何回か弾む間に、ボールの位置や高さ、スピードを判断します。室内のコートは通常のテニスよりやや小さく、ネットの高さは80センチ、大人の腰ぐらいです。
「視覚ハンディキャップテニス」は20年ほど前、日本で生まれました。徐々にその面白さが伝わって、現在、競技人口は300人ほど。全国大会も開かれています。
考案したのは東京・豊島区に住むマッサージ師の武井実良さん。山口リポーターは武井さんが代表をつとめるクラブのメンバーが豊島区内の小学校の体育館で練習しているところを取材しました。
話を聞くと、1人の女性は「普通校に通ったんですが、見える人の中だと球技は危なくて、体育はずっと見学でした。こういうスポーツがあるって知って嬉しかったです」と話します。また別の男性は「自分の場合、コートにうまくかえらなくて、真っ直ぐ飛ばせるようになるまで半年、1年かかっています。かえるようになると一気に楽しくなります」と魅力を語っていました。
考案した武井さんは「ボールをラケットで打った時に、感触が最高だっていう人がいっぱいいるんです。視覚障害者のスポーツはどうしても2次元のスポーツが多いので、3次元のスポーツとして画期的だと思うし、みんな昔から憧れていたんです」と話します。
考案した当時、武井さんは埼玉県内の盲学校に通っていました。「見える人と同じようなスポーツをしたい」と野球やバトミントンを考えたんですが難しそうだったので、テニスならなんとかなると思い、ボールも自分で工夫しました。直径9センチほどの黄色いスポンジのボールで、中には「鉛の粒が入ったピンポン玉」が入っています。
最初は、おもちゃの野球セットに入っているプラスティックボールや「ガチャガチャ」に
使われているカプセルで試したんですが、弾みが悪かったり、割れてしまったり。
試行錯誤の末、やっと今のボールにたどり着いたそうです。
もちろん音がするからといって、すぐに上手くなるわけではありません。「左右の感覚はすぐわかるけど、上下の感覚を掴むのは最初は難しい」と練習をしていた皆さんは口を揃えていました。でも、難しいからこそ挑戦したくなるようで、上手な方だとこの日の練習でも激しいラリーが続いていました。身体を自由に動かせる嬉しさ、楽しさは何者にも代え難いようです。
武井さんは目が見える人とペアを組んで「ミックスダブルス」をやることもあります。車椅子の方と一緒にやったこともあるそうで、
「目が見える方や他の障害を持った方との間のちょっとした壁みたいなものがなくなると思うんです」と話していました。
日本生まれの「視覚ハンディキャップテニス」ですが、武井さんは今年、仲間と一緒に
イギリスと韓国で講習会を開きました。武井さんは「体育の教員の方とかボランティアに来てくれた皆さんとかも、ボールの音がすればテニスできるんだ、ということで喜んでもらいました。日本だけでやるのはもったいない。パラリンピックの種目にしたいので、普及活動に努めて行きます」と話していました。
パラリンピックの種目になれば、世界中の人と競うことができます。国内でもすでに盲学校の子供たちを対象にした講習会を開いていますし、普及活動を行う国も今後増やしたいということでした。