
東京の北区役所の中にこのほど、障害者が出張して「古本やCDを買い取るコーナー」が誕生しました。障害者が働くパン屋「スワンベーカリー十条店」等を経営する有限会社「ヴイ王子」が新しく始めた事業で、区役所の地下一階の売店の前、「本」と書かれた大きなのぼりが目印です。
受け付けるのは毎週月曜日、お昼休み前後の2時間。本を持ってきた方から本を預かり、いったん持ち帰ります。マニュアルに沿って査定して、翌週の月曜日、名前を書いた封筒に代金を入れて、来店を待ちます。
一般の家庭からの買い取りも行っている「ヴイ王子」では現在、3人の身体障害者が働いています。依頼の電話を受けたり、宣伝のビラを投函したり、本やCDの査定といった色々な仕事を、健常者の職員と共に、できることに応じて仕事を分担しています。
区役所の買い取りコーナーで受付をつとめる浅野恭代さんは「まだちょっと緊張していますが、大変さはもうそんなに感じないです。接客の仕事ができるのが嬉しい」と話します。
脳の手術の後遺症で、片半身が不自由な浅野さんは、これまでなかなかしっくりする仕事がなかったそうですが、週一回の受付の仕事は無理なくこなせているようで、「マイペースでできるのが一番いいですね」と話していました。
「ヴイ王子」の取締役で養護学校の元教諭、小島靖子さんの話では、「自分の能力にあった仕事をみつけられ、そのうえ、仕事をすることで、ありがとう、と言ってもらえる。人に感謝されるということが少ない障害者にとって、ほんとに嬉しいこと」なんだそうです。
北区も健康福祉課が中心になって「障害者の働く場を広げることなので、利用してください」と呼びかけ、区の職員の中にも理解が広まりつつあるようです。
本やCDは、古書販売大手「ブックオフ」の関連企業「ブックオフ物流」が買い取ります。物流担当マネージャーの秋山元伸さんは「自立して頂いて、ビジネスとしてお付き合いできるようになってほしい。大きな利益は出さなくても、売り上げた部分できっちり給料が払えるようになってほしい」と話していました。「スワンベーカリー」も福祉施設ではなく、ビジネスとして、つまり、町の普通のパン屋さんとして最初から営業し、きちんと給料を払える状態まで持ってきました。事業拡大の一環として「古本の買い取りサービス」のアイデアが生まれたんです。
23区内どこでも、1冊から買い取りに行くそうですし、区役所以外にも、都内の大きな会社の中などに
出張買い取りコーナーを設けてゆきたいということでした。取材した大島洋子キャスターも、「家の古本を………」と考えているようです。
(「ヴイ王子」の出張買い取りの受付は、03−5924−0521へ)
古本の買い取りは、「障害者が働く姿が見える」という所にも価値があると、小島さんは話します。「ヴイ王子」の事業が軌道に乗ることは、障害者への「理解」が深まることでもあるようです。