1941年12月8日、日米開戦の火ぶたを切った真珠湾攻撃で、祖国を引き裂かれた男がいる。元ゼロ戦操縦士の南新　保さんだ。ハワイで生まれ、7歳で日本の土を踏んだ。鹿児島県の旧制中学から海軍予科練に入隊し、ゼロ戦の訓練に明け暮れた。

敗戦後、予科練の同級生は南新さんが苦労していると耳にする。皆、彼が日系2世だったことを知らなかった。戦争が終結し、日米両方の国籍を持つ南新さんは、生まれ故郷ハワイへの帰国を願うが、許されなかった。志願兵だったことと、アメリカが恐れたゼロ戦の操縦士だった経歴が、問題視されたのだ。

14年目にして帰国を許され、現在オアフ島の真珠湾に近い老人ホームに住む南新さんは、「祖国は米国、とは言えないが、生まれ故郷はハワイだ」と言う。帰国して55年。初めて足を踏み入れた真珠湾を前に、南新さんは黙って海を見続け、「もう絶対、来ない」と口にした。そこには貧しい農家で、ハワイ移民とならざるを得なかった両親への思いや、憎くもない米国と戦争するために予科練を志願した時代背景など、複雑な感情が絡み合っていた。