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東京信友の「シルウォッチ」 |
右の写真は、一見すると腕時計のように見えるかもしれません。実はこれは「腕時計型の受信器」。送信器からの電波を受信すると、振動と画面の文字で情報を伝えてくれます。
この「腕時計型の受信器」は聴覚障害者が様々な情報を得るためのもので、商品名は「シルウォッチ」。7年ほど前に東京・新宿区の「東京信友」が開発しました。
「東京信友」の社長の齋藤勝さんは難聴で、仕事の時など外では補聴器を使っていますが、違和感や使い勝手もあって、家の中ではほとんどの場合、補聴器をはずしています。奥様が亡くなって一人暮らしを始めた頃、宅配便や集金人が家に来てもなかなか気づかず、不便を感じたのが開発のきっかけだったそうです。
齋藤さんが探してみると、聴覚障害者が情報を得る機器のほとんどはランプが光って知らせるもの。そうなると、便利ですが、ランプが見えるところにいないと、気づかないことがあります。
そこで、人の行く先々で情報がとれるようにと考えて、開発に取り組んだのがこの「シルウォッチ」です。玄関のドアホンやFAX、携帯などに連動して、送信器がシルウォッチに電波を送り、来客や着信を知らせてくれます。腕時計としても使えます。
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避難所用のキット |
そして、この技術を応用して去年の春に開発したのが、10個のボタンがついた送信機と受信機5台を組み合わせた「避難所用キット」。「食事」、「トイレ」、「風呂」といったボタンを選び、送信ボタンを押すだけで、シルウォッチが振動し、画面には例えば、「フロ ハイレマス」と表示されます。
「避難所キット」開発のきっかけは齋藤社長が新潟県中越地震の被災者の話を聞いたこと。大勢の人がいる避難所はかなりの騒音がこもり、「毛布を配る」とか「仮設トイレ」ができたという連絡はなかなか行き渡りません。まして聴覚障害者は音が聞こえないですから、トイレに行くのを我慢したり毛布をもらい損ねたりで体調を崩す人もいたそうです。聴覚の障害は、外見ではわかりにくいですから、周りの人が気づかないこともあります。「せっかく声を掛けたのに、無視された」と誤解を受けることもあるそうです。
そこで、災害直後の避難所で「誰でも使えるように」と開発したキットなんです。停電のことも考えて、電池だけで3ヶ月は使えます。
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避難所用キットの説明をする東京信友の齋藤社長 |
去年の12月には静岡県の「災害時の情報保障訓練」で聴覚障害者が実際に試しました。浜松市の、ろう重複障害者作業所「遠州みみの里」の女性職員の方は「体験したことがないので想像はつきにくいのですが、地震のときに情報から取り残されるという不安は大きいです。訓練では、給食が配布されます、といった情報が大変わかりやすく伝わってきました」と話していました。
静岡県では、各自治体に導入を促す方針だそうですし、東京・新宿区もサンプルを購入して検討中だということです。
ちなみに、「東京信友」の「シルウォッチ」は半径200メートルまで電波を送れますし、コンピュータと連動させれば、複数の人に様々な情報を送ることもできます。聴覚障害者を雇用している企業や、騒音が激しくて口頭では伝わりにくい工場などでも使われているということです。まさに「ユニバーサルデザイン」の商品です。