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はるかぜ書店 右奥には医療や福祉関係の本が並ぶ |
横須賀の街に2006年の5月、「はるかぜ書店」という本屋がオープンしました。「はるかぜ書店」は店員5人全員がひきこもりだった若者たち。本屋の仕事は初めてです。
「はるかぜ書店」を開いたのは、ひきこもりの若者や不登校の子供を支援するNPO法人「アンガージュマン・よこすか」です。「アンガージュマン」は3年前に、好きな時にいつでも来られる「居場所」を作りました。ひきこもりの若者はカウンセラーに相談したりして、外に出る気になれば、「居場所」でお茶を飲んだり、ゲームしたり、パソコンいじったりと好きなように過ごせます。だんだん人とコミュニケーションできるようになって、
「社会に出てみたい」と思えば、アンガージュマンが開くパソコンや資格の講座を受けられます。
「はるかぜ書店」の5人はこれまで、就労体験としてパン屋を手伝ったり、家事手伝いのボランティアを体験しています。ボランティアは例えば、近所の高齢者の代わりに買い物したり、家の掃除に行ってあげたり。また勉強して、販売士の資格もとっています。
「アンガージュマン・よこすか」代表の小柳良さんは書店を開いた理由について、「生きた流通とか、営業、注文、いろんな会社的なスキルを身に付けていこうということで、一軒店を持とうと。その中で彼らがいろんな研修を受けて自立していく方法を探して行こうということです」と説明します。
5人は、本の注文から、仕入れ、整理、販売まで、すべて自分たちだけでやります。店内に入ると、レジの横には普通の書店と同じように、雑誌が並びます。その奥には「介護」や「看護」、「心理学」や「健康」、「障害者」や「子育て」といったジャンルの本がおよそ4千点並んでいます。大きな病院のすぐ近くなので、「福祉関係」に力を入れているんです。また市内なら1冊でも無料で配達しています。
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取材した日は、書店前で山形の物産市も若者たちが開いた |
山崎景子・情報キャスターが取材に訪れたのは開店時間の朝9時。この日当番の男性1人と女性2人が入荷した本を仕分けして、棚に並べていました。その一人、地元横須賀出身の30代の男性は「お客様と接する時とか、人との付き合い方とか、スタッフ同士の仕事の仕方の中で関係を築く時に多少苦労はあります。また、自分が客だったらどんな本屋なら来たいかなとか、こういう本屋にしたいなと、スタッフがそれぞれ思っていることを話し合って、工夫するのは楽しいです」と話していました。「以前の状態があったので、それを考えると、凄く充実している」ということでした。
この男性は元々本が好きで、「売るだけでなく、本の楽しさや良さを伝えることもしたいです」と話していました。
開店して1年近くなる「はるかぜ書店」ですが、5人は全員このまま本屋で働き続けるわけではありません。ここは「実地研修の場」。中には本よりも食べ物関係が好きという人もいます。一人の女性は午前中は書店、午後は書店の目の前のお店でパンを売っていて、将来はそういう方向に進みたいようです。また中には公務員試験にチャレンジして、地元で公務員を目指す人もいるようです。
このようにアンガージュマンの若者達は地元のあちこちにいます。「はるかぜ書店」がある「上町商盛会」商店街振興組合の宮原茂理事長は「今、お店は少ない人数でやっています。なかなか手が回らないので、若い人がいると、これをやって、あれやってとか、引き受けてくれます。もちつもたれつですね」と話します。
アンガージュマンの若者は、毎年7月に行われる夜祭りの灯籠の土台を作るのを引き受けています。また、街灯が切れた時も若者の出番です。この街では「うわまち」のロゴ入りジャンパー姿の若者はお馴染みで、「商店街の青年部」みたいな存在のようです。
こうして、商店街の人をはじめ、様々な人とコミュニケーションしているうちに「自分にもできる力があるんだ」と気づき、「自立」してゆくことを、小柳さんは期待しています。小柳さんが考える未来は「地元のあちこちの店で若者が働いていたり、お店の後を継いだり。一方で、新しい若者はまず掃除のボランティアから始めたり」といった感じです。
地域に根ざしながら、「自立して」生きていこうというのがアンガージュマンの考え方。ひきこもりの支援に取り組んでいる他の地域のモデルになるかもしれません。
関連情報・お問い合わせ先
- アンガージュマン・よこすか
http://engagement.angelicsmile.com/