人物デザイン・柘植伊佐夫が語る『ヘブンズ・フラワーの世界』

第2回「新東京区、生きる人々」

入り乱れる組織、そのルック

ここに登場するいくつかの団体・組織があります。第七地区で医師をする片桐が、自費で運営する孤児院が 「 ラストガーデン 」。身寄りのない子供たちの面倒をみる… これは表向きの顔で、拾われた子供の中から優れた才能を選抜し育て上げる暗殺集団でした。シオン、アイ、ラン、ナルキはここで育てられ殺しの訓練を受けた。中でもアイとランは才能に長けておりライバル同士でした。しかしランはラストガーデンを飛び出し、ナルキは優しすぎるゆえに暗殺者になれず、以降シオンの指令のもとにアイが殺しを行っています。

指令を受けるためにアイが使用する無線端末が、首元に見え隠れしている 「 声帯ベルト 」 で、これは作品の人物デザインアイデアを出して行く中で、指令のやりとりは何によって行っているのか、それが無線であった場合、どのような形かを考え、「 首輪 」 のようなものが良いのではないかと、この形と名称を提案させていただきました。シオン、またはラストガーデンからアイが 「 拘束されている象徴 」 になっています。

ラストガーデンのアイと暗殺者アイは、まったく異なるルックを用意しています。ラストガーデンは比較的不定形なファッション、言ってみれば 「 森ガール 」 のような雰囲気で、彼女の柔らかい印象を強調しています。一方、暗殺者アイは少し制服的で、乗馬パンツ的な、どこか軍のような雰囲気を感じさせるものにしています。この基本コンセプトは岡本チーフ演出によるものです。暗殺を行う場合だけ、アイは儀式的な意味合いでウィッグを被りますが、この姿は第二エリクサーにおける片桐のヘアスタイルと連動させています。このドラマの中で 「 ボブヘア 」 は重要な意味を持ち、「 力 」 や 「 二重性 」 を象徴しています。

中国系マフィアの 「 星龍 」。これを仕切るのが本田博太郎さん演じるシャオガンです。星龍のメンバーはスーツ姿で、白と黒の組み合わせによって階級が定められています。シャオガンは上下白。この姿は作品中ほかに誰もいません。息子のプーシェンは全身黒。そして部下はシャツが白。この中にラストガーデンから飛び出したランがいます。この姿はとてもモダンなもので、ブルーのナイロン素材に黒が斜めに切り込んだ特徴的なデザインです。竹富聖花さん扮するランが被っている毛皮の帽子は、ロシア風のものですが、このアイデアははじめて竹富さんとお会いした時、彼女の持っていたアヒルのボールペンがとても可愛く、その頭部が白いフワフワのフェイクファーで出来ているのを見て思いついたものです。マフィアの暗殺者ですが、デザイン発見はすこしユーモアがあります。

それぞれの勢力はアルカナの秘密を握る 「 赤い手帳 」 を探索します。片桐のラストガーデン VS シャオガンの星龍という構図の中でアルカナの争奪戦が隠密裏に繰り広げられているのが2060年の日本です。植生が破壊された日本にさまざまな思惑で入り込む隣国。虚々実々のかけひきの中で、日本政府も生き残りをかけた対応を迫られて行きます。

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