帰ってきた!弁護士豆知識99.9のQQ.Q

日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士- SEASON II 毎週日曜よる9時

帰ってきた!弁護士豆知識99.9のQQ.Q

リーガル・エンターテインメント『99.9-刑事専門弁護士- SEASONをより深く楽しんでいただくためのコーナー!弁護士や刑事事件に関するさまざまなQuestionを、ドラマの法律監修の國松崇さんに投げかけました。

Q9.「再審」そして、『99.9-刑事専門弁護士-SEASONⅡ』法律監修を終えて

99.9をご覧の皆さん、最終話はいかがだったでしょうか。SEASONは、刑事司法最大の壁、開かずの扉といわれる「再審」を見事勝ち取ったところで幕を降ろしました。
最後のコラムでは、最終話の大きな軸になっていた「再審」について解説したいと思います。
写真 ではまず、再審の前に日本の裁判制度をおさらいしましょう。ご存知のとおり、日本の裁判制度は「三審制さんしんせい」というシステムが採られています。地方裁判所で納得のいかない判決を受けた当事者は、高等裁判所に改めて審理するように「控訴こうそ」することができ、さらに高等裁判所の判決に納得がいかなければ、最高裁判所に「上告じょうこく」をして、要するに同じ事件で、合計三回の審理を受けることができるようになっています。ということは、最高裁判所での審理はいわばラストチャンスであり、ここで出された判決が、最終的な判決として確定するわけです。でも待ってください。たとえ3回チャンスがあるといっても、事件の捜査や裁判は、神様ではなく、その当時の常識や科学技術に基づき、人間が行うことです。そうすると、実は決定的な無罪の証拠が裁判まで発見されずに今も眠っていたり、当時は重要な証拠とされたものが、現在の科学技術で解析した結果、誤りが含まれていた、なんてことが絶対にないとは言い切れないですよね。そのようなことを想定して、いわば逆転のチャンスとして認められた制度、それが「再審(請求)」なんです。 写真 さて、改めて「再審」の意味ですが、「再び審理すること」を指します。つまり、再審とは、最高裁判所のさらに上の機関が事件を審理する、といった種類のものではなく、文字通り「もう一度一から有罪判決を出した裁判をやり直すこと」を意味しています。したがって、再審請求の提出先(=再審を認めるかどうか判断する裁判所)は、有罪判決を最初に出した裁判所になります。第9話でいえば、久世は一審で死刑判決、その後高裁に控訴、最高裁に上告もしましたが、全て棄却という結果に終わり、最初の死刑判決がそのまま確定。そのため、最初に死刑判決を出した東京地方裁判所が再審請求の提出先になり、結果として、東京地方裁判所の川上裁判官が再審請求の審理を担当することになった、という状況だったわけです。 写真 肝心の「再審請求」ですが、最初に言ったとおり「開かずの扉」とも言われ、再審開始の決定が出ることはほとんどありません。というのも、一度正式な裁判を経て確定した事件についてバンバン再審を認めていたら、現在の制度が骨抜きになってしまいますから、そもそも、当時の有罪判決が誤りであったことを示す決定的な証拠が新たに発見された(=新証拠の発見)といった事情がない限り、再審は認められない仕組みになっているんです。ということは、逆に言えば、再審開始決定が出れば、その後行われるやり直しの裁判(=再審)では、ほぼ確実に無罪が出る、という状況だともいえます。そのため、ニュースなどでは、最終的に無罪が確定する再審そのものではなく、その前の再審開始決定の段階で「実質無罪が決まった」として、大きく報じられることが多いです。 今回、深山達は、ガソリンスタンドの防犯カメラ映像の時間のズレ、天かすの自然発火の可能性などを突き止め、少なくとも、久世の有罪判決を支えていた根拠を揺らがせることには成功しました。しかし、相手はあの川上。久世に無罪を言い渡すべき決定的な証拠を突きつけなければ、勝負は危うい…。そこで最後に深山達が採った行動は、「真犯人の存在こそ新証拠である」という究極の一手でした。事実を最後まで追い求めようとする深山らしい、最高の一手でしたね。松本さんの終盤の演技は、目の前で見ていて、もはや本物の会議室で、本物の弁護士である深山先生が、本物の裁判官や立会人に語り掛けているようにしか見えないほど、キレキレでした。 写真 さて、このコラムも本日が最後の更新です。短い間ですが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。また、これで法律監修としての仕事も終わりです。もちろん、ドラマですから、作品の出来には賛否両論あるでしょうし、演出にも現実とは違うところがなくはなりません。ですが私としては、このドラマを通じて、視聴者の皆さんが今まで知らなかったような刑事事件や裁判の世界に興味を持ち、色々とあれこれ想像したりしながら、テレビの前で、学校で、職場で、この国の司法制度のことを考えるきっかけができたとすれば、それだけでこの仕事をやってよかったなあと思えます。また、ツイッターなどを見ていると、99.9を見て法学部の授業が楽しくなった!とか、絶対将来は弁護士になる!といった感想も目にします。いやもう、そんなの見たら泣いちゃいますね。法律や裁判というのは、決して遠い世界の物語ではなく、実は皆さんにとってすごく身近なところにある。少しでもこのドラマを見た方にそれが伝わったのであれば、もう言うことナイチンゲール!(笑)

Q8.遠隔操作で殺人??直接手を下していない人間が罪に問われるケースとは?

さて、物語はついに終盤を迎えました。ようやく川上裁判官のキャラクターもはっきりしてきて、最終話に向けた土台が整いましたね。皆さんも最後まで是非深山たちの奮闘を見守っていてください!(できればこのコラムも…) ということで、第8話の弁護士豆知識改め法律講座いきましょう(笑)。第8話の事件ですが、これまでの事件のパターンと少し違うところがありましたね。被害者の上杉は犯人に直接殴られたり、刺されたりして殺害されていません。というのも、検察の見立てた事件のストーリーはこんな感じでした。
西川が毒を羊羹に入れる→羊羹を藤堂事務所に送付する→宅配業者が毒入りの羊羹を藤堂事務所に届ける→毒入り羊羹を京子が箱から取り出す→氷室が羊羹を切り分ける→上杉(被害者)が自分で羊羹を取って食べる→毒が作用して上杉が死亡する。要するに、毒が注入された羊羹は、被害者の上杉の口に入るまでの間に、色んな人の手に渡ってリレーされているということです(真相は藤堂が毒入り羊羹を準備していてすり替えて、ということでしたが)。
となると、検察官として法律的に検討しなければならない問題が出てきます。西川は直接手を下したわけでもなく、これだけ間に人がいて西川が直接毒を飲ませたわけでもないのに、殺人罪を適用していいのか?という問題です。さて、ストーリーを見ればわかるように、この問題について今回検察は、西川を殺人罪で起訴するという判断をしました。では、その理屈を説明しましょう。
刑法の世界には間接正犯かんせつせいはんという概念があります。よく例として挙がるのが、医者が患者を殺そうとして「この薬を患者に注射しておいて」といって看護師に毒を渡し、その看護師が毒とは知らずに患者に注射して殺してしまった、というケース。この場合、確かに物理的な意味で手を下しているのは看護師です。しかし、看護師は医者から正しい薬だと言われて渡されたら、言われたとおりに注射するのが仕事ですよね。刑法の世界では、この場面における看護師は、もはや犯人である医者から見てコントロールが可能な「あやつり人形」と一緒だと考え、その状況を利用しようとして毒物を渡した行為そのものが殺害行為である、と説明されているんです。ポイントは言わずもがな、間に挟まっている人間が、どれくらい犯人の思い描く通りに動いてくれる状況だったか、ということになります。
では今回の検察の見立てを解析してみましょう。まず配達業者ですが、当然配達業者は頼まれた住所に頼まれた物を届けるのが仕事です。なので、典型的な間接正犯の事案だといえそうですね。やや難しいのは京子と氷室の動きですが、検察は、藤堂事務所宛に羊羹の差入れが届けば、少なくとも「誰かが機械的にこれを取り分け、藤堂事務所の誰かが口にする」という範囲では機械的に起こることだ、と判断したということでしょうね。そうすると、今回起訴の対象となる殺害行為は、上杉は「毒入り羊羹を用意して、配達業者に藤堂事務所に届けさせ、藤堂事務所の人間に取り分けさせ、上杉に自ら食べさせた」という長ったらしいものになっているはずです。
さあ、いよいよこのコラムもあと一回。感想お待ちしています(笑)

Q7.佐田が容疑をかけられた「業務上横領幇助」って要するにどういうこと?

いやー、第7話では佐田が逮捕されるという衝撃の展開でしたね。これでなんと刑事事件ルームは逮捕者2人目です(笑)ということで、佐田が逮捕・起訴された容疑は、「業務上横領幇助ぎょうむじょうおうりょうほうじょ」という罪でした。なんじゃその早口言葉は…と思った方のために、毎度おなじみ。ここで簡単に解説してみます!
この「業務上横領幇助」ですが、実は「業務上横領罪」と「幇助」に分解することができます。なので、順番に説明します。
まず、「横領」とは、大雑把にいえば「自分の管理下にある他人の物やお金を、自分のものにしてしまうこと」です。ん?「窃盗」と何が違うの?と疑問に思われるかも知れませんね。分かりやすくするために、あえてここでクイズを出してみましょう。仮に、他人の物やお金を、「自分の管理下」からではなく「他人の管理下」からモノにした、とした場合、さて、どうなるでしょうか。そうです。これが「窃盗」です。要するに、誰かから預かっているような他人の物やお金を自分のモノにするのが「横領」、単純に他人自身が持っている物やお金を自分のモノにするのが「窃盗」ということですね。同じような行為なのに、なぜわざわざ区別するのか?刑法の世界では、他人の管理下にある他人の物を奪うより、自分の管理下にある他人の物を奪う方が「より誘惑的」なので、実行を決意するハードルが低いと考えられています。なので、窃盗よりも罪が軽い犯罪として、別に横領罪が設けられており、法定刑も窃盗が最大で懲役10年であるのに対し、横領は最大5年と短く設定されています。このため、裁判では、「他人の物を奪った」という行為が、「窃盗」なのか「横領」なのか、ハッキリさせる必要があるということになるんです。なお、「業務上横領」とは、物を他人から預かっている状態が「仕事なのか否か」という形で区別されます(仕事で預かっている物を横領する方が悪質なので単純な横領よりも重い)。
では、次に「幇助」いきましょう。実は刑法には「幇助罪」という単独の罪はありません。幇助とは、「他人が犯罪を行うのを手助けすること」を指します(共犯の一種)。したがって、そもそも自分以外の誰かが主犯として犯罪を行わない限り、幇助も成立しないということになります。ということは「主犯とされる人間が罪を犯したことが相当ハッキリしていないと、幇助が成立するか否かを判断することは非常に難しい」ということになり、これが舞子の「公訴を取り下げるべきだ」という主張に繋がっているんですね。
さて、では今回のストーリーをもとに答え合わせをしましょう。検察の見立ては次のとおりです。①緒方は会社の社長という立場で、当然、業務として会社の資金を管理している(=業務上)、②緒方は、自分が管理する会社の資金3000万円を、自分の権限で子会社に振込ませ、最後は自分のモノにした(=横領)、③佐田は、緒方が業務上横領しやすくするため、子会社を設立するようアドバイスし、設立も手伝った(=幇助)。よって、佐田には「業務上横領(の)幇助」が成立する、という容疑がかけられたわけです。
ところで…、最近気づいたのですがこのコーナー、もはや豆知識じゃなくて法律講座みたいになってきていますね。果たしてこのままでいいのでしょうか(笑)。

Q6.『99.9』ではすっかりおなじみの「訴因変更」、結局どういうこと?

※ちょっと長いですが、先週一回お休み分のおまけに、松本さんの質問エピソード2もどうぞ!

さてさて、約束通り第5話の皆さんの反響を見ますと、やはり予想していたとおり、「訴因変更」って何だよ!!という声が多かったですね。前作から度々登場するこの訴因変更。実はとっても難解な制度で、毎年、司法試験の受験生を悩ませます。明石受験生のためにも(笑)、ここで簡単に解説してみましょう。 写真 まず、「訴因」とは何か?平たくいえば、「検察官が、『被告人が行った犯罪事実』として、裁判所に審理を求める事実」のことです。なんでこんなに回りくどい言い方なのか…、ポイントは、「この世に一つしか存在しない神様からみた真実(絶対的真実)=訴因」ではなく、あくまで、検察官が証拠をもとに「こうだったはず」と考えたストーリーが「訴因」なんです。検察官の仕事は、証拠をあれこれと検討しながらまさにこの訴因を特定し、刑事裁判にかけることであり、一方で裁判官の仕事は、実は絶対的真実の見極めではなく、「検察官が主張する訴因が証拠上成立するかどうか」を判断することなんです。したがって、理屈の上では「現在までに検察官が知っている証拠や事実関係」以上のものが訴因として出てくることはあり得ない、ということになりますね。では、万が一検察官が知らなかった事実や証拠が新たに発見されたら…?この問題をどうするか、という視点が、「訴因」を事後的に変更できるかどうか、という問題につながるわけです。 写真 もし、新しく見つかった証拠から、検察官が構成した「訴因」が明らかに間違っていることが分かれば、裁判所がその間違った訴因を認定することは当然できません。裁判官は「法と証拠に基づき裁判を行う」という絶対的ルールを背負っていますからね。そうすると、例えば日付や時間が証拠上少しでも訴因からズレてしまうと、理屈の上では、裁判所は無罪を出さないといけません。分かりやすく例を出しましょう。仮に「被告人は1月1日に盗んだ」という検察官の訴因(見立て)が間違っていて、「実は被告人は1月2日に盗んだ」という証拠が新たに出てきたとします。上記のとおり、裁判所は、あくまで「検察官が主張する訴因が成立するか否か」を判断するのが仕事ですから、「1月1日に盗んだ」という事実を証拠上認定できないときは、真実の犯行が2日だろうが、また別の日だろうが、「訴因は不成立=無罪」という判断以外に選択肢がないことになりますよね。そうすると、たとえ2日に被告人が盗んだことがはっきりしていても、裁判所は一度無罪判決を出し、検察官は改めて2日犯行を前提とする調書を作成し、さらに起訴して最初から裁判をやり直し、2日の犯行で今度こそ有罪判決…ということになりますが、被告人自身の負担も含め、これは相当の時間と労力を必要とします。要するに、ヘタをすると誰得状態になってしまうわけですね。そうです。この事態を避けるために認められた方法が、後に出てきた証拠関係等に基づき、いわば訴因をカスタマイズすること=「訴因変更」なんです。 写真 このように、解説してみると一件合理的なように聞こえる訴因変更ですが、弁護人が忘れてはならないのは、「訴因変更には限界がある」ということです。訴因を覆す証拠を見つける度に訴因変更されてしまったら、今までの苦労は全て水の泡、なんてことにもなりかねませんし、そればかりか、変更された事実に対して何の反論もできないまま有罪にされたら、当然「ちょっと待てーい(゜Д゜)」ってなりますよね。なので、訴因変更を行う際は、被告人サイドに新しい訴因に対抗するための準備期間を与えなければなりません(不意打ちの禁止)。また明らかに度を超えた訴因変更はそもそも法律で禁止されています。第5話では、舞子が強引な訴因変更を非難しましたが、まさに訴因変更が許されるかどうかは、被告人からすれば有罪か無罪かを左右する重要な局面なんです。舞子もだいぶ弁護士らしくなってきましたね! 写真 では最後におまけ、前々回あたりで好評だった松本さんの質問エピソードを(笑)。
第5話の法廷シーンで、舞子に向かって「裁判官の心証が悪くなろうが事実は変わらないでしょ」と話しかける場面があったのを覚えていますか?このシーン、最初は舞子の方に半身で振り向きながら、深山が普通にボソッと言うイメージの脚本でした。さて撮影当日、松本さんから呼ばれ、「後ろを完全に振り返って喋っても大丈夫ですか?」と聞かれました。事件と無関係な私語はもちろん裁判官から注意されますが、まあ一瞬の出来事として考えれば違和感なく見られるだろうと判断し、OKを出しました。さて、どういうイメージなのかな?と思っていたらそのシーンは…、皆さんご覧になったとおりゲコ(笑)

Q5.民事で無罪??第4話で皆さんからいただいた質問にお答えします!

第5話をご覧になったみなさん、いかがでしたか?ついこの間始まったSEASONも、あっという間に折り返し地点まで来ましたね。ここにきて、遠藤裁判官(甲本雅裕さん)や川上裁判官(笑福亭鶴瓶さん)のキャラクターも明らかになってきました。裁判所まで加えた法曹界の人間模様については、なかなか他の作品でも見られないと思います。ドラマなのでもちろん全部がリアルというわけではありませんが、これからの展開もぜひ楽しみにしていてくださいね。
ところで、実は皆さんがブログやツイッターで毎回どんな感想を書いているのか、放送終了後、簡単にチェックしています(鋭い指摘などを見るとドキッとします笑)。第4話に関しては、「刑事裁判ではダメ、民事裁判で争う!」という展開について、もう少し詳しく知りたい、という声が多かったように思いました。そこで、せっかくこういう場をいただいているので、ここで簡単に解説してみたいと思います。
写真 まず、第4話で最初犯人だと目を付けられていたのは、自殺した岩村(ユリオカ超特Qさん)でしたね。もし岩村が生きていたと仮定すれば、彼が逮捕・起訴された上で、刑事裁判を受けることになります。そうすれば、いつもと同じように、斑目刑事事件ルームの面々が、岩村の無罪を導いたことでしょう。しかし、残念ながら岩村は死亡しています。日本では、被疑者が死亡した場合、その被疑者がどれだけ疑わしくても、制度上、刑事裁判が開かれることはありません。このことは逆に言えば、刑事裁判で岩村の無罪判決を勝ち取るチャンスも失われてしまった、ということを意味します。しかも、今回検察は証拠上岩村が犯人だと決めつけていましたので、ここから改めて徹底的な捜査を行い、彼らが真犯人を見つけてくれることは期待できそうにありません。
写真 そこで、深山達が思いついた方法が「民事裁判で実質的に無罪を勝ち取る」というやり方でした。殺人事件の遺族は、加害者(犯人)に対して慰謝料等の損害賠償請求ができます。また、請求の相手になる加害者が死亡している場合は、その支払義務は相続によって家族に引き継がれることになります(相続は、借金などの不利益な状態も引き継がれてしまうんです)。これは私人から私人に対するお金の請求ですから、刑 事ではなく、純粋に民事の領域です。深山達は、この関係を利用して、わざと被害者にあたる政一郎(迫田孝也さん)に、岩村の相続人である梢(有森也実さん)に慰謝料等を請求する民事裁判を提起させ、その裁判の中で、「損害を賠償する義務はない=岩村は犯人ではない」と主張し、まさにそのとおりの判決を勝ち取りました。さらに、真犯人が政一郎であることまで明らかにしたので、彼が後に有罪判決を受けることはほぼ確実です。これによって、間接的ではありますが、岩村の冤罪は完全に晴れたことになるわけです。裁判の仕組みをうまく利用した巧妙な駆け引きは、まさにお見事の一言でした!
すみません、第5話に関する豆知識もお伝えしようと思っていたのですが、残念ながらもうスペースが…。第5話についての豆知識はまた皆さんの感想などをコッソリ見ながら(笑)、改めて次回にでもお伝えできたらと思っています。お楽しみに!

Q4.刑事裁判と民事裁判、どう違うの?

寒い日が続いていますね。99.9の撮影スタジオの周辺は先日大雪でした…。そんな大変な状況の中で撮影された第4話ですが、お楽しみいただけたでしょうか?
さて、第4話は99.9では珍しく民事裁判が開かれましたね。日本には大きく分けて刑事裁判と民事裁判が存在します(SEASON弁護士豆知識Q2「刑事事件と民事事件の違いって?」参照)が、ここでは更に詳しくその違いを見てみましょう。
写真 まず、最も大きな違いは、「審理の対象」と「裁判の当事者」です。刑事裁判は「被告人に刑罰を科すかどうか」を決める裁判で、訴追者は国からその権限を唯一与えられた検察官が行います。簡単にいえば当事者構造は「検察(国家権力)vs被告人」。一方、民事裁判は、ある当事者の、もう一方の当事者に対する「特定の権利や請求が認められるかどうか」を決める裁判です。例えば、代金を払ったのに商品を渡さない人や会社に対してその引渡しを請求する、交通事故の被害者が加害者に対して治療費や慰謝料などを請求する、そういった権利があるかどうかを裁判によって判断するわけです。また、一個人でも会社でも、場合によっては国であっても、誰でも原告として訴えたり、または被告として訴えられたりすることがある、ということですね。
裁判の進行にも大きな違いがあります。刑事裁判では、検察官や弁護人の主張、事実関係や証拠の説明などは省略せず、被告人の在廷する公開の法廷で一つ一つ丁寧にこなしていきます。「審理はあくまで法廷で行う」という裁判の原理原則が重んじられているわけです。なので、一回の審理はそれなりに時間が掛かります。ところが、民事裁判は超が付くほど書面主義。予め言いたいことを記載した「準備書面」という書類を裁判所と相手方に送っておいて、肝心の法廷は「提出してある書面に書いた通りです。以上」と言い、「書いてあることを法廷で喋ったことにする」んです(これを「擬制陳述」といいます)。審理を早く進めるための方法で、別途証人尋問などがなければ、ものの数分でその日の審理が終了することもあります。4話にも「詳しくは準備書面に記載していますが…」という佐田のセリフがありましたが、これは実際の民事裁判に沿った格好になっています。
写真 最後に、これぞ法曹関係者以外知ってもしょうがないザ・豆知識を…。
よーくセリフを聞いていれば分かるのですが、刑事裁判と民事裁判では証拠に付けられる番号(呼び方)のルールが違うんです。刑事裁判では、検察側の証拠は、被告人に関する調書類(被告人の供述調書、前科前歴の照会結果、戸籍など)を「乙第〇号証」、それ以外の証拠(目撃調書、物証など)を「甲第〇号証」と呼びます(〇は数字)。また、弁護側の証拠は全て「弁第〇号証」と呼び、検察の証拠と区別しています。一方、民事では原告の証拠を「甲第〇号証」、被告の証拠は「乙第〇号証」という風に区別しています(マ、マニアック…笑)。ちなみに、番号の前の「第(だい)」は省略して話す人も多いのですが、深山はこの「第」を省略せずに言うことになっています。これは、松本潤さんが「深山だったら多分ここは、きっちり省略しないで言うんじゃないかな」と提案されたことがもとなんです。
役になり切りつつも、一方で客観的に深山というキャラクターを分析している松本さん、さすがです!

Q3.佐田先生の裏話と病院での尋問について

『99.9』をご覧の皆様、第3話はいかがでしたか?3話の法廷シーンに立ち会った際、見慣れないゴリゴリのロッカー風の男性が現場をウロウロしていて、随分気合の入ったエキストラさんだなあ、と思って近づいてみたら香川さんでした(笑)。
さて、もちろん皆さんお分かりかと思いますが、佐田は身元がバレないよう、傍聴席でカツラを被って変装していました。実はあのシーン、台本には一言「佐田が変装して傍聴席に」いう記述があるだけで、詳しい変装の描写はないんです。そこで、制作陣は当初帽子を被らせることを検討したそうです。では、なぜ本番はカツラに変更したか?実は裁判所の傍聴ルールを定めた「裁判所傍聴規則」に、「相当な衣服を着用しない者」には入廷を禁止することができる、と書かれており、その関係で、傍聴時に帽子を被っていると職員や裁判官から注意されることがあります。どうやら、法廷という厳粛な場所において着帽はふさわしくないといったことが理由のようです(なおこの規則には明記されていませんが、傍聴の際は録音録画禁止、ケータイ使用禁止、やや時代を感じるところではゼッケンやタスキなども禁止されています)。絶対に注意される、と断言はできませんが、質問してきたプロデューサーには念のため「もしかすると指摘を受けるかも知れませんね」と無責任に答えた私。その後本番までどうなったか聞かされずに撮影スタジオに立会いに行ったところ…、そうです。そこにはカツラを被った佐田先生が…!「なるほど〜」と思いましたね。確かに現実でもカツラだったら「被っているものを脱げ!」とは直ちに注意を受けないでしょうし、うまく変装もできます(もちろんバレバレのカツラはダメだと思いますが笑)。必ずしもすべてが書かれているわけではない台本を実際に映像にしていく、という作業において、いかに面白いアイディアや工夫を凝らすか。傍で見ていて『99.9』の制作スタッフの皆さんは、本当に手を抜かず、常にベストを尽くそうと努力されているのがよく分かる場面でした。
写真 あと、第3話では物語のターニングポイントとして、石川敦子(安達祐実さん)を病院で尋問するシーンが出てきました。「裁判所の外で裁判なんてできるの?」と思われた方もいると思います。これは正式には「所在地尋問」といって、法律で認められた現実にもある方法です。「証人の重要性、年齢、職業、健康状態その他の事情と事実の軽重とを考慮した上」で裁判所が認めれば実施されます。石川は被害者であり、検察側にとっても弁護側にとっても、超重要な証人です。しかし、彼女はまだ入院中で、絶対安静の身。裁判所に呼んで尋問しようとしたら何か月先になるか分かりません。なので、所在地尋問という方法が選択されたわけです。ちなみにもう一つ。裁判員がいないことに気が付きましたか?ちょっと細かい知識ですが、所在地尋問は裁判所の外で証人が話したこと(裁判官や弁護人・検察官が聞いたこと)を、いわゆる「調書(紙)」にまとめ、その調書を後日改めて裁判の場で証拠として確認する、という手続きです。つまり、裁判そのものではないんです。なので、あくまで「裁判」に立ち会う裁判員はあの場面には登場しなかったんですね。ドラマの進行には直接関係のないことですが…(笑)、人知れずそういったところもできるだけリアルに近づけようとこだわって作っているんですよ。

Q2.26年も前の事件、犯人を捕まえても時効なのでは?

第2話をご覧になった皆様、いかがでしたでしょうか。前作では謎のままで終わってしまった深山のお父さんの事件の真相が、何年もの時を経て、ようやく明らかになりましたね。最高の形で、というわけではありませんでしたが、深山が少しでも救われてよかったです。
 さて、2話は26年前の事件ということで、いわゆる「時効」の問題が生じます。刑事モノのドラマ等で「時効まであと少ししかない!全力で犯人を見つけ出すんだ!」的な展開を目にしたことはありませんか?アレです。知っているようで知らないこの「時効」について、ストーリーをもとに簡単に解説しましょう(ちょっとマニアック過ぎ…?笑)
写真 まず、時効(正確には「公訴時効」といいます。)とは、簡単に言えば「発生から一定期間経過した事件については、刑事裁判が開けない(起訴ができない)」という制度のことです。深山のお父さんの事件は26年も前(劇中を2017年の夏頃と仮定すると、1991年)ですから、真犯人を見つけても時効なんじゃないの?という疑問が出てきてしまいます(舞子も同じことを深山に指摘していましたね。)。

ここで第1のポイントとなるのは、佐田の「小倉は事件のあと海外に移住している」というセリフ。実は、法律では時効のカウントが途中でストップする事例がいくつか定められていて、犯人が国外にいるケースはその一つにあたるんです。例えば1年間国外にいた場合は、その人に関しては、その分、時効成立が1年遅れる、という感じになります。したがって、仮に26年が経過していても、小倉が海外に移住している期間が長ければ長いほど、その分時効が完成していない可能性が高まる、ということになるわけです。
さて、ここまで読んで時効制度について勉強したことがある人は、あれれ?となるかも知れません。そうです、「殺人罪」の時効は法改正によって廃止、つまり現在、殺人は時効制度そのものが存在しない(逃げられないことになった)んです。だったら、海外に移住とか、もうそんなこといちいち調べる必要ないんじゃないの?ということになりそうです。 写真 ここで第2のポイントとなるのは、「法改正の時期」。殺人罪の時効が廃止されたのは2010年、つまり、事件発生(1991年)から、当時の殺人の時効期間15年が経過した後に法改正がされました。このような場合、既に一度成立した時効が改正によってなかったことになる、ということにはならないんです。後から法改正があったからといって、当時の法律を正しく適用してできあがった状態をひっくり返してしまうと、その状態をもとにその後起こった全部の出来事に影響を与えてしまいます。その事件で裁判にかけられる人はもちろん、思わぬところで新たに不利益を受ける人が出てきたりするなど、社会が不安定になってしまいますよね。したがって、小倉についても、もし「時効が成立した後に法改正があった」のであれば、法改正の影響を受けず、もはや刑事裁判にかけることができなくなるわけです。
一方、小倉が事件後4〜5年以上海外に移住していれば、「時効が成立する前に法改正があった」ことになりますので、改正後の法律が適用され、「殺人の時効廃止=起訴が可能」という結論になります。だからこそ、佐田は「必ず小倉を見つけ出して真相を明らかにする!」と大友検事に宣言したんですね。いやはや、こんな上司うらやましいです(笑)

Q1.戻ってきた99.9-刑事専門弁護士-、QQ.Qも晴れて再開です!

99.9−刑事専門弁護士−SEASONをご覧の皆様、どうも初めまして!(前作から引き続きご覧の皆様はお久しぶりです!)
前作に続き、SEASONでも全体の法律監修を担当させていただくことになりました、弁護士の國松崇と申します。ありがたいことに、この「弁護士豆知識QQ.Q」のコーナーについてもSEASONに合わせて再開させていただくことになりました!
ここでは、専門的でやや分かりづらい刑事裁判の仕組みやそれに関わる法律・ルールなど(時には裏話も…!?)を、作品をより広く・深く楽しんでいただくために、できる限り紹介させていただきたいなと思っています。ドラマやこのコーナーを通じて、少しでも弁護士(もちろん裁判官や検事も)という職業に興味を持つ人が増えたら嬉しいです。
写真 さて、さっそくですが、第一話はいかがでしたでしょうか?
今作では、裁判官を辞めてしまった尾崎舞子弁護士(木村文乃さん)が新たに登場しました。なぜ彼女が若くして裁判官を辞めてしまったのか、とても気になりますね。裁判官を辞める理由は人それぞれですが、裁判官を辞めた後のキャリアの一つとして、実は弁護士になる人が相当数います(弁護士会に登録さえすれば、その日から弁護士を名乗れます。)
ただ、同じく法律を扱う職業ではありますが、裁判官と弁護士の仕事や立場は全く違います。どうやったらうまく証拠を集められるのか、どうやったらうまく示談交渉ができるのか、どうやったら依頼者に信頼してもらえるのか…、などなど、これらは弁護士であれば誰もが日々苦労しながら工夫を重ねている場面です。しかし、裁判官はあくまで裁判における「判断」が仕事ですから、必ずしも法廷に出てこないそういった苦労が、非常に見えづらい立場にいます。したがって、たとえ超ベテラン裁判官であっても、弁護士としては、また一からそういった経験を積んでいかなくてはならないというわけです。あとは、公務員である裁判官と違って、弁護士は仕事がなければ食っていけない、というのも大きな違いですね(笑)。果たして舞子はこれからどのように斑目法律事務所の面々と関わり合っていくのか。今後の展開が楽しみですね!

弁護士 國松 崇

写真 元TBS社員弁護士。現在は東京リベルテ法律事務所に所属し、主にエンターテインメント分野の取引法務や訴訟対応等を中心に、多くの企業・個人に対し、幅広くリーガルサービスを提供している。また、刑事弁護人としての活動も引き続き精力的に行っている。前作に続き,SEASONでも脚本作りや法廷シーンの演出などで全体の監修を担当。

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