赤や緑の区別がつきにくいといった色覚に障害を持つ人は国内に300万人以上いると
みられますが、印刷のカラー化が進む中、「色のバリアフリー」に取り組む動きが始まっています。
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地下鉄マップを前に話す「CAN」の伊藤裕道さん |
例えば、番組では東京都印刷工業組合墨田支部の主催の「色覚バリアフリーデザインコンテスト」で最優秀賞に選ばれた「東京の地下鉄マップ」を紹介しました。このマップ、丸の内線の赤い色や東西線の青い色がちょっと薄いように見えますが、一見普通の「地下鉄マップ」と変わりありません。しかし、色覚に障害を持つ人に配慮する様々な工夫が吐いているんです。
一般に、色覚障害については様々な誤解があります。中村愛美・情報キャスターは、自らも色覚に障害を持つ東京大学分子細胞生物学研究所の伊藤啓助教授に取材しました。例えば、色を使わずに「白黒」にすればいいんじゃないか、という誤解があります。伊藤助教授は「見やすい色使いであれば、やはり色があったほうがわかりやすいんです」と話します。また、鮮やかな派手な色を使えばわかるんじゃないか、という誤解もあります。しかし「派手な色どうしだとわかりにくい面があって、鮮やかな色とくすんだ色、明るい色と暗い色、そういうのを組み合わせたものがわかりやすいんです」と伊藤助教授は説明してくれました。
その説明を聞いた上で中村キャスターが「地下鉄マップ」を見ると、様々な工夫が見えてきます。例えば、真っ赤な丸の内線は見づらいので「オレンジに近い赤」です。そしてオレンジ色に近い銀座線と見分けにくくなるので、丸の内線は網目を使って、「オレンジに近い赤をまだら模様」にしています。つまり濃淡や明暗を組み合わせる工夫も入っているんです。
また、工夫は「色」だけではありません。路線図には何駅かごとに、「丸の内線」と「文字」で駅名が書いてあります。また都営地下鉄は、線の中に「白い線」を入れて東京メトロと区別がつくようになっています。色の工夫、文字を使う、形を変える。様々な工夫が盛り込まれているんです。
そしてこのマップのもう一つの特徴は「全ての人に見やすい」こと。元の色と大きく変えているわけではないので、色覚障害を持たない人にも違和感はありませんし、文字の大きさなどは高齢者にも配慮しています。つまり「ユニバーサルデザイン」なんです。
マップをデザインした正明堂印刷の伊藤裕道さんは、「色覚障害者に見やすく、と最初は考えて作ったんですが、それを周りの人に見せると、見づらいよと言われてしまいました。そこで、誰にでも見やすいようにと一生懸命研究しました。印刷屋のこだわりというか、負けたくないところですよね」と話します。伊藤さんは誰にでも見やすく、誰にでも美しいデザインにするため、何度も何度もやり直したそうです。このマップがきっかけで、例えば、お得意さまの病院から院内の表示やパンフレットを色に配慮したものにしたいという依頼や相談が相次いでいますし、地下鉄の障害者用の料金表にも伊藤さんのアイデアが採用されました。
「もっと色のバリアフリーを広め、全ての人に見やすいデザインを推進しよう」と東京都印刷工業組合墨田支部の伊藤さんを含めた有志は、有限責任事業組合『CAN(ノーマライゼーション推進連絡会)』を結成しています。
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試作品を手にする「CAN」の橋本博さん |
メンバーの1人、橋本印刷の橋本博さんは、『CAN』について、「僕らがちょっと配慮することで、ユニバーサルな社会になっていくことを目指しているんです」と説明します。そして「印刷屋はこれまで人のために何かできることがなくて、
これを刷ってくれと言われるがままだったんですが、多少なりとも社会に貢献できているって感じますよね」と話します。橋本さんは取材当時、地下鉄社内の表示の試作に取り組んでいました。
伊藤さん、橋本さんを始め『CAN』のメンバーは色のバリアフリーの「マニュアル」を作ったり、講演を行なったりして、ノウハウを広めると共に、アイデアを出しあうイベントなども企画しています。
このような試みは以前からなかったわけではありません。中村キャスターは伊藤助教授に教えてもらって初めて気づいたそうですが、例えば、昔の信号機の「青」はもっと緑っぽくて、色覚障害者は「赤」 と区別が難しかったそうです。しかし、今は区別できる『青』に変わってます。ちょっと前までの携帯電話は、ランプの色が赤から緑に変わると充電完了でした。しかし今は、ランプが『消える』と充電完了で、色とは関係なくわかるようになっています。他にも、文房具屋で売っている色鉛筆やサインペンは、1本1本に「色の名前」を文字で書くように最近なっています。私たちの気づかないところで「色のバリアフリー」は進んでいるんです。
しかし「まだまだ色に配慮した商品は多くありません。そして必要なノウハウもまだまだ不足しています」と伊藤助教授は話します。伊藤助教授は、実際にデザインをする方たちに、それぞれの現場でどのような工夫ができるか考えて、アイディアを他の皆さんに広めていってほしいと期待しているということでした。
印刷物や表示だけでなく、ホームページやプレゼンテーションなどでも、カラーのものは増えてきています。「色のバリアフリー」の必要性はますます高まってきているようです。