![]() ![]() 今から80年前、中国の日本人社会を驚かせた囲碁の天才少年がいた。福建省からやってきたその少年は、ほどなく日本へ渡ることになる。当時の中国囲碁界は、少年の活躍の場足りうるところではなかったのだ。犬養毅らが、渡日に動いたという。 日本へ渡った少年は、最強の棋士への道を越えて、伝説の棋士への道をたどっていく。呉清源・・・。その名は、1930年台には日本全国に知らぬ人のないものとなった。強いだけではない。親友でライバルとなった木谷實と「新布石」を発表し、解説を通じて囲碁の普及にも大きな影響を与える。「碁は勝負の面から見れば"武"、すぐれた棋譜を残すという想像の面では"文化"」という持論は、早くから体現されていった。 ![]() 少年は今、93歳。対局の世界からは引退して間もなく半世紀となる。今は秘書を兼ねる女性棋士、牛力力さんに指導と解説を続ける日々だ。これが力力さんの作業を通じて、日本と中国それぞれで紹介され、多くの囲碁関係者に影響を与え続けている。"武"の世界からは退いたが、"文"の世界では現役であり続ける。「追求するものは真理と囲碁」。少年の心は健在、だから今も現役である。 その人生を描いた映画が完成した。中国の田壮壮監督が久しぶりにメガホンを取り、主役には台湾の俳優が起用された。だが、それ以外の俳優は日本人ばかり、ロケも殆どが日本で行われた。大半のセリフが日本語である。現役の人物が映画化されることも含めて、異色ずくめの作品である。 日中国交正常化35周年の今年は、日中スポーツ文化交流年と位置づけられている。その一環で11月に公開される映画は、そのはるか以前から日中間の歴史の狭間に身を置き続けてきた"少年の心"を描いている。この作品を機に、今、伝説の棋士が語られる機会が増えている。 「中和」。呉清源さんは、今も自ら掲げる理想を追求している。寡黙であり続けるその人が発し続けるメッセージを追った。 |
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