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「エンゼルメイク講習会で、講師の説明に聴き入る看護師たち |
日本では昔から亡くなった方に「死化粧」をする習慣があります。家族や葬祭業者がする場合もありますが、今は病院で亡くなる方が多いので、看護師が死後の処置として行うことが多いようです。
この病院で行う「死化粧」を「エンゼルメイク」と呼んで、研究し普及させる活動を3年前から行っているのが「エンゼルメイク研究会」です。元看護師で作家の小林光恵さんらが始めたのですが、小林さんの話では、「総合病院に勤めていた時、やり方もよくわからず、道具も揃っていなくて、お粗末な化粧しかできなかった。それに疑問が残って、もっと大事にして考えたいな」と思ったのがきっかけだそうです。うまくできなくて、「家族が見たらどう思うだろう」という気持ちになったこともあったそうです。
小林さん達はまず、美容師の方達の意見を取り入れ、「エンゼルメイク」専用の化粧品や道具のセットを考案しました。そして時に講習会を行っています。亡くなった方の化粧は生きている人にするのとはいろいろ違います。生きている頃の面影を取り戻して、その人らしい表情にするためのマッサージや、汚れのふき取り方。病気で出来たアザや黄疸の隠し方。その人に合ったファンデーションや口紅の色の選び方と様々です。
2004年の10月31日に東京・渋谷区の「フロムハンドメイクアップアカデミー」で行われた講習会では、全国各地から勉強に来たおよそ100人の看護師さんたちがメイキャップアーティストの講師に習いながら、2人1組で互いに相手にメイクをしていました。皆さん、「亡くなった方を‘綺麗’にしてあげたい気持ちは持っているんですが、やり方がわからない。迷うことが多い」といったことを率直に話してくれました。
また、3年前から「エンゼルメイク」を実践している静岡県の榛原総合病院の副看護部長、名波まり子さんによりますと、病室の外で待っている家族に、「エンゼルメイク」を「一緒にやりませんか」と、声をかけるようにしているそうです。すると、肌の色一つ一つを伺って、ご家族の持っているイメージに近い形でメイクをするようになったそうです。子供さんがメイクのセットの中から、お父さんの唇の色を一生懸命に探したり、出来上がった穏かな表情を見て「こんな風にいつも笑っていた」と涙をこぼす家族もいるそうです。
研究会を一緒に作った美容研究家の小林照子さんは「死者への化粧という風に考えるか、それとも患者への最後のケアとして考えるか、私は患者へできる最後のケアだと考えています」と話しています。誰もが迎える最後の時を充実したものにする「エンゼルメイク」は静かに広がっているようです。