記者懇親会レポート

先日、TBS内で『猫弁』の記者懇親会が行われ、主演の吉岡秀隆さんと、監督も務めた北川雅一プロデューサーが出席しました。

記者懇親会レポート写真

北川プロデューサー(以下、北川P):
本日は、お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。
この作品は、TBSと講談社が「新しいエンターテイメントの書き手を発掘しよう」ということで始めました、『TBS・講談社 ドラマ原作大賞』の第3回大賞受賞作です。今回は、570本あまりの応募作の中から満場一致で大賞が決定しました。『猫弁』は、ミステリーでありながらも恋愛や親子・夫婦の話が描かれていたり、ユーモアに富んでいるかと思えばホロリと泣かせるところもある作品で、ジャンルの壁を易々と飛び越えた魅力溢れる内容となっているのですが…物語の大筋には“家族を失った主人公が新しい家族を見つけるまで”の姿がきちんと描かれていて、読み終わった後に非常に温かい気持ちになれる作品でもあります。そんな『猫弁』が、満場一致で大賞に選ばれたのは、当然の結果といえると思います。

TBSではドラマ化するにあたり、脚本の執筆を原作者・大山淳子さんにお願いしました。これは、この作品の世界観を1番よく理解している大山さんご自身が、シナリオライターとしての技術もお持ちであることから、彼女にお願いするのが一番良いのではと思ったからです。脚本をおこすにあたり、原作に登場する人物を何人も減らしたり、エピソードを変えたり削ったりというような作業も行ったので、実際にいま書店で売られている本とこのドラマの脚本には微妙な違いがありますけれど、だからこそ、原作を読んでからドラマをご覧になっても楽しめるし、またドラマを見ていただいた後に原作をお読みになっても新しい発見があって、楽しめる作品に仕上がったのではないかと自負しています。

記者懇親会レポート写真この作品の主人公・百瀬太郎は、非常にユニークな人物で、大変頭脳優秀なのですが、人の良さが災いして、いつも損な役回りを押し付けられているような方です。でも、理不尽な目にあったり、いろいろな困難な状況に陥っても、彼はけっして怒ることもなければ諦めることもしなくて、いつの間にかその事態を乗り越えていくという才能を持っています。
今の世の中というのは、デフレで就職したくてもできなかったり、予期せぬ災害に苦しめられたり…。なかなか自分の思う通りに生きるということが難しい時代です。だからこそ、不器用だけれど前を向いて凛と生きている、百瀬太郎のような“新しいヒーロー像”が求められているのではないかなと思いました。そして、この“新しいヒーロー”を、はたして誰に演じてもらおうかと考えたとき…僕も大山さんも、最初にイメージしたのが吉岡秀隆さんでした。それで、思い切って吉岡さんにご出演をお願いしたところ、願いが通じたのか快く引き受けてくださることになり、2人で大喜びしたのを覚えています。

その後も、基本的に登場人物の役柄に沿ってキャスティングを進めていったのですが、この『猫弁』という作品の持つ世界観を愛してくださって、出演を引き受けてくださる方が多かったですね。結果的に、吉岡さんのほか、杏さんや渡辺美佐子さん、伊東四朗さん…と非常に素晴らしいキャスティングができたのではないかと思っております。

それと、これは作品が完成して編集の後に決まったことなのですが…音楽監修として甲斐バンドで有名な甲斐よしひろさんにお声掛けしたところ、こちらもご快諾をいただくことができました。甲斐さんだからこそできたといいますか、甲斐さんならではの音楽のつけかたというのがありまして、この作品の世界をより深め、より面白くしてくれたなぁと思っております。
また、百瀬のお母さんの声(声の出演)を、『エヴァンゲリヲン』の“綾波レイ”役でもお馴染みの林原めぐみさんにお願いしました。こちらも、台本を読んで「じゃあやってみます」とご快諾いただき、本当に嬉しかったですね。アフレコにも立ち合わせていただいたのですが、鳥肌が立つぐらいカッコよくて感激しました。

『猫弁』は、声高に「愛」や「正義」や「勇気」を叫ぶような作品ではありませんが、こういう時代を毎日一生懸命生きている方の背中を“そっと”押してあげることができるような作品を目指して制作しました。個人的な願いとしましては、ひとつのテレビの前に家族みんなで集まって、ワイワイ言いながら時間を共有する…そんなひとときを提供できたらいいなぁと思っているので、この作品もそんな家族の団欒のきっかけとなれば、大変嬉しく思います。
ひとりでも多くの方に見ていただきたいと思っております。

百瀬太郎役・吉岡秀隆さん(以下、吉岡):
皆さん、こんにちは。
このドラマのいいところは、うまく言葉で説明しきれないところにあるといいますか…なんとなくこうフワフワ〜っとした空気感や、このドラマの持つ独特の雰囲気みたいなものが、今こういう時代だからこそ、皆さんの心をちょっと温めることができるんじゃないかなぁと思っています。
近頃、映画化が前提で制作されるような作品も多いですが、「ドラマのためのドラマ」というのでしょうか、昔の古き良き時代のドラマの香りがする作品に出会えたので、ぜひご家族揃って一台のテレビを囲んでご覧いただけたらなと思います。

記者懇親会レポート写真― 完成した作品をご覧になった感想をお聞かせください。
吉岡:撮影に入る前、原作も読ませていただいて、とても面白い作品だなと思ったのですが…正直なところ、はたしてこれが映像になったとき、どんなふうに化けるのかというところまでは計算できなかったんですね。でも昨日、2回立て続けに完成した作品を見たところ、非常に面白かったですし、「好きな作品だな」と改めて思えました。家族と一緒に見たのですが、隣でニコニコしている家族の姿をみて、僕もなんだかホッとしましたし、(原作の世界観が)うまく映像になったんじゃないかと思える仕上がりだったので、とても満足しています。
日本中の方がこのドラマをご覧になってニコニコ微笑むのかなぁと思うと、オンエアされるのが待ち遠しいですね。

― ご出演をお決めになった最大の理由は?
吉岡:大きな理由としては、やっぱり本(台本)がとても素晴らしかったということです。そしてもうひとつ、以前『最後の赤紙配達人〜悲劇の召集令状64年目の真実〜(2009年)』というスペシャルドラマでご一緒させていただき、「ぜひまたお仕事させていただきたいな」と思っていた北川監督からのオファーであったことも嬉しくて、喜んでお引き受けしました。

― 百瀬太郎を演じる中で意識したことや、感じたことがあれば教えてください。
吉岡:本当につかみどころがない役どころではあったのですが、演じる上でひとつの『軸』として、「7歳の時からずっとひとりぼっちで生きてきた」という彼の“孤独な部分”は常に意識していました。でも、いくら考えてみても…(生い立ちの異なる)僕には、百瀬の抱える寂しさというものがなかなか理解することは難しかったです。
ただ、心のどこかで“もしかしたら自分は母親に捨てられたんじゃないだろうか”という気持ちを抱きつつも、「母は僕を愛していた」と堂々と言える胸の張り方や、「いつか巡り巡ってお母さんを助けてあげることができるよ」という他人のアドバイスを信じて弁護士を目指した彼の“前向きで凛とした感じ”というのは、すごく好きですね。決していじけない、そして人を妬まない・恨まないという点において、彼は“現代の新しいヒーロー像”みたいな人間なんじゃないかと感じています。

― 役柄とご自身の性格を比べてみて、共通しているなと感じる部分はありますか?
吉岡:自分で自分のことがよくわかっていないところは、百瀬に似ているのかもしれませんね(笑)。それから、周りの人がニコニコしたり楽しそうにしている姿を見るのは僕も好きなので、そんなところはどこか百瀬と通ずるものがあるのかもしれません。

北川P:僕から見て、百瀬と吉岡さんのお2人に「共通しているな」と感じる点は…どちらもすごく能力が高くて、素晴らしいスペックをお持ちだということですね。吉岡さんに関していえば、お芝居に対する才能が非常に素晴らしいなと。演技における正解はひとつではないとはいえど、その作品・そのシーンに求められている演技を見極める過程というのは、砂浜で針を一本拾うような非常に困難な作業だと思うんです。でも、吉岡さんはこちら(プロデューサー・監督)が望む針を必ず見つけてきてくれるし、しかもそれが驚異的に早いんです。そんなところが“百瀬と似ているといえば似ているな”と思いながら、今回も一緒に仕事をさせていただきました。

― 共演者のみなさんとのエピソードをお聞かせください。
吉岡:今回ご一緒させていただいた共演者の方というのは、みんな個性がバラバラで、非常に面白かったですね。それぞれの方が、それぞれの『リズム』や『独特の存在感』をお持ちなので、異種格闘技(に挑んでいるか)のような感覚を覚えました。そんな中、僕は「ノーガードでいこう」と決めていたのですが、撮影の合間にはみんなでなんとなく集まってお茶をしながら、いろんなお話をさせていただいたりして楽しかったですね。
この作品で僕の演じた『百瀬太郎』という人物は、共演させていただいたそうそうたる役者さんたちの存在やお力があってこそ、出来上がったキャラクターだと感じています。僕が「こういう風に演じよう」「ああいう風に演じよう」と考えて作り上げたというよりも、そのシーンごとに相手の役者さんとの呼吸だったり、間の取り方だったりを工夫することによって、徐々に百瀬という役が出来上がっていったといいますか…。いろんな面で、非常に勉強になった現場でした。

― ヒロインを演じる杏さんの印象や、ご共演されてみての感想をお聞かせください。
吉岡:ご一緒させていただいて、「何事にも臨機応変な対応ができる方だな」と感じました。お芝居に関しても、監督がひとこと言っただけで演じ方をパッと変えることができたり、僕がちょっとセリフや動きを変えただけでも、瞬時に気付いて違うお芝居で返してきてくれたり…。
日常でのやりとりの中でも、みんなが気持ちよく会話ができるようにさりげなく話題を変えたり・戻したりという気配りが、とてもとても上手な方なんですね。でも、それがただ「器用だから」という印象ではなく、すべては彼女の優しさからにじみ出た行動であることにもまた好感が持てて、素晴らしい人だなっていつも感じていました。

― 今回、音楽監修を甲斐よしひろさんがご担当されることに関しては、いかがですか?
吉岡:僕も監督も甲斐さんの音楽は大好きなので、すごく嬉しかったです。ただ、普段テレビドラマの音楽をご担当される方ではないので、どんなふうに音をつけてくださるのか…まったく予想がつきませんでした。でも、完成した作品をみて大変驚いたのですが、甲斐さんは作品に対して“従来のテレビドラマの音楽”とはまったく違う角度からアプローチされていて、主人公の心を立体的にみせてくれるような音楽をつけてくださったんですね。甲斐さんが選んでくださった音楽によって、僕自身も助けられたシーンが多いように思います。

記者懇親会レポート写真― 甲斐さんのファンになった“きっかけ”を教えてください。
吉岡:日本のロックシーンの第一人者ともいえる甲斐さんとは、昔『ラストソング(1994年)』という映画をきっかけに知り合いまして、それ以来のお付き合いです。この作品で、僕は「博多から上京して成功を掴むギタリストの役」を演じたのですが、ある日“度胸だめし”のつもりで新宿の小さいライヴハウスで歌っていたら、そこへふらっと甲斐さんが現れまして、「こういう小さなハコ(会場)で歌っていても、演じる役の感覚は掴めないと思うから、よかったら福岡ドームのこけら落としにゲストで出ないかい?」と誘ってくださったんですね。その後も、僕の知らない昔の映画について教えてくれたりだとか、僕の出演作をみては的確な感想を言ってくださったりだとか…。本当に助けてもらっています。

― 今後、シリーズ化についてなど、予定はありますか?
北川P:原作は大山さんが書き進めていらっしゃるので、もちろんシリーズ化もできればいいなと考えています。ただ、原作とシナリオはまた別物なので、そのあたりは大山さんともご相談をさせていただきながら、納得のいく台本ができたら、パート2、パート3とチャレンジさせていただきたいなと思いますね。この作品をご覧いただいた方も、きっと物語の続きが気になるはずなので(笑)、その先のこともぜひドラマで描いていければなと思っています。

― 視聴者のみなさんへメッセージ
吉岡:ご家族と一緒にご覧いただいて、「家族と共に過ごせるありがたさ」みたいなものを百瀬以上に感じてもらえたら嬉しく思います。今だからこそ、家族揃って見られるようなドラマを作るべきだったと思いますし、最近では殺人事件が起こるわけでもなく“誰も傷つかないドラマ”ってなかなかないと思うので、ぜひ揃ってみていただきたいです。

北川P:便利な世の中になったぶん、今ではひと部屋に一台テレビがあるような時代になりましたが、家族みんなでリビングにある一台のテレビを囲んでいたあの頃が懐かしくもあり、そんな光景を取り戻したいとも強く感じています。そのためには、テレビマンとして「もっともっと面白い作品を作らなくてはいけないな」と思いますし、不必要に人が死んだり病気になったりするような、過激な内容でなくともいいような気がするんです。
これからも、見る人によっていろんな感じ方・捉え方ができるような、素敵な作品を制作していきたいと思いますので、ぜひご覧いただいて感想をお寄せいただけたなら幸いです。

PAGETOP