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揺れる「1強」〜変わり果てた佐川氏が…【2018年5〜6月号】


その朝、9時29分。与野党の議員が見つめる中、佐川宣寿前国税庁長官は参議院予算委員会室の入り口から、真ん中にある証言台に向かって入ってきた。カシャカシャカシャカシャとシャッターの音が部屋の中に響き、激しいフラッシュの閃光の中、前方右の委員長、そして左側の与党とそれぞれ丁寧に一礼して、証言台の後にある席に座った。佐川氏は焦点の合わないまなざしで正面を向いて、「フー」と軽くため息をついた。閃光の瞬きにさらされている、紺のスーツに白いシャツ、そしてストライプのネクタイ姿の佐川氏は、あの1年前の予算委員会、財務省理財局長として森友問題をめぐるやりとりで野党議員を前に上から見下ろすように言い放っていた自信に満ちた表情からは一変し、脂っけのない顔で力なく時折おびえるかのように視線を右左動かしていた。

国有地払い下げをめぐる、異常な「値引き」と決裁文書の「改ざん」。前代未聞の官僚トップの証人喚問が始まった。


片山善博氏「もう、嘘をつかないように」(2018年3月25日放送)

片山:「正直は最良の策。ジョージ・ワシントンが桜の木を切りましたと言った時からこれは鉄則なんですね。佐川さん、嘘をついてきたと思いますけれども、もうこれ以上嘘をつかないように、証人喚問では国民の前で真実を語られるべきだと思います」

緊迫の中、佐川氏は「良心にしたがって真実を述べ、何事も隠さず、また何事も付け加えないうことを誓います。証人、佐川宣寿。」と、かみしめるように言うと、右のポケットをまさぐって印鑑を取り出し、押印した。そして、冒頭、金子原二郎委員長が改ざんについて「誰がどのような動機でいつ、誰に書き換えを指示したのか示してください」と尋ねると、与野党ともに議員は息を詰めて証言を聞き漏らさないと佐川氏を見つめた。そして、すぐさま手を挙げて、指名を受けて立ち上がった佐川氏は、「私は現在、告発を受けておる身でございます。決済文書の書き換えにつきましても捜査を受けている身でございます。いつとか、私がその決裁文書の書き換えにどのように認識をしたかといったことにつきましては、私が捜査の対象であり刑事訴追の恐れがございますので、その点につきましては答弁を差し控えさせていただきたいと思います」と、語り、委員長の方を見上げた。冒頭委員長から「不規則発言」をしないよう強く注意があったのだが、これには、委員会室中に「えーっ」という声が上がった。


枝野幸男氏「なぜそんな大胆なことを」(2018年3月25日放送)

枝野:「こんな公文書の改ざんだなんてことを。日本の行政、中枢である財務省が、少なくとも省ぐるみ、局ぐるみで、こんな大胆な改ざんをした、ということ自体が、そもそもこれだけで社会の信頼というものを崩す大問題なわけですよ。だとしたらそれがなぜ、そんな大胆なことを、佐川前局長は、これが犯罪に当たるようなことだってことをさすがに分からないわけではないでしょうから。それでもこういったことに手を付けたということは、相当な理由があるはずであって、その相当な理由が何なのか明らかにしなければ、この改ざんという許されないことがなぜ起こったのか分からない」

そして、明るいベージュのパンツにそろいのインナー、そして白いジャケット姿の自民党の丸川珠代氏が、「佐川さん、今日はおいでいただいてありがとうございます。よろしくお願いします」と質問を始めた。そして、それを佐川氏もじっと見つめ返していた。丸川氏は「誰の指示で、なぜ書き換えが行われたのか、知り得る限りの事実をお話しください」と、水を向けた。静まり返る委員会室の中で、これに佐川氏は「若干長くなりますが、ご説明申し上げます」と話し始めた。

「この案件は、まさにこの理財局のその国有財産行政における現場、近畿理財局におけます個別の案件でございますので、そういった資料は、それは現場にございます。したがいまして、こうした資料要求にする対応は理財局の中で国会対応しておりましたので、理財局の中で行ったわけでございます」などとメモも見ずに言葉を確かめるように証言した。

そして、「個別案件につきましては官房にご相談をするようなこともございませんし報告をするようなことでもありませんし、ましてその官邸に何か報告するとか、そういうことではございませんでしたので、まさに本当にこれは理財局の中で行った話と言うことでありますっ」とやけに細かく説明したりした。

これに、丸川氏は「佐川さんあるいは理財局に対して安倍総理からの指示はありませんでしたね」と声を張り上げ、これにはじかれたように佐川氏は挙手し、「ございませんでした」と即答した。その後も、「念のため伺いますが、安倍総理夫人からの指示もありませんでしたね」「ございませんでした」、などとのやりとりに、野党席から「しょうもないこと聞くなっ」とヤジが上がったりした。それでも丸川氏は「少し丁寧に聞きます官邸の官房長官、官房副長官、総理秘書官からの指示はありましたか」と聞き、佐川氏は「ございませんでした」、と繰り返した。

そして、丸川氏は「少なくとも今回の書き換え、そして森友学園の国有地の貸し付けならびに売り払いの取引について総理、総理夫人、官邸の関与がなかったということは証言を得られました。ありがとうございました」と満足げに質問を終え、野党席からは「えーっ」と大きな声とあきれたような笑いが沸き起こった。


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