監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”|日曜劇場『ブラックペアン』

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監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”
本作の医療監修を担当している山岸先生に、
「ブラックペアン」にまつわるさまざまなギモン
お答えしていただくコーナーです

vol.92話医学的解説①

2話では我々心臓血管外科医とくに血管外科医にとって代表的な病気と、この先の未来には絶対にぶちあたるであろう、同時に心臓外科医がもっとも恐れている病気(合併症)が出てきました。腹部大動脈瘤切迫破裂と僧帽弁手術後左室破裂です。

腹部大動脈瘤(切迫)破裂とは

心臓から出た血液は大動脈の中を流れ、中小動脈、毛細血管を経て全身の細胞に分配されます。大動脈は心臓から出ると大動脈基部、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈…腹部大動脈、総腸骨動脈、大腿動脈となり足の動脈となって足先まで血液が流れることとなります。
足の付け根を触るとドクドクと血管が拍動しているのですが、それが大腿動脈です。
今回はお腹にある腹部大動脈が瘤となってしまった腹部大動脈瘤の患者さん(小山)が救急搬送されてきます。腹部大動脈は通常は2〜3cm程の直径です。健康な大動脈の壁はゴムのように弾力があり、多少血圧が上昇しても、その圧力を受け止めて滑らかに血液が流れるようになっています。しかし、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、タバコ、ストレス、家族歴…、血管に悪い条件がそろうと、血管は弾力性を失っていってしまいます(動脈硬化)。動脈が硬くなると、血液の流れる圧力を受け止めきれずに動脈は拡大してきてしまいます。
一般的に硬くなると丈夫になるように思われますが、動脈の場合は硬くなる=脆くなるのです。風船と一緒で、大きくなればなるほど破裂の危険性が増します。どんどん大きくなって直径6cmを超えると1年間で約10%の方で破裂してしまうというデータもあります。
この病気の怖いところは大きくなってきていてもほとんどの患者さんは気づかない(無症状)というところです。腹部大動脈はお腹の一番深くに(背骨側)にありますので、なかなか大きくなってきてもわからないのです。健康診断などで腹部エコーなどを行っていただく、または他の病気の精査でCTをとってたまたま見つかるというパターンが多いです。
たまたま見つかり治療適応の方は手術となり、治療適応は通常45〜50mm以上で考慮されることが多いです(治療には開腹といってお腹を切って行う人工血管置換術とステントで瘤をカバーするステントグラフト留置術があります)。
瘤の発見が遅れ、バーンと破裂してしまうとほとんどの方は助からず、病院にたどり着けない方が大半であります。中にはゆっくりと破裂する場合あり、2話で救急の医師が言った「破裂しかかっています」という状態を切迫破裂と表現します。切迫破裂であれば、早急に手術室に運び適切に処置をすれば何とか救命できることが多いです(それでも非常にリスクの高い手術になります)。

腹部大動脈人工血管置換術

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文字通り腹部の大動脈を人工血管に置き換える(置換する)手術です。
大動脈瘤が破裂していない状態で、やりやすい場合は我々心臓血管外科医が行う最初の大きな手術となります。私自身も初期研修医2年目の時にいきなりやってみろと言われ、今回の世良先生とまったく同じ状況となりました(その時は渡海先生とは違い、非常にやさしい上司がサポートしてくれました)。腹部大動脈瘤を英語表記するとAbdominal Aortic Aneurysm、頭文字をとってAAAと書き、トリプルエーとかスリーエーとか読みます。「あいつ、スリーエー1年目でやらせてもらったらしいよ」。とか、「あの先生はトリプルエーを1時間半でやったらしいよ」とか、よく我々をざわつかせる病気でもあります。しかし(切迫)破裂となるとその難易度は上昇し、非常に難しい手術となります(通常の手術でも難しいタイプのAAAはあります)。なぜならそもそも破裂=出血しているので患者さんの全身状態が悪い、お腹の中が血液だらけでどこに血管があるのかわからない、さらに破裂するほどの動脈瘤を持っている患者さんの血管は非常に脆いので、人工血管を縫い付けても血液が漏れて出血してしまうことが多いからです。
渡海先生と世良先生が手術している画像が出ていました。よく見るとY型の人工血管を使用していますが、ほとんどの腹部大動脈瘤の人工血管置換術は、このY型人工血管を使用して行われます。手術は大動脈瘤を人工血管に置き換えるのですが、動脈に人工血管を手縫いで縫い付けるのです。お腹の中心にある腹部大動脈に人工血管を縫い付けて、その後、右の足に行く動脈(右総腸骨動脈)にY型の片方を縫い付けて、左の足に行く動脈(左総腸骨動脈)にY型のもう片方を縫い付けて終了となります。筒形の動脈に、筒形の人工血管を縫い付けるのは結構難しい作業ですが、我々心臓血管外科医の基本手技でもあります。縫い目が綺麗でなかったり(間隔が一定でない)、糸を引っ張りすぎて動脈の壁が裂けてしまうと、大出血してしまいます。動脈の壁はすべてが同じ硬さではなく、硬いところと柔らかいところで針を刺す力を微妙に変えて縫う必要があります。その力加減を間違ってしまうと、動脈の壁が裂けていってしまうのです。
ペアンを外して世良先生はまさに大出血を起こしてしまいました。ここは演出上ペアンを外しているのですが、正確に言うとペアンではなく、(人工血管用)遮断鉗子を外します。ペアンは少し挟む力が強いので人工血管を挟むにはあまり適さないという先生が多いと思いますので、若い外科医の先生方はブラックペアンの真似をすると上司に怒られる可能性がありますので要注意。
次回は世良先生の実力と僧帽弁手術後左室破裂について解説します。

PROFILE

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イムス東京葛飾総合病院 
心臓血管外科
医長 山岸俊介
日本外科学会外科専門医
日本心臓血管外科学会専門医
2006年慶應義塾大学医学部卒業。
仙台厚生病院、埼玉医大国際医療センター、イムス葛飾ハートセンターを経て、現在イムス東京葛飾総合病院心臓血管外科医長。
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