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第二六三回 ('09年8月2日放送)
 「民主党になったらこうなる」
 〜マニフェストを読み解く〜
 ゲスト: 塩川正十郎 氏 / 片山善博 氏

― 「政治不在」の現状に…
御厨

「最近の『こんな自民に誰がした』という塩川さんのコラムを、ちょっと読んでみます。『なんちゅうか、政治不在だね。政治センスがメタメタになっている。昔は、自民党が派閥抗争という形の自助努力をして、政治を動かしてきた。それが機能しなくなった』」

塩川

「うん」

御厨

「続きがあります。『自民党の派閥抗争が有効だったのは、経済がずっと成長していたから。政策を先送りする余裕があった。今は、それができない。政策を出さなければいけないのに、何をやったらいいかわからない。人気取りしか考えない。つまり。政治を理解しているか、いないかの話』と、こういう訳で、塩川さんの怒り爆発。相当厳しいお言葉ですね」

塩川

「今は、代議士は、議員全体がサラリーマン化してきた。そして使命感が無くなってきた。結局『当選・第一主義』になってきたんですね」

御厨

「なるほど」

塩川

「もう少し政治家も生活に節度をもって、清貧に甘んじろとは言いませんが、あまりにも所得の待遇が良すぎる。ここに職業として、しがみつく気持ちが出るんじゃないか。それよりも、もっと公共精神を持ってやって欲しいと思いますね」

片山

「政治家というのは、マックス・ウェーバーが言ってますが『責任感と情熱。それから先見性。考える力がないといけない』と言うんですね。しかし、今の日本の政治家には、総じて不足してると思います」

御厨

「なるほど」

片山

「例えば『今、日本の国で何をやらなければいけないのか?』その議題を設定する感性が、欠けていると思うんです。確かに『雇用問題、医療、福祉やらなければいけない』と言って、色んな事は言いますけど、本気で本当に、体を張ってでも、解決しようという気概が見られませんよね」


― 各党のマニフェストについて
御厨

「民主党のマニフェストが発表になりました。もし、鳩山政権になったら、これが私たちの生活を決めるわけですが、片山さん、この民主党の政策について、どうご覧になります?」

片山

「一番、特徴的なのは『本格的に霞ヶ関の改革をやろう』と意思表示をされた事だと思います。本気で政権を取って『霞ヶ関の今の体質を改めて、国民の為に仕事をする集団に変えていこう』という決意が見て取れますね」

御厨

「そのポイントはどこでしょう?」

片山

「それはね、やっぱり『予算編成なんかを財務省だけに任せないで、官邸主導でやろう』とか。人事なんかもそうですね。政治家で、重要な事を決めていこう。その気概が見えます。それが出来るかどうかは未知数ですから、やってみないと分かりませんけど」

御厨

「塩川さんは、ご心配なところは?来年度予算の16兆円が無駄の削減で9兆円ですが」

塩川

「私は、酷い政策だなと思いますね。実情を、もう少し勉強しておいてもらいたいです。多少は予算の削減は可能だと思います。けれども16兆円ですか、そういう大きなスケールで出来るんだろうか?」

御厨

「なるほど」

塩川

「それよりも、私はこの際に『公的負担』つまり保険料だとか自己負担ですね。それで税制ですね。こういったものを含めて、一体、国民はいくら負担をしないといけないのか?公的負担を決めて、その元における税制と保険のあり方を根本的に、検討してほしいと思います」

御厨

「片山さんはどうでしょうか?無駄の問題は色々言われてますけど、具体的には、どういう無駄があるとお考えになります?」

片山

「もちろん、今の予算の中に『これは無駄です』って分類されたものは無いんですよ。『全部必要だ』って事になってる。それを目的別に、整理すると、例えば『福祉』だとか『教育』だとか『地方税制』だとか色々ある」

御厨

「はい」

片山

「そうすると『福祉も削れない、教育も削れない』となるんですよ。しかし、中身を分析してみますと『福祉のための経費だ』と言いながら、実はちゃっかり官僚の天下り先に行っている場合もあるんですよ」

御厨

「なるほど」

片山

「全部が弱い立場の人の為に使われてるわけじゃなくて、途中でかなり水漏れがあるんですね。その実態が、実はよく分からないんですよ。これは官僚集団でないと分からない」

御厨

「はい」

片山

「だから『民主党は財源問題、弱いよ』と言われて、確かにそうなんですけど。今は、政権の外にありますから、本当に今の霞ヶ関で、何が行われているかを掌握するのは無理なんです。ですから、政権を取ってみて、本当にその無駄を暴く実力があるのかどうか、民主党は、試されると思います」

御厨

「塩川さん、例えば国から地方、商店街振興などでも迂回していく間に、いろいろと?」

塩川

「ピンハネ、ピンハネがあるんですよ。だから、最初の額から見たら、最後は3割ぐらいになっちゃってる。そういうのは沢山あります。ですから、私はこの際に官僚の見直し大事です。でも同時に、国民がもっと関心を持ってくれないとイカンと思いますね」

御厨

「なるほど。国民も目を光らせる」

塩川

「そうです。『頂戴、頂戴』で議員を通じて要求ばっかり出すのじゃなくて『こういう事をやってるじゃないか、けしからん』と、もっと国民の側から、深刻に評価・検討して欲しいと思いますね」

御厨

「片山さん具体的に、もっと皆さんが分かるような無駄ってありますか?」

片山

「例えば最近では、高速道路を1000円にしましたね。『良い政策だな』と、みんな思いますよね。実はあれは『ETCを付けさせる政策』が絡んでるわけですよ。対象は、ETCを付けたものだけです」

御厨

「そうですね」

片山

「ETCを付けると、一部がどこかの財団にコミッションが入るわけですよ。それが国交省の天下り先になってるんです。だから政府が一生懸命政策を推し進める裏には、必ず、受け皿的な天下り財団があるんですよ」

御厨

「なるほど」

片山

「『メタボ健診をやりないさい』と言って、やっきになって『健診率上げろ!』と言うのが厚生労働省の政策なんですが、ちゃっかり健診を引き受ける健診財団を作ってるわけです。そこが天下り先になってる」

御厨

「そうですか」

片山

「極端な事を言うと、あらゆる政策に天下りがセットになってるわけです。ですから、それを1つ1つ解体していくと相当の金額が出てくるのは間違いない」

御厨

「なるほど。一方の自民党は、民主党のマニフェストに対して激しく財源批判をしていますが」

片山

「確かに民主党はバラマキ的傾向があるんですけど、途中の中間搾取というか、水漏れがない政策が多いんですよ。例えば『高校の授業料を無料にしましょう』というのは、そこに官僚の天下りはあり得ないですよね」

御厨

「そうですね」

片山

「そういう意味で、確かにお金をばら撒くのですけど、官僚の利権と絡まない政策が多いなという印象を持ちます」

御厨

「塩川さん、自民党は国と地方を合わせて借金800兆円ですよね。この間の補正予算でも赤字国債10兆円ですよね。今まで自民党がこれだけ借金を作ってきて、民主党の財源のことをいえるのかどうか?」

塩川

「そうですね。私は自民党はもう少し活力を出して、国民にアピールするためには、給付の方ばっかり出してますけど、それだけではなく『儲けようじゃないか』という政策を積極的に出したら良いと思うんです」

御厨

「といいますと?」

塩川

「それはですね、1つは新規の事業を起こさせるような誘導をする。それから根本的に税制改正をする。税制改正をすることによって、企業に活力と新しい分野の開拓が起こってくると思うんです」

御厨

「なるほど」

塩川

「そういう積極的な面をやらないで、消極的な面ばっかりやってるから、国民は『またか』と、うんざりしちゃってるんですよ」

御厨

「一方、自民党もマニフェストを出しましたが、注目したいのは2%の経済成長と言ってるんですね。しかし、根拠があるのか?右肩上がりの古きよき時代なら分かるんですけど、片山さんいかがでしょう?」

片山

「これは分かりませんね。願望でしょうね。希望はあって良いんですよ。『国の成長をこれぐらいにしたい』というのはあって良いと思うんです。しかし、それに対してどういう実効性のある政策を打つのか、それがマニフェストに出てこないんで、ちょっと目標だけ決めて、道筋が決まってない気がしますね」

御厨

「塩川さんは、いかがですか?」

塩川

「そうですね、スローガンばっかり言っていて、仕組みを言ってないんですね。スローガンで『これをやります』と言ったら、『それについてはこういう対策を講じます』と。要するに、ハンドリングですね。これを考えていないから、ウロウロしちゃう」

御厨

「なるほど」

塩川

「一番典型的なのが『定額給付金』でしょ。去年、麻生さんが、言い出してから、ダッチロールを繰り返して、やっと今年の5月に支給が始まって。ああいう無様な事はやってはイカン」

御厨

「はい」

塩川

「ですから経済成長2%は十分可能ですよ。その為には、例えばの経済刺激の為に、税制を改正する。あるいは特許法の見直しを考えるとか、あるいは外資との提携をどうするとか、そういう具体的なことはナンボでもあるんです」

御厨

「なるほど」

塩川

「ある程度、規制緩和するとか、そういう事を出して、刺激をしていかないと、ただ企業の努力だけを待っているのでは、なかなか難しい。今は、企業はそれだけのリスクを取ろうとしませんからね」

御厨

「そうですね」

塩川

「一番良い例が金融でしょ。全然、金融が動いてないじゃないですか。金融が動かずして、経済成長なんかあり得ないですよ」