京都を一望に見渡す東山の頂上は、桜と紅葉の名所である。そして、桓武天皇が京都に都を開く際、安寧を祈願したと伝えられる「将軍塚」がある。いわば京の都発祥の地、そして天皇家ゆかりのこの場所に2014年秋、巨大な木造建築が建ち上った。この建物、実は京都市の北部にあった大正時代建設の武道場だった。 築100年のこの建物、老朽化が目立ってきたため、管理していた京都府が廃棄を決めた。それを知って、移築・保存に動いたのが、最澄が源流の古刹、青蓮院門跡の東伏見慈晃門主だった。 天皇家所縁の青蓮院には、平安初期に描かれた国宝の仏画「青不動明王」が受け継がれてきた。だが、門跡寺院の門主は代々、皇族や五摂家の子弟で、この秘仏が公開されることはなかった。この形を変えていこうと考えたのが、現在の東伏見門主だった。 「ご縁」と東伏見門主は言う。このタイミングで廃棄処分となった武道場を、護摩堂として東山の頂上に移築すれば、そこで青不動を多くの人に公開することが出来る。「門跡寺院の骨格を維持することは大切だが、博物館にしてしまうわけにはいかない」。 前代未聞の大工事が始まった。大正時代の技術者や宮大工の知恵が詰まった大規模木造建築の移築、そして国宝仏画の引越し。3年を経てそこには、信仰、観光、さまざまな目的で数多くの人が訪れる、新しい門跡寺院の形があった。
制作:TBSテレビ
企画・取材:岩城浩幸(TBS報道局) 取材・編集:清重宗久(TBSプロネックス) |
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