 |
再現された民家の茶の間で、思い出を語り合う |
東京・葛飾区の「郷土と天文の博物館」には、区内にあった昭和30年代の民家が茶の間だけでなく、トイレや台所、玄関まで再現されています。その再現コーナーで「回想法」の教室が開かれました。
昔、自分が体験したことを語り合ったり、懐かしい道具に触れて昔を思い出す=「回想する」と、脳が活性化します。「回想法」は認知症の「予防」につながるということで、葛飾区「シニア活動支援センター」では普及のため、回想法の教室を2年ほど前から開いています。
普段の教室は区内の公民館や敬老館などで、8人ほどのグループで体験を語り合ったり、懐かしいおもちゃや食べ物、写真や映像などに触れたり見たりして思い出しています。また、思い出す手助けをする「リーダー」を区民ボランティアとして養成する教室も開いています。
「郷土と天文の博物館」の再現コーナーでもこれまで、展示物を見て語り合う「回想法教室」を開いていましたが、1月に開かれた教室は民家にあがりこんだり、道具を触ったりできるようになりました。実際に触れることで、よりイメージが大きく湧いて、どんどん思い出すことが出てくる、という効果を狙ったようです。
今回は3日に渡って行われましたが、宮前景・情報キャスターが取材した日は、70歳以上の男性2人と女性14人が参加。5,6人のグループに分かれ、センターの職員やボランティアがリーダーとなって、昔のことを思い出す手伝いをします。
あるグループは茶の間の薄暗い電球の下、ちゃぶ台を囲み、「お父さんの座る場所はいつも決まってて、白黒テレビの横だった。お母さんは必ず台所に近い所に座って、食事中もあれこれ忙しかった」といった話をしていました。
 |
懐かしい「ミゼット」の前で輪になって |
また、民家の庭では、洗濯板や物干し竿をさわって「子供の時は布団が重く感じたね」とか「よくぶらさがって、竿が折れたよね」といった思い出を話していました。縁側から茶の間のテレビを見て、「よくご近所のテレビのある家に行って、こんな風に見てたわよ」と話す方もいました。博物館に来たからこそ思い出すことも多かったようです。
けん玉やお手玉などを使ったグループもあり、お手玉を手に取ると、ふっとなつかしい歌が出てくる方もいました。「私の育ったところでは、ちょっと歌詞が違ったわ」と話しながら他の人も加わり、最後は合唱になっていました。
教室の感想を聞くと、ある女性は「若い人と話しても、私たちが暮らしていた時とがらりと違うので、また昔の事を言ってるよ、と言われてしまうんです。でもここなら」と話し、ある男性は「心のつながりという意味で最高だと思う。我々の年代の方が集まって話を展開すると、ピピピッと心が通じてしまうんです」と話していました。他にも、「年を取ると家にひきこもりがちになるので、教室があると外に出る機会が増えて嬉しい」という方もいました。おしゃべり仲間ができた人もいるみたいです。
 |
再現された民家の前の宮前景キャスター |
「回想法教室」では、道具の使い方などについて思い出したのか、博物館の職員に説明を始めたり、展示品に注文をつける方もいました。博物館の専門調査員、小峰園子さんは「自分の体験をそのまま話してくれていると思うんですが、時代をすごくよく知ることができます。私たちが知らないようなことも知っているので、博物館を運営していく中で刺激になる」と話していました。
小中学校の生徒をはじめ、様々な世代の地域の人がやってくる博物館ですが、小峰さんは「若い方や子供がこういう話を聞くことによって、この時代やものに興味を持つきっかけになります。私たちも含め、知らないようなことがいろいろわかること自体、地域の文化的な財産になるんじゃないかと考えています」と話していました。
「郷土と天文の博物館」では、この教室もきっかけとなり、一般のお客さん向けのイベントを企画し、実現に向けて動いています。昔の人が着ていた服を着たり、昔店頭に並んでいたレコードが聴けるコーナーなどです。博物館が地域の大事な交流の場になるかもしれません。
「回想法」は地域の高齢者を元気にするだけでなく、博物館の有効利用にもヒントを与えてくれるようです。