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KEA工房横浜店の店内〜サロンのような雰囲気で、試着室もある |
日本の乳ガンの発症率は近年増え続けています。2006年の統計では25人に1人が発症しているということです。「早期発見、早期治療」への関心も高まっているようですが、乳ガンの発症率が高いのは30代〜50代。公私ともに働き盛りで忙しい方が多いので、実際に乳ガン検診を受ける人はまだ少なく、発見された時には進行していて手術などの治療が必要になることもあります。
そして乳ガンは「手術後」にもケアが必要、ということはまだあまり知られていません。
乳房の摘出手術などを受けた場合は、体形の変化から精神的にダメージを受け、周りの目が気になったりして、引きこもりがちになる方も多いんです。そうすると治った状態になっても、外出や旅行もできないし、仕事にも復帰できません。
平井麻枝子・情報キャスターはそういった術後の女性の身体をサポートする場所の一つ、「KEA工房」を取材しました。元々はオーダーメイドの輸入下着などを取り扱っていましたが、人工乳房、そして、術後のための下着などを開発するようになり、3年前に東京・青山に専門の店をオープンしたんです。
「KEA工房」では、女性スタッフのアドバイスを受けながら、術後の状態、好みに合わせて、人工乳房のサイズや形、素材を選べ、術後用に工夫された下着も数多く取り扱っていて、試着も気軽にできます。
また、「リンパ浮腫マッサージ」の講習会も行われています。乳ガンなどのガンの手術では周りの「リンパ節」を取り除かなくてはいけない場合があります。そうすると、体内のリンパ液の流れがとどこおり、手や足がひどくむくんでしまうんです。これが「リンパ浮腫」です。悪化すると、寒さや震えがきて、38度以上の高熱が出る合併症をおこす人も多いそうです。取り除いたリンパは再生しませんし、特効薬もありません。しかし、症状を和らげることはできます。それが「リンパ浮腫マッサージ」なんです。
「KEA工房」ボディーケア事業部チーフの都築亜紀子さんは「お客様が来店したり、電話で話をしている時に、リンパ浮腫のマッサージについて本とかビデオも出ているけど、自分にあった圧力だとか正しい順序とかよく分からない、という声がすごくあったので始めたんです」と話します。術後の女性が困るのは、がんの手術を受けた病院では、「リンパ浮腫が出るかも」と説明はしてくれますが、大抵、具体的な方法は教えてくれないからです。どうしたらいいかわからないし、きちんとしたマッサージの方法を学ぶ場を探すのも難しいんです。
平井キャスターが取材したのは、今年の1月にオープンしたばかりの「横浜店」の講習会。店内は白やピンクを基調としたかわいらしいサロンになっていて、紅茶を頂きながら、リンパ浮腫の説明とマッサージ方法を3時間、丁寧に教えてもらいます。
講師は渋谷にある「いつくしみ治療院」の福田紀子さん。福田さん自身先天性のリンパ浮腫ということで、同じ症状を持った同士、普段周りに話せないような事も話せます。話が尽きないまま、和やかで楽しい雰囲気の中、あっというまに時間が過ぎていきました。
参加された方々に話を聴くと、「ちょっとマッサージしてくれるとこないかなと思って、インターネットで検索したら、リンパ浮腫の専門という、他ではない場所が見つかったので」とか「横浜なら近いのでいいかな、行ってみようかなと思ったんです。横浜にできたっていうことで、気持ちが楽になりました」と答えていました。この方たちにとっては心強い、貴重な「場所」に「KEA工房」はなっているようです。
一方、医療現場で働く人達の講習会への参加も最近増えています。KEA工房の都築さんの話では、「病院は忙しいこともあって、リンパ浮腫について学ぶ場所もあまり多くないという現状があります。そこで、看護師さんとか作業療法士さんの中には、自分で知識を得て、患者様に早い段階で教えてあげたいって方がすごく多いんですね」と話します。「リンパ浮腫」に対する理解が深まることを願っている方たちにとっては嬉しい傾向です。
「KEA工房」で最初に下着などへの取り組みを始めた磯部久子さんは「10数年前は病院周りをしてもカタログさえ受け取ってもらえず、まして説明を聞いてくれるところは少なかった。でもあきらめずに続けていくうちに、看護師長や医師にも話を聞いてもらえるようになってきた」と話します。
乳ガンの手術後の「生活の質」=QOLの向上の必要性はこういった方の活動もあって、少しずつ社会の中で認知されてきているようです。