2016年4月期連続ドラマ毎週日曜よる9時放送

スペシャル

弁護士豆知識「99.9のQQ.Q」

リーガル・エンターテインメント 『 99.9-刑事専門弁護士- 』 をより深く楽しんでいただくためのコーナー!弁護士や刑事事件に関するさまざまな Question を、ドラマの法律監修の國松崇さんに投げかけました。

Q15. 深山の最後の 「弁論」 について NEW!

ついに最終回が放送されましたね。最後の法廷シーン、深山の 「弁論」(深山が、裁判の最後に、裁判官や裁判員に対して訴えかけていたシーン) はいかがだったでしょうか?

「(最終) 弁論」 とは、今までやってきた裁判の全ての手続き (様々な主張や証拠の提出、証拠調べなど) を総括し、弁護人が裁判の最後に、被告人に対する判決はこうあるべきだ、という意見を述べる場面のことです。これは刑事弁護人にとってまさに最後の締めくくり、被告人の弁護人となり、今までやってきた様々な活動の総まとめになる手続きです。弁論は刑事裁判における弁護人の一番の見せ場だという人もいるほどで、特に裁判員裁判が始まった関係で、一般の方にも分かりやすく、また説得的に弁論を行う技術は、弁護人にとって、とても大事だと考えられています。

深山の弁論のシーンには、まさにこのドラマに込められた色々な思いが全て詰まっています。深山があの裁判を通じて裁判官や裁判員、さらには検察官や傍聴人にまで訴えかけたかったメッセージ、視聴者の皆さんも十分に感じていただけたのではないでしょうか。それはまさに、深山を演じる松本さんが、見事に深山弁護士として、この 「弁論」 をやり切ったということです。

監修者として間近で松本さんの演技を見て、私自身もすごく心を揺さぶられました。役者として見ている人に感動を与えたり、何かを分かりやすく伝える力と、弁護人として、裁判官や裁判員に被告人や自分の思いを説得的に訴えかける力というのは、もしかすると大きく共通するのかも知れませんね。私も本当に勉強になりました。

さて、この「 QQ.Q 」のコーナーもこれで最後の更新になります。このコーナーを読んだ皆さんに、よりドラマを楽しんでいただけるような内容を目指していましたが、いかがだったでしょうか?これをきっかけに、裁判や弁護士の仕事に少しでも興味をもっていただけたらとても嬉しいです。
今までお読みいただき、ありがとうございました!

Q14. 証人尋問のルールってあるの?(その2)

実際に事件のことを知る人を裁判に呼び、裁判官の前でその人が知っている事件のことを語ってもらうことを 「証人尋問」 といいます。前回 (Q13) に引き続き、適切かつ公平に証人の証言を聞くためのルールについてご紹介しましょう。

<主尋問における誘導尋問の禁止>
「誘導尋問」 とは、典型的には、尋問する側が証人に話して欲しいことを最初から質問の中に入れ込み、イエスノーで答えさせる尋問のことです。たとえば、ある場所から被告人を目撃した、という証人がいたとします。そのとき、証人に対し、「あなたが見たのは誰ですか?」 と問いかけるのは誘導尋問ではありません。しかし、「あなたが見たのは被告人ですか?」 と聞くのは誘導尋問になってしまいます。この問い掛けは質問する側が最初から質問の中に 「被告人」 という大事なキーワードを入れ込んでいますよね。証人は自分の記憶に頼ることなく、ただ 「はい」 と答えるだけで 「証人は被告人を見た」 という Q&A が成立してしまいます。
分かりやすくあえて続けてみましょう。「被告人は 『赤色の服』 を着ていましたか」 → 「はい」、「『手にカバン』 を持っていましたか」 → 「はい」、「そのカバンは 『○○というブランド』 でしたか」 → 「はい」……。もう分かりますね。もはや証人が証言しているというよりは、尋問している側が自分にとって都合のいいことを思う通りに話しているだけですよね (笑)。もちろん、こんなやり取りでは証人は自分の記憶に基づいて話しているとは到底言えないので、信用性もかなり疑わしいということになります。

なので、前回説明した 「主尋問」 (証人がまだ何も話していない状態で行われる最初の尋問のこと。Q13参照) では、そもそも誘導尋問自体が禁止されているわけです。「証人には証人の記憶に基づいて、自ら語らせる」 というのが証人尋問の大原則ということですね。とはいえ、ついついやっちゃうのが難しいところです。皆さんも普段の会話を思い出してみてください。意外と誘導尋問しちゃってるかも… !? 笑

Q13. 証人尋問のルールってあるの?(その1)

実際に事件のことを知る人を裁判に呼び、裁判官の前でその人が知っている事件のことを語ってもらうことを 「証人尋問」 といいます。この証人尋問のシーンはこのドラマでも沢山出てきますよね。やはり事件を直接知る人が語る言葉というのは重く、時に証人尋問は裁判の結果を大きく左右します。そのため、裁判においては、不当な証人尋問よって誤った判決が出ないよう、適切かつ公平に証人の証言を聞くためのルールが存在します。回数を分けていくつかご紹介しましょう。

<主尋問 → 反対尋問>
「主尋問」 とは、自己に有利な証言をさせるためにその証人を呼んだ側が行う尋問のことです。まず証人尋問は主尋問からスタートします。例えば事件現場を目撃した人がいて、検察側がその人を呼び、「被告人は被害者を殴っていました」 と証言させるようなケースが典型例。でもちょっと待ってください。検察官とこの証人は法廷で初めて会うわけではありません。何度も参考人として話を聞き、調書もとっているはずです。何を話すか当然分かって呼んでいるということですね。したがって、主尋問は基本的に想定通りの問答しか行われないことになります。
そこで大事になるのが、その証人を呼んでいない方 (上記のケースであれば弁護側) の 「反対尋問」。これは主尋問が終わった後に行うのがルールで、証人が嘘をついたり、あやふやな記憶に基づいて話していないかを厳しくチェックするために欠かせない手続きです。例えば先ほどの例のように、主尋問で 「被告人は被害者を殴っていました」 という目撃証言が出て、そこで証人尋問が終わってしまったら聞いた人は 「なるほど、被告人が殴っていたんだな」 という心証を持って終わってしまいますよね。でも、反対尋問で証人の 「視力」、「距離」、「明暗」、「位置関係」 等を確認した結果、証人は 「視力が悪い」、「遠距離から見た」、「場所は真夜中の屋外」、「間に障害物があった」 といったことが新たに分かったらどうでしょうか。一気に証言は疑わしくなりますよね。そうすると検察側がこの証言によって証明しようとしていた 「被告人が被害者を殴った」 という事実の存在も怪しくなってきます。
このように、証人尋問を主尋問、反対尋問とに分けることで、裁判官の前で証人をしっかりチェックし、出来る限り真実に基づく判決を導くルールが設けられているんです。ドラマの中でも、深山や彩乃が、見事に検察が呼んだ証人の証言の矛盾を突き、被告人の無罪を導くシーンが出てきました (真犯人を暴くというオマケ付き!笑)。私も見習わないと… (笑)

Q12. 斑目所長と大友検事の関係は?

6話のラストシーンあたりで、斑目所長と大友検事が何やら食事の席で一緒になっていましたね。2人はどうも知り合いだったようです。さてどういう知り合いだったのか?
実は2人の関係については、その直前のシーンを見ると分かるようになっていました。部屋の入口の紙に 「第32期司法修習同期会」 と書いていましたよね。これは、2人が同じ時期に 「司法修習生」 (詳しくは Q10. をご覧ください) だったことを意味しています。司法修習生は、司法修習生になった年ごとに、順番に 「修習期」 が付けられます。たとえば、私が司法修習生になったのは2010年ですが、その年は第64期でした。今の司法修習制度が始まってから64番目の代ということですね。ちなみに現在2016年の司法修習生は第69期です。
この修習期という考え方ですが、(昔ほどではないものの) 法曹業界ではかなり重んじられています。なぜかというと、司法試験に合格して司法修習生になる年齢はみんなバラバラですから、先輩・後輩・同期、という関係は、この修習期を基準に考えるためです。修習期が自分より上であれば、たとえ年齢がいくつ下であっても先輩にあたるわけですね。なので、弁護士同士が顔を合わせると、その接し方の距離感を間違えないためにも、高い確率でお互いの修習期を確認し合うんですよ (笑)
さて、斑目所長と大友検事ですが、看板を見ると第32期と書いていました。つまり、斑目所長と大友検事は、ドラマを現在と同じ2016年と仮定すると、37年前の1979年頃に司法修習生の同期だったということになりますね。この修習同期という関係は一生変わらないので、(もちろん人によって個人差はありますが、) たとえ司法修習が終わってバラバラになっても、ちょうどまさにこのシーンように、時には仲の良かった同期で集まってバカ話をしたり、他に仕事でも頼ったり頼られたりしながら、関係性が続いていきます。ちなみに、今回の同期会に集まった人数や会話の内容からすると、もしかすると斑目所長と大友検事は、修習生時代それなりに仲の良いグループだったのかも…?(私の勝手な予想ですが。笑)。果たしてこの二人の関係がこの先のドラマに影響するのか、今から楽しみです!

Q11. なぜ深山はすぐ接見にいくの?

このドラマでは捕まった被疑者と透明な板越しに面談するシーンが沢山出てきますね。これを 「接見」 というのですが、実際にも刑事事件を受任すると、弁護人は何度も接見に行くことになります。刑事弁護では、とにかく早く接見に行くことが大事だと教わります。
Q7. にも書きましたが、捕まった人はとにかく自分がこの先どうなるか分からず、不安でいっぱいです。しかも、これからの自分の発言や行動が、法律上どんな意味を持つのか正確に理解している人は多くありません。そんな状態では、ついよく分からないまま、事実とは異なる調書にサインしてしまうかも知れませんよね。一度サインをした調書を後から覆すのは、実は想像以上に大変なことなんです。なので、とにかく少しでも早く会いに行き、調書の重要性や、取調べや裁判のルールをしっかり説明してあげないといけません。佐田も第4話で無罪を主張している菊地 (板尾創路さん) に 「調書にサインするな」 とアドバイスしていましたね。
あとは、当たり前のように聞こえますが、事件の内容を知るためです。実は、被疑者が捕まってから起訴されるまで、弁護士は警察や検察が持っている事件の証拠を全く見せてもらえません。そのため、事件の内容はもちろん、警察や検察が事件のどこに関心があるのか、証拠としてどんなものを握っているのか、といった重要な情報については、取調べを受けている被疑者を通じて知ることも多いんです。8話では殺人容疑で捕まった深山が、取調べを通じて警察や検察の動きを的確にとらえ、接見を通じて佐田や彩乃にそれを伝えていましたね。結果としてそれが事件の解決に繋がりました。もちろん、現実はあんな風にうまく行かないですが (笑)、まずは接見によって得た情報をもとに弁護人が動く、という刑事弁護の基本構造が分かりやすく表現されていたと思います。
ちなみに、接見は一般人でも原則可能ですが、弁護士が行う接見とは決定的に違うところがあります。ドラマでも再現しているので、気付いた方もいるかも知れませんね。実は、一般人が接見を行う際は必ず警察や拘置所の職員が同席しますが、弁護士との接見には警察や拘置所の職員は一切同席できません (弁護人と被疑者とマンツーマンのみ)。そんな人が話を隣で聞いていたら、本当のことを打ち明けたりもできないし、弁護人との大事な会話が捜査機関側に筒抜けになってしまいますよね。そのような制度からも、いかに弁護人と被疑者の接見が大事かというのが分かっていただけるのではないでしょうか。

Q10. 明石はどうすれば弁護士になれるの?

明石はパラリーガルとして働きながら弁護士を目指していますが、司法試験に何年も落ち続けている、という設定でしたね。
まず、「司法試験」 ですが、これは弁護士だけではなく、裁判官、検事になるためにも突破しなければならない試験です。年に一度の一発勝負で、毎年5月に数日間かけて行われます。マークシート式、論文式の試験の二本柱で、科目は憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、会社法 (商法)、行政法の7法と、さらに一つ選択式の科目があります。とにかく精神的にも肉体的にも厳しい試験で、私も思い出すだけで嫌になります (笑)。しかも、合格発表は何と9月中旬で、楽しいはずのひと夏を不安な状況で過ごさなければならないというおまけ付き (明石はもう長年、憂鬱な夏を過ごしている…?)。死ぬほど勉強して、散々待たされて、結果不合格だったときのショックといえば相当なもので、実は私も一度経験しています。明石があれだけ放心状態になってしまっていたのは意外にリアルな描写なんですよ (笑)。
そんな司法試験、合格して晴れてすぐ法曹 (弁護士・検事・裁判官) になれるかと言えば、そうではありません。その後、約1年間 (昔は2年でした。) の司法修習を受けることが必要です。斑目所長も、大友検事も、佐田も深山も、みんな等しくこの司法修習を経ています。法律事務所、検察庁、裁判所をインターンのような形で数か月ずつ回り、まさに現場のことを学んでいきます (実際に被疑者の取調べをやったりするんです)。なので、もし明石が司法修習生になれば、検察の修習中に、深山が弁護人の事件を担当する、なんてことがあるかも知れませんね。
そして、この司法修習の最後に待っているのが通称 「二回試験」 という、これまた司法試験に勝るとも劣らない過酷な試験です。数日間早朝から夕方までひたすら分厚い課題を読み、答えを手書きし続けるというもはや荒行のような試験で、これに落ちると当然法曹資格はもらえません。就職が決まっていても、全てがパアになってしまうという恐怖の試験です。実際に落ちる人はそこまで多くはないのですが、私もその恐怖から二回試験直前は泣きながら勉強した記憶が… (笑)
さて、晴れて二回試験に合格し、検察庁に就職すれば検事、裁判所に就職すれば裁判官、そして、弁護士会に登録すればようやく 「弁護士」 を名乗れるわけです。明石の道のりはまだ遠いですが、まずは司法試験突破を目指して頑張って欲しいです。私は合格したとき、人目もはばからず号泣してしまいました。その経験を明石にもぜひ味わってほしいです!

Q09. 弁護士のファッションは?

信用が大事なので、日頃から身なりはきれいにしています。基本的に男女ともスーツで、ラフな場合でもオフィスカジュアルぐらいでしょうか。ただ、勝手な私の印象ですが、刑事事件で有名で先生方はどこか独特の雰囲気を感じることが多いです。なんというか、警察や検察と長年向き合い、数々の修羅場を潜ってきたオーラが見た目にも出ています。そういえば、深山も同じスーツを3着持っていて着まわしていると言っていましたね。彼には彼の中のルールや理由があってそうしているわけですが、そういった服装への 「(変な?笑) こだわり」 が強いところも、刑事事件が好きな弁護士としての深山の設定に一役買っていると思います。

ところで、弁護士は左胸に弁護士バッジを付けているイメージがありますよね。私も初めて自分のバッジを手にしたとき、うれしくて感動した記憶があります。しかし、実は弁護士バッジは弁護士会からの借り物で、弁護士をやめるときは残念ながら弁護士会に返さないといけません。また、バッジは純銀製で金メッキが施されているのですが、長年使用していると金メッキが剥げてどんどん銀色になっていきます。ということは、(一部例外もありますが、) 弁護士バッジを見て、もし金ピカだったら、その弁護士は新人、鈍い銀色だったらベテランということです。街中で弁護士バッジを見かけたらぜひ確認してみてください (笑)。とは言いつつ、弁護士バッジはけっこう目立つので、必要な時以外は付けない弁護士も多いです。中には佐田のように裏返しで付けている人もいますね。
最後に、実はバッジの裏側には一つずつ通し番号が刻まれているのですが、これは自分一人だけが持つ弁護士会の登録番号です。弁護士一人に一つの番号しかなく、ほとんどの弁護士は必ず自分の登録番号を覚えています (ちなみに私は46120)。弁護士と名乗る人物で、「登録番号は何番ですか?」 と聞かれてすぐに答えられない人がいたら、怪しいかもしれません (笑)

Q08. 弁護人は被告人の服装にアドバイスも?

ドラマの法廷シーンでは、1話の被告人赤木 (赤井英和さん) も3話の被告人吉田 (山下リオさん) もジャケットを着用していましたね。

実は、刑事裁判に一般市民が参加する裁判員裁判が2009年から始まったのを機に、法廷の様子は大きく変わりました。その一つとして、弁護人は、被告人の外見にとても気を配るようになりました。なぜでしょうか?
そもそも捕まって裁判にかけられている時点で、一般の人は 「悪い人」 という印象を持ってしまいがち。ましてや裁判のときに上下ジャージに無精ひげ、ボサボサ頭などであればなおさらでしょう。しかし、彼らは裁判を経て、有罪判決が確定するまでは 「推定無罪」、つまり、一般市民と全く同じ立場なのです。そして、あくまで事実と証拠に基づいてのみ裁判を受ける権利を持っています。そのため、そういったことをちゃんと理解している職業裁判官はともかく、刑事裁判に慣れていない一般市民である裁判員に対しては、万が一にも見た目の印象が不利に働き、誤った判断がされないよう、細心の注意を払うわけです。
たとえば、被告人にスーツやジャケットなどを着せて身なりを整えさせたり、被告人が法廷に入る際に付けられている手錠や腰ひも (裁判中は外されます。) が裁判員の目に映らないように裁判所に配慮を求めたりなど、色々な方法が実際にも採られています。
また、被告人が裁判中に座る位置にも気を配るようになりました。今までは、被告人は弁護人とは違う少し離れた場所に座ることが当たり前でした。しかし、最近は弁護人と同じ机に被告人を座らせることもあるようです。1話の被告人赤木も、撮影時のカメラ割りの関係もあって真隣とはいきませんでしたが、極力弁護人と近い場所に座席を配置しました。

Q07. 被疑者との面会で、まず出身地を聞く深山って?

事件とは一見関係のない出身地を聞くことに疑問を感じるかもしれませんね。企業法務専門できた佐田や彩乃も最初はそうでした。
でも、刑事弁護人にとって一番大事なことは被疑者との信頼関係です。いきなり捕まった人と言うのは誰でも混乱しますし、自分がこれからどうなるのか不安で仕方がない人がほとんどです。弁護人としては、その混乱や不安が原因で、やってもないことを認めたりすることを絶対に防がないといけません。そういったときには、まずは事件に関係ない話で気持ちをほぐしたり、安心させたりすることがよくあります。もしかしたら、幼少期の出来事や生い立ち、家族との関係性が犯罪に結びついてしまった可能性だって十分にあります。何が事件の背景にあるのか、裁判官や検察官が見逃すかもしれない情報をいち早く知り、裁判で示してあげることが弁護人の仕事ですから、そういうことを知るためにも、できるだけ時間をかけて詳しく聞いて、相手を理解しようと努めるわけです。それができるのはただ一人、弁護人だけです。
被疑者が無実を訴えているのであれば、検事が揃えた証拠を覆す手がかりを必死で見つけなくてはいけません。そういう意味では、接見のときに丁寧に被疑者の聞いていく深山のやり方にはとても好感が持てます。
自分の名刺をアクリル板のところに挟んで被疑者に見せているのも、早く自分のことを覚えてもらって、「自分のことを信頼してください。私はあなたの味方ですよ」 という思いを伝える意味があってです。

Q06. 刑事専門弁護士になる人が少ないのはなぜ?

罪を犯したと疑われる人の弁護なので、家族や周囲から理解されにくい職業ということが大きいと思います。「なぜ悪い奴の弁護をするのか!」 と言われるわけです。私も刑事弁護で被害者に示談交渉に行って、罵詈雑言 (ばりぞうごん) を浴びることがありました。日本では弁護人がつかないと刑事裁判は行えませんので、どんな事件であっても必ず誰かが弁護をしなければなりません。冤罪であればそれを明らかにするのはもちろんですが、被疑者・被告人が正しく、公平な裁判を受けるためにも、刑事弁護というのは、本当はとても大切な仕事なのです。その理解が進んでいないのは残念ですね。
あとは、お金にならないからという理由ももちろんあるでしょうね。刑事弁護は一生懸命やろうとすればするほどお金がかかってしまうので、ある程度ボランティアの気持ちがないとできないかもしれません。また、仕事柄、遺体や事件現場の写真などを見ることもありますから、そういったものが苦手だからという人もいます。弁護士も人間ということですね (笑)
そういう職業である刑事弁護になぜ深山が強くこだわっているのか。個人的にも大いに気になるところです!

Q05. 刑事事件専門の弁護士はお金にならない?

深山は斑目法律事務所に来るまでは “刑事弁護ばかり引き受ける貧乏弁護士” という設定でしたね。実際に刑事弁護の収入はどれくらいかというと、報酬が予め決まっている国選弁護人で言えば、大多数の事件は1件あたり数万〜十数万円ほどです。弁護の結果どれだけの成果があったか (無罪にした、示談を成立させた、など)、またどれだけ事件処理に日数と手間がかかったか (殺人など重罪はもちろん時間がかかります。) によって多少の差はありますが、それでも大幅に増えることはありません。国選弁護制度は、お金がなく必要な弁護を受けられない人の弁護費用を公的資金で肩代わりしてあげる制度ですから、そもそも多額の報酬を設定することになじまない性質なのです。Q4 でもいったとおり、一生懸命やればやるほどお金がかかりますから、その場合の手間と時間を考えれば、国選弁護だけで食べて行くというのは相当大変なことです。
私選 (自分でお金を負担して好きな弁護士を選ぶこと。) の弁護士も、ほとんどが依頼人 (被疑者) が支払える現実的な金額を提示し、支払いやすいように分割にしてあげるなどの対応をしているようです。よく海外のドラマや映画などで、エリート弁護士が大金をもらってお金持ちの弁護をする、といった場面がありますが、そのようなケースは本当に稀なんですね (羨ましい!笑)。弁護士の中には、民事弁護で稼ぎながら、弁護士として社会に貢献をしようという熱い思いから、刑事弁護をボランティアだととらえて活動している人もいるほどです。なので、深山が刑事事件ばかりやっているので、お金がないという設定は結構リアルだと思いますよ。

Q04. 刑事弁護人の捜査可能範囲は?

基本的には一般の人と全く同じです。事件の捜査をするのは自由ですが、警察と違って一般の人や企業を強制的に取り調べたり、物証を押収することはできません。例えば、拘置所にいる被疑者や、被害者に面会して話を聞きたくても、一言 「会いたくない」 と言われたら会うことはできません。被害者や関係者の電話番号一つ調べるのも大変で、警察であればその旨の令状を裁判所からとって、通信会社等から提出を受けることもできますが、一方弁護人は同じことはできません。基本的には何事も任意で協力をお願いするしかないんです。電話番号の例でいえば、警察や検察に示談などの必要性を説いて教えてもらったり、関係者を地道に探して手に入れるといった、いわゆる 「足」 を使った作業の結果、ようやく知ることができるものなのです。
事件の検証も同じで、まさに今回のドラマでやっているように、手弁当で準備をし、一つ一つ地道に再現作業をやっていくわけです。とくに無罪を争っている事件の検証となると、細部にわたって忠実な再現が必要なため、人もお金も非常にかかるようなケースが多いです。

Q03. パラリーガルって何?

パラリーガルは弁護士の仕事を補佐する人です。『99.9』 では、片桐仁さん演じる明石、マギーさん演じる藤野、渡辺真起子さん演じる奈津子がそうですね。三人とも超個性的ですが、法曹界や弁護士は実際に変わった人が多いので登場人物のキャラが濃いのは意外とリアルかもしれません (笑)
具体的な仕事内容は、書類のコピー取りや資料収集、文献調査、各種手続きなど、事務所の規模や専門分野によってさまざま。専門職ではなく資格もありませんが、自ら積極的にスキルアップを図っていく人は珍しくありません。
呼び名は 「パラリーガル」 以外にも、たとえば 「秘書」 といってみたり、特に庶務の人と区別せず、単に 「事務員」 として統一的に扱うような場合もあったりと、事務所によってばらばらだったりします。一般的にも、日本ではまだその名称や仕事内容になじみがない人も多いのではないでしょうか。ちなみに、訴訟大国であるアメリカでは、「パラリーガル」 といえば単なる事務員とは違い、高度に専門的知識を備えた一つの職業として社会的に認められていたりします。
明石のように弁護士を目指しながらパラリーガルで生活費を得ている人もいれば、パラリーガルとして働きたくて法律事務所に就職する人もいます。法律事務所だけに職場環境は良いため (ブラック企業であることはまずない !?)、職員募集には多くの応募者、特に女性の応募が多いと聞きます。
弁護士の仕事は膨大のため、信頼できるパラリーガルは弁護士にとって絶対に欠かせない存在です!

Q02. 刑事事件と民事事件の違いって?

「刑事事件」 で扱う主なものは傷害や窃盗、痴漢などで、その人が罪を犯したかどうかが裁判で判断されます。“被疑者 vs 国” という図式ですね。一方 「民事事件」 は離婚、交通事故、相続問題などで、多くが金銭がらみのトラブル。“民 vs 民” の図式になります。
同じ弁護でも刑事と民事では専門性が大きく異なり、刑事を専門的に扱う弁護士は民事に比べて非常に少ないのが現状です。さらに、刑事事件の裁判は “様式美” と言われるほど、法廷でのルールや手続きが細かく決められているのが特徴です。
1話に法廷シーンがありますが、裁判官や証人とのやりとりや美術セットなど、かなり厳密に作り込んでいるので、実際の裁判を見ているつもりでご覧いただければと思います!

Q01. タイトルの 「99.9」 にはどんな意味がある?

「99.9」 は日本の刑事裁判における有罪率です。日本では、一旦検察に起訴 (刑事裁判にかけられること) されると、ほぼ 100%の確率で有罪の判決が出ます。これは、検察が被疑者の起訴・不起訴を決定する際、証拠によって 「この人は確実にクロだ」 と確信できる人しか起訴しないという運用が採られているからです。その一番の目的は、万が一にも罪を犯していない人を刑事裁判にかけ、不必要に身体を長期拘束したり、過大な精神的負担をかけたりすることを避けるためだといわれています。誰であっても強制的に刑事裁判を受けるということは、それだけで大変な負担になりますので、無実の人や、有罪かどうか疑わしい人は、できるだけ早く解放してあげようということです。被疑者の人権保障の一環ですね。
そのため検察が起訴するのは、有罪の証拠がガチガチに固まっているような場合に限られるということになり、必然的に 99.9%という高い有罪率になるわけです。

ちなみに、この有罪率は他の国と比べてもとても高い数字です。たとえば国によっては起訴段階で検察がシロかクロかの判断をそこまで厳密には行わず、とにかく起訴してから刑事裁判によって決着をつける、という運用を採っているところもありますが、その場合はやはり有罪と無罪の確率が半々だったりします。
以前、東京地裁の大ベテランの裁判官から聞いた話ですが、その裁判官は 「今までの長い裁判官の経験の中で、無罪を出したことは一度も、ない」 とおっしゃっていました。それくらい珍しいことなんですね。このドラマはそんな奇跡のような瞬間に着目した物語です。

『 99.9-刑事専門弁護士- 』 法律監修 / 國松 崇

2012年 TBS 入社。弁護士。
TBS 初の社員弁護士として、番組製作・放送・ネット配信等においてリーガル的側面から各種契約の提案や交渉を行い、違法コンテンツや各種法的トラブルなどにも対応。また、会社業務とは別に、個人として刑事事件の国選弁護活動も行っている。『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』 に続き、『 99.9-刑事専門弁護士- 』  で脚本作りや法廷シーンの演出などで監修を担当。

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