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「トランプ時代」がやってきた〜まずは「蜜月」で【2017年3〜4月号】


朝、9時過ぎ。衆議院予算委員会室では、ちょうど、自民党の茂木敏充政調会長が立ち上がり、前に座る安倍晋三総理に向かって与党質問を始めたところだった。今日2月1日から2017年度予算案がいよいよ始まったのだ。質問は、冒頭から10日後に迫ったワシントンでドナルド・トランプ大統領との首脳会談への意気込みを尋ねるもので、我が意を得たりと安倍首相は分厚いメモの束を手にマイクの前に立ち上がり、北朝鮮の核・ミサイル開発が進んでいると強調したうえで、野党席をにらみ「ミサイル防衛もありますが、彼らに対して、日本に対するそうした攻撃に対しては米国が必ず報復する、これが抑止力になるわけですっ」と、胸を張ってみせた。そして「トランプ大統領との間においてはですね、この同盟関係が確固たるものである、確固たる信頼関係の上に成り立っているということを内外に示すものにしていきたいっ」と声を張り上げた。やり取りをききながら、3日前の放送で、日米ガイドラインや貿易交渉で手腕を発揮した田中均元外務審議官が苦悩の表情で「トランプ時代」の行方を心配していたことを思い出した。


田中均氏「アメリカにもの言わなきゃいけない」(2017年1月29日放送)

田中:「私はものすごく深刻にとらえているんですね。1つはね、リーダーシップってことなんですね。押し並べて言えばね、アメリカという国は世界の秩序を維持することが、ひいてはアメリカの利益に繋がるという、基本的なリーダーシップに考え方があった。それが今、アメリカファーストっていうのを聞いてるとね、あたかも世界の秩序っていうのはどうでもよくて、アメリカの利益だということだけに着目しておられるような気がする。これは世界が乱れますよ。もう1つはね、私たち例えばロシアがクリミアを併合すると一方的行動だって非難したわけですよ。ところが例えばあれだけ皆が協議してやってきたTPPを一方的に自分たちは不参加だと。それから、メキシコの壁もそうですよ。あたかもね、なんか世界で自分たちが決めることが通じるというね。この一方的行為ってことに対してはね、私たちは注文を発しないといけない。やっぱり我々強い意思を持つべきだと思いますね」

午後になり、民進党の大串博志政調会長が質問に立ち、委員室は一変して緊迫した雰囲気が流れた。大串氏は、各国首脳の発言を並べたパネルをかざし、トランプ大統領が就任早々にテロ対策として署名した、イスラム圏7か国の入国「一時禁止」の大統領令への対応を質したのだ。大串氏は「フランスのオランド大統領『難民を保護する民主主義の原則が尊重されなければ民主主義を守ることができない』。メルケル首相、ドイツ『特定の出身地や宗教の人々をすべて疑うようなやり方には納得していない』。イギリスのメイ首相『賛成できない。英国国民に影響するなら米国に対して申し入れる』。カナダのトルドー首相『迫害や、テロ、戦争からのがれた人をカナダは歓迎する』」としつこく並べ、面前の安倍総理に向かって「総理はコメントしないという態度でいらっしゃるけど、本当にそれでよいのでしょうかあ」と大声を張り上げると傍聴席から拍手がわいた。これに対し、腕を組んでパネルをにらんでいた安倍総理は、立ち上がり「入国の管理、あるいは、難民や移民に対する対応等につきましては、内政事項であり、コメントすることは差し控えたい」と慎重に答弁。自民党席の議員らも少しがっかりした様子に見えたりした。ここぞとばかりに、大串氏が「日本とアメリカが同盟関係とはいえですね、おかしいなと思うところがあればおかしいと言わねばならないっ」などと大声を上げるものだから安倍総理はついにキレた。そして「今ここで簡単に米国の難民移民に対する政策について、この内政問題について日本が批判的にコメントすればですね、コメントすれば大串委員は、それは大向こうから喝采を受けるからよいだろうと。そういう観点から恐らくおっしゃっているかもしれませんが、それはそうではなくて、そうではなくて、この問題にどのようにそれぞれの国の特性をいかしかしながら対処していくかということでありますっ」と力をこめた。

なにやら、双方が発言するたびにヤジがわく委員室の様子を見ながら、浜矩子氏が、大統領選挙に勝った直後のトランプ氏の「危険性」に警鐘を鳴らしていたのを思い出した。


浜矩子氏「排外主義にゴーサイン」(2016年11月13日放送)

浜:「アメリカは本当に頑張る者に寛大な国であったはずですよね。で、色んなところから人がアメリカに集まってくると。そこで夢を実現するということをアメリカ人たちも誇りに思うと。一種の開かれた大らかさを持っていたはずのものが、それが本当にどこかに掻き消えてしまっているような状況で。そこが本当に魂が病んでるなと思うんですね。グローバル化が悪いと言っちゃうと、じゃあグローバル化を止めようと。で、国々は自分の国の中に引きこもり、外から人が入ってくるのを遮断する非常に引きこもり型の排外主義にゴーサインを出してしまう事になる」

委員室の混乱は、民進党の辻元清美氏が質問に立ったことでさらに「ヒートアップ」した。辻元氏は、昨年末の安倍総理の地元山口でのプーチン大統領との首脳会談で、来日直前に北方領土にミサイルが配備されたことを指摘し「私、総理お気の毒だと思った。私ですね、腹が立ちましたよ。あんなにですね、ウラジミールとか言って頑張ってたのに、土壇場でですね、ミサイル突きつけられて、のど元にですね、刃突きつけられた。これはですね、言葉悪いけどなんか日本なめられてるんちゃうか。総理がお気の毒になりましたね」と水を向けた。委員室は騒然となり、安倍総理は「批判されるというリスクを冒してですね、進まなければ70年間ですね、一歩も進んでこなかった問題なんか解決するわけないじゃないですかっ」とヤジより大きい声を上げた。それでも辻元氏が、今回のプーチン氏との会談が、後世の交渉にさし障ると執拗に攻め立てると、そこでキレた。安倍総理は、顔を紅潮させ「外交ですから色々あるんですよ。これが戦果といって一瞬それ誇ったところでですね、結果が出なければいけない。私はバトンを渡そうとは考えていないっ。私は私の手でですね、平和条約を締結しようと、こう思っているんですっ」と張り上げた。これに辻元氏は「私ね、総理はね『過信外交』になっていると思います。私がやればなんとかなる、個人的な信頼を作ればなんとかなる。トランプ大統領の時も結局ですね、お会いになった3日後にTPPひっくり返されたんですよ」と諭した。これに安倍総理は「私は確かに辻元さんより人は良いかもしれませんが、交渉力はですね、しっかりあるんだろうと」と、返したりした。朝から始まった委員会も、部屋に夕日がさしこむ時間になっていた。

ワシントンでの首脳会談の後、安倍総理は大統領専用機でトランプ大統領の別荘に行きゴルフをする日程が明らかになったのは翌日だった。ジェームズ・マティス新国防長官の来日にあわせ日本を訪れていた、在米でアメリカの事情に詳しく、日本を見ている友人の記者は、「ゴルフ外交」を心配する私に、ホテルのロビーで「だって日本は抱きつくしかないじゃん」と言って、エソプレッソコーヒーをすすった。


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