 |
取材した日はみんなで「手巻き寿司」 |
児童養護施設では様々な事情から、家庭で暮らせない子供たちが生活しています。その児童養護施設で育った若者たちが、気軽に集まって、自由に過ごせる場所が東京・新宿区にあります。名前は「日向ぼっこサロン」。
「日向ぼっこ」代表の廣瀬さゆりさんは高校まで施設で暮らしました。施設を出た後は、一人暮らしでアルバイトをしながら大学に通いました。そして、大学で出会った施設出身の友人らと一緒に去年の3月、「日向ぼっこ」というグループを作り、勉強会を始めました。施設で生活している子ども達自身の声が援助や政策にいかされていない」と感じ、施設で生活していた当事者として制度・援助のあり方を議論したり、講演活動を行っています。
そういった活動の中で「日向ぼっこサロン」の構想は生まれました。施設出身で同じ悩みを抱えている人ともっと話し合える場所があれば、もっと強く生きられるんじゃないかと考えたからです。「施設を出ると、他の一般家庭の人より早く自立することになるんですが、そうすると、自分だけが大変、と思いがちです。そうじゃなくて、人それぞれ色んな悩みや苦しみがあって、それを乗り越えるのが人生だと思うんですが、苦しみだけを見ないで、だからこそ出会えた人がある、だからこそ感じ
られる感性がある、ということに気づくためには、似た境遇の人たちで励ましあえる場所が必要だと考えたんです」と廣瀬さんは話します。
「日向ぼっこサロン」は今年の4月にオープン。社会福祉法人「青少年福祉センター」の1階を借りて、週に4回(火、木、土、日)開いています。過ごし方は自由ですが、「お互いをよく知る」ために、食事はみんなで作るようにしているということです。山崎景子・情報キャスターが取材したのは9月の初めの土曜日の夕方。この日は8人で「手巻き寿司」を作りました。ご飯を炊いたり、具になる卵を焼いたり、刺身を切ったり。
卵焼きを上手に焼いていたのは永野咲さん。施設出身ではありませんが、大学院で児童福祉関係を学んでいる関係で、「日向ぼっこ」の活動を側面から支援しています。永野さんは「電気がついているだけでも嬉しい、凄く寂しくなった時に来る場所があるっていうことを、実際に来れなくても、思うだけで嬉しい、とおっしゃる方もいるので、なるべく開けられるようにして、電気をつけていたい」と話していました。
刺身を上手に切っていた渡井隆行さんは月に3〜4回は顔を出すそうです。施設出身で、今は「VOXRAY」というヴォーカルグループで活動している渡井さんは、ライブやコンサート活動の他、子供やお年寄りの施設を訪問することもあります。勉強会の頃から「日向ぼっこ」に参加している渡井さんは「高齢者の施設とか児童養護施設にも歌いに行っているので、自分の中で役立つものあれば、って思って勉強しに来たんです」ときっかけについて話します。「そんなに僕は傷がある方じゃ
ないので、(自分ではそう思っているんですけど)、できるだけ日向ぼっこサロンを楽しい場所にしたくて来ている」という渡井さん、「日向ぼっこ」で何かイベントを開く時はギターや歌を披露するそうです。
一緒に作った手巻き寿司を食べながら、この日もお喋りが続きました。楽しいだけでなく、ちょっとした相談ごとがあったり、時には「ぐち」をこぼすこともあるようです。
そして、「日向ぼっこ」ではこのサロンの他にも、施設で育った人たちの声を児童養護施設の現場や政策に生かすための活動を並行して続けています。
テーマを決めて、自分たちの真剣な意見を話し合う「座談会」や、自分のことを話し、理解してもらうだけでなく自分自身にとっても整理や受容の機会となる「スピークアウト」。8月の「スピークアウト」では栃木の施設で生活している高校生も参加しました。「施設を出る前や後の自分たちの体験や気持ち」を話したんですが、「一見、受け身に見えた高校生でも、徐々に打ち解け、自分の話をしてくれるようになり、良い笑顔を見せてくれました」と廣瀬さんは山崎キャスターに後日送られてきた感想文を見せてくれました。
また、「勉強会」も開いています。すでにこれまでも「日向ぼっこ」のメンバーは、様々な場で意見を述べてきていますが、取材した頃は、養護施設などの今後のあり方について勉強していて、当事者として厚生労働省に意見を出そうとしている時でした。
また「児童養護施設について知ってもらい、社会的な背景や支援を考えるきっかけにしてほしい」と、2007年の10月12日〜14日には、施設で暮らす子どもたちや施設体験者が描いた絵画などの展示会を開きました。(東京・中央区日本橋蛎殻町の三愛画廊)
取材した時点では、スタートしてまだ半年足らずだった「日向ぼっこサロン」ですが、廣瀬さんは「自分が一人じゃないって思えるだけで、すごく人って強くなれるんだなって感じるので、そう言う場所ができてすごく嬉しいです」とあらためて話してくれました。そして、これからも、施設の現状や制度の問題点について社会に知らせ、「いつかは、施設で育ったことを引け目に感じずに生きていける社会を作りたい」と話していました。
関連情報・お問い合わせ先
- NPO法人 日向ぼっこ
http://hinatabokko2006.com/