インタビュー
[第二回]三宅涼子役/中谷美紀さん
— 『病室で念仏を唱えないでください』の話を聞いて
伊藤英明さん演じる主人公の松本照円(照之)は、僧侶でありながら医師でもあるという設定が不意をつかれたようで、新しいなと感じました。
確かに、僧侶は魂で、医師は肉体と、対象は異なるとしても、その「人を救う」という気持ちに変わりはないので、1人の人間がその両方を請け負うというのは面白いと思いました。その一方で、私自身は無宗教ですし、それぞれ人には宗教信仰の違いもありますので、実際に病院という公の場で仏教という1つの宗教を貫く人がいたら、ある意味迷惑で鬱陶しいだろうなと思い読み始めました。しかし読み進めると、松本先生が美しい女性に目を奪われてしまったり、お肉を人から横取りして食べてしまったりと破戒している点が面白く、“なまぐさ坊主”で完璧でないところが、何よりこの作品の魅力かなと思っています。
— 三宅涼子について
松本先生が“魂の救済”をしきりに追い求めていることに対して、西洋医学の医師を志した三宅は、(人の病気を)当然部位ごとに考えるでしょうし、患者の肉体を救おうということに徹していて、それ以外の中途半端な感情というものが邪魔になると考えている人間だと思っています。もちろん、「救いたい」という熱い想いはあるのですが、それを声高に叫ぶわけでもなく、必要以上に患者に介入することは無責任であると考えており、そこが松本とは異なる三宅の優しさだと思っています。(実際にも)普段仏頂面なお医者さんでも、ときおり発する言葉がすごく優しかったりすることもありますよね。三宅なりの患者との向き合い方は、患部の治療に真摯に専念することにつきます。一方、松本先生は自分の想いだけで、突っ走ってしまって、とんちんかんな行動をしてしまうところがあるのですが、それに対して三宅は冷静に、とても核心をついたことを述べると言う関係性が好きです。
— 松本先生とは対照的なキャラクターでしょうか?
三宅が「過去を見るのではなく現在を見よ」と松本先生に助言するシーンがあるのですが、その「過去でもなく未来でもなく現在を生きる」というのは、おそらく仏教の考え方の根底にあると思うんです。ですので、(松本先生と)対照的というわけでもなく、隠れ仏教徒なのではないかという噂があるキャラクターです(笑)。仏教徒ではないものの、考え方が仏教的であると言いますか…。以前インドに行った際に、「仏教というのは宗教ではなく学問なのです」とおっしゃっていた方が印象的だったのですが、そう言われると私も仏教的な考え方は嫌いではないと思いますし、宗教には属していないものの、旅をしていて心地よいと思うのは仏教国だったりするんですよね。
— 初共演の伊藤英明さんの印象について
伊藤さんは、少し松本先生のキャラクターに近いのかなと思っています。というのも、ご友人が伊藤さんの現在のお住まいのあるアメリカを訪れた際に、ご友人は遊びに行ったはずなのに毎日アクションの稽古をさせられたと聞きました。修行のようでストイックだなと思いました(笑)。
坊主姿もとてもお似合いですよね。あの姿で色気を出せる方もなかなかいらっしゃらないと思いますし、現場でもお芝居に対して、細部にいたるまで丁寧に確認しながら真面目に取り組んでいらして、松本という役柄が本当にお似合いだなと思っています。
— ムロツヨシさんの印象について
ムロさんは、メディアで拝見するにトークがお上手で、(チームの)先頭に立ってずっとお話しされているイメージがあったのですが、実際にお会いしてみると、周りをよく観察されていて、前に出るとこは出て、引くところは引くという押し引きができる方だなと思いました。やはり演劇をされていたこともあって、相手の呼吸を感じて演じるということをされてきた方なんだなと感じ、これはいい作品になる一番の条件だなと思いました。
— 演じるにあたって
三宅は、ドラマに登場する個性的なキャラクターの中で、最も普通の役柄だと思っています。ムロさんが演じる心臓外科医・濱田達哉は鼻持ちならなくて、とても個性が強いですし、松本先生も当然個性が強いので、その中で最も軸のぶれない普通の人を、2人の個性に引っ張られることなく、どれだけシンプルに演じられるかということに挑戦したいと思います。
また、まさに今日(取材当日)、心臓のバイパス手術を生まれてはじめて見学させていただきました。拍動する心臓から血液が溢れ出た瞬間に、言葉では表現できないほどの感動を覚えました。私たちが普段見ている血液は、静脈の血液なので黒っぽい(二酸化炭素を多く含んでいるため)と思うのですが、酸素を運んでいる動脈からの血液は本当に紅色の鮮血で、噴き出す瞬間を見たときに生命の神秘に触れたような感覚になりました。この心臓手術を受けなければ、近くお亡くなりになるかもしれないその方の心臓が、必死で拍動している姿に本当に感動しました。
三宅も生まれて初めて手術したときにその感動を噛みしめ、厳かな気持ちになったのだろうと思いますので、それを忘れないように演じたいと思います。