第六話より
クジラの残骸にて
リキ、タロ、ジロが雪上車を連れて、倉持、氷室、犬塚の待つクジラの残骸まで戻ってくる。
- 倉持
- リキ、来たか。よし。よくやった、ありがとう
- 犬塚
- タロ、ジロ、リキ…
- 氷室
- …
- 内海
- 倉持、氷室、犬塚!よく頑張ったな
- 鮫島
- 大蔵省。大丈夫か?足、折れてるんじゃねーか?
- 氷室
- ありがとうございます
- 鮫島
- おう!でも、お礼は、こいつらに言えよ
- 氷室
- (リキに) ありがとな。すまなかった
- 倉持
- …
- 犬塚
- …
- 氷室
- (リキを抱きしめながら) 生きてるよ。いま、生きてるよ
- 倉持
- ああ、生きてるよな。生きてるよ
昭和基地 ・ 食堂にて
横峰の子供たちの誕生日とクリスマスを祝う一同。
星野は越冬隊長としてそれぞれにお礼をいい、最後に倉持が代表して越冬中の感想を述べる。
- 倉持
- じゃあ、せっかくなんで、僕も真面目に。まだ終わってませんけど、本当にみなさん、ここまでお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。僕たちが、この南極に残した足跡は、ほんとに小さな一歩だったと思います。いや、もしかしたら、「 一歩 」 でもない 「 半歩 」 だったのかもしれません。でも、その 「 半歩 」 が、とても大事なんだと、今僕は、思っています。僕らが歯を食いしばって生き抜いたこの一年間は、第二次、第三次越冬隊に引き継がれて、必ず日本の国際社会復帰の足がかりに、今の日本の力になってくれると信じてます。だから、この南極で学んだことや経験したことを、しっかりと後に続いてくれる人たちに引き継ぎましょう。それが、第一次南極越冬隊の最後の使命だと思います。
昭和基地 ・ 表にて
犬たちに名前の書かれた札をつける倉持。
- 倉持
- こうしておけば、第二次越冬隊も色々分かりやすいだろうと思って
- 氷室
- … そうだな
- 倉持
- ただ、リキだけは連れて帰る。亮くんも遥香ちゃんも家族みんな待ってるもんな。なあ、リキ
- 氷室
- 子犬は?
- 倉持
- 子犬は置いて行くよ。樺太犬は一年で立派な成犬に成長するし、それに死んでいったベックやテツの意思も、ちゃんと引き継いでくれるだろうから
- 氷室
- 意思?
- 倉持
- ベックもテツも、仲間が帰ってくるのを見届けてから死んだだろ?俺、思うんだよ。犬たちにも、自分の生き方を自分で決める意思があるんじゃないかって
- 氷室
- …
- 倉持
- お前、これからどうするんだよ?
- 氷室
- …
- 倉持
- とりあえず、前に進むか
- 氷室
- お前にとやかく言われる筋合いなんかないよ
「 宗谷 」 にて
四方を氷で固められ、膠着状態が続く 「 宗谷 」。
白崎はアメリカの砕氷船 「 バートンアイランド号 」 に助けを求めることを決める。
- 岩城
- 外国に助けを求めるのは、わたしは反対です
- 白崎
- 岩城さん
- 岩城
- 第二次越冬隊隊長として、すべての任務は自分たちだけで成し遂げるようにと、国から強く言われてきたんです
(中略)
- 白崎
- …
- 岩城
- もう一度、考え直してください
- 白崎
- 今、一番大事なのは国のメンツではなく、第一次越冬隊の人命です。責任は私がとります
「 宗谷 」 ・ 廊下にて
- 氷室
- セスナを飛ばせるなら、今日中にでも第二次越冬隊を基地に送り込むべきじゃありませんか?
- 岩城
- 当初の計画通り、上陸は全ての条件が整ってから行う。俺もそれが一番いい方法だと思ってる
- 氷室
- それが政府の判断だから、ですか?
- 岩城
- …
- 氷室
- 私は南極での生活は、現場判断こそがすべてだと考えています。引き継ぎはあちらで行うべきです
- 岩城
- 氷室、分かってるだろ
- 氷室
- 一年間、南極を行き抜いたからこそ言っているんです。霞ヶ関にいたら分からないことでした
- 岩城
- 明日、天候が回復したら物資の輸送を始めるよ
- 氷室
- 岩城さん
- 岩城
- 国の計画なんだ
- 氷室
- …
「 宗谷 」 にて
セスナ機にて、「 宗谷 」 に戻った第一次越冬隊員。
6日間の救援日程を延長すべく、白崎は「バートンアイランド号」に交渉する。
しかし、ブリザードは激しさをまし、一刻も早く沖に脱出したいと連絡が入る。
脱出して、態勢を整えようという第二次越冬隊長の岩城。
時期が時期だけに、下手をすれば大陸に近づけなくなるという白崎。
- 倉持
- 脱出する前に、基地に戻らせてください。最悪のことを考えて、犬たちを船に連れて帰ってきます。
- 岩城
- 上陸を諦めたわけじゃないんだ。樺太犬は放っておいたってしばらくは大丈夫だろう。
- 倉持
- はい?
- 氷室
- あなたは、樺太犬の何を知ってるんです?
- 岩城
- 氷室。頼むから今は黙っててくれ
- 氷室
- いえ、そういうわけには…
- 岩城
- 白崎さん、乗務員の安全のためにも今すぐここを脱出するべきです
- 倉持
- 万が一、上陸できなくなったら、どうするんですか?
- 岩城
- 今は、犬の話をしてるんじゃない。人の話をしてるんだよ!
- 倉持
- !
- 岩城
- 今すぐ、ここを脱出するべきです
- 白崎
- 岩城さん、基地には犬たちがいるんです
- 岩城
- 今は犬よりも、船の心配をするべきだと思います
- 倉持
- 待ってください。今だったら、セスナ飛ばせますよね?
- 岩城
- 無茶いうなよ。すぐにここを離れるべきだよ
- 星野
- 白崎はん
- 倉持
- …
- 白崎
- … (葛藤して)
- 岩城
- 早くここを脱出しましょう
- 倉持
- あいつらは、一年間、南極の地で、お互いに命預けあって、一緒に闘ってきた仲間なんですよ!
- 氷室
- 倉持…
- 倉持
- 置き去りになんかできません!お願いします。セスナ飛ばしてください!俺が行きますから。俺が行きますから。早く !!