![]() ![]() 河崎寛さん、27歳。統合失調症のなかでも、仲間から「爆発系」と呼ばれるタイプだ。家族や友人に向かって爆発するだけでなく、ついには自宅に放火して全焼させるという事件も起こしてしまった。 その河崎さんが、北海道浦河町にやってきたのは5年前。爆発をくり返しながら、この10月、ようやく退院して町中の共同住居に入ることになった。悪循環から彼を救い出したのは、仲間とともに進めた「爆発の研究」、そして研究を支えた仲間と、彼らをつなぐ場の存在であった。 河崎さんと、彼を支え、そしてまた彼に支えられるさまざまな精神病の仲間たち。彼らの再生への作業を進めるのは、浦河町で20年あまりにわたって続いてきた「べてるの家」と呼ばれる精神障害者のグループの活動だった。 ![]() そこで問われるのは、どうやって精神病を治すか、ではない。精神病を治した先になにがあるのか、それを考えることだ。いや、そもそも治すとはどういうことか、それを考えることでもある。 家を燃す子どもたちは、なぜ燃すのか、なぜ燃さなければならないのか。そこであぶりだされるのは、失われた人間関係であり、そうした無効な人間関係のもとで存在することへの根源的な不安でもある。 彼らの進める再生への作業は、「育ち直し」でもある。育ち直しは、人はなんのために生きるのか、なぜ生きるのか、そうした疑問を自らに引き受けて考え続けることだ。疑問を深めること、悩みを悩むこと、人間としての苦労を取りもどすこと。そのすべてを笑いとユーモアの精神につつみながら、浦河という町で病気は宝物になり、人は哲学者になる。 河崎さんの退院経過を通して見えてくる、哲学者の群像を、精神科医やソーシャルワーカーなど、ともに生きる人びとの関わりとともにお送りする。 |
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