福島の山奥で一人で暮らしていた石崎美恵さん(87歳)と知り合ったのは15年以上前だ。障害のある人でも利用できるキャンプ場の管理人をしていた。彼女自身も足が不自由だ。人里離れた山奥で犬や猫や鶏と暮らす石崎さんを人は「女仙人」と呼んだ。 東京生まれの東京育ちだが、突然の病魔で都会では生活もままならなくなり、60歳を過ぎて福島の山奥で生活する道を選ぶしかなくなった。わずかな年金でも暮らせるこの場所を、彼女は「終の棲家(ついのすみか)」と決めていた。 ところが、平穏な暮らしは未曾有の大災害で暗転する。東日本大震災と原発での事故。崖崩れで山道は通れなくなり、足の悪い石崎さんは警察官達に担架で担がれて山を下りた。 石崎さんが「終の棲家」を追われたのは、実は初めてではなかった。今から70年前の「東京大空襲」。石崎さんは16歳の女学生だった。B29から焼夷弾が降り注ぎ「火の粉が赤い雪になって降ってきた」。逃げ込んだのは学校のトイレだった。そこが命の分かれ目となる。
取材:丸山 拓(TBS報道局)
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