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桜の森の満開の下 〜「18歳有権者」の発言に思う〜【2016年5〜6月号】


「そうだ、あそこに行って聞いてみよう」。思い立って、本を何冊かカバンに投げ込み電車に駆け込んだ。昼の新橋を過ぎた下り電車は、ビジネスマンらで予想外に混でいた。仕事に追われる中で忘れていたが、満開に咲いた桜の並木が車窓から見え、春めいた雰囲気にあふれていた。どうも気になるのは、7月に迫った参議院議員選挙を前に、深夜に枠があるというので手がけた『時事放談 選挙スペシャル〜18歳選挙権でどう変わる〜』に集まった若者たちのことだった。今度の参院選から18歳選挙権が始まるということで高校生や大学一年生に声をかけ、司会の御厨貴氏の所属する東京大学の駒場キャンパスの教室に来てもらったのだ。春休みの昼下がりに集まった22人の若者の間で和やかに議論は進んだ。

そして、話は、安全保障問題に及び、当事者になりうる若者として「いざとなったら自分は戦争に行くか」との質問で挙手してもらった。「行く」は2人の男子だった。「そういう事態が起きたときに、自分から一歩出る人間でありたいなというのが僕の信念」「日本に攻め込まれたときに戦う必要があるとなったら、行くにやぶさかではないということです」とのことだった。その後、「行かない」若者が「安保っていうのはお金を払って守ってもらう、命をかけずにアメリカの兵士の方に命を守ってもらうっていう風にしていると思うので、身勝手だなというのはわかっているんですけれども…」などと話したり、さまざま議論は進んだが、スタジオでその様子を見た浜矩子氏は困惑した表情でうめいていたっけ。


浜矩子氏「どんなにグロテスクで、正義の微塵もないってことが…」(2016年3月21日放送)

浜:「戦争と言うものの意味がどこまでわかっているのかなと。戦争のイメージが非常に観念的であって、自分が行くかどうかの具体的な問いを考えてはいるけれど、当事者性のない考え方をむしろしている。戦争というものがどんなに悲惨で、どんなにグロテスクで、どんなにそこに正義の微塵もかけらもないってことを、それこそいろんなメディアを通じて、いろんな形で目のあたりにしていると思うんですけど、そのことと回答が結びついていない。なんか、日米安保で守られているのは後ろめたい、だけど嫌。それは素直だと思いますが、そういう余計な有象無象のことを考える前に、戦争って駄目だろうって、ズバッという人がいなかったのがショックですね」

窓から日差しが差し込む教室では、さらに議論が進んだっけ。ならばと、4月から施行になった今回の安全保障法制の売り文句である「戦力による抑止力」について「必要だと思うか」、と水を向けた。なんと20人が手を挙げた。

必要な理由は男子の学生が「アメリカが戦争が起こらないよう軍事力で蓋をしているという側面はあるわけで、そこで日本は何も責任を果たさなくていいのかと。日本は資源に依存して国が成り立っているわけで、何かが起きた場合、政治的な観点から見て、集団的自衛権を認めたうえで、ある程度協力していくのは自然なことだと思います」と胸を張り、女の子は「おばあちゃんが戦争は絶対にいけないという。だから自分にも戦争が絶対にいけないとの思いが強い。だから、戦力という抑止力が必要なんだと言われれば、確かにそうなんじゃないかと思う」と語った。その姿に浜矩子氏はさらに困惑の表情をしながら「過激」な言い回しで思いを語った。


浜矩子氏「『洗脳』…」(2016年3月21日放送)

浜:「今の議論を聞いていて、ものすごく危機意識が高まったという気が致します。抑止力という言葉にあんなに簡単に洗脳されるのか、と本当に背筋が凍る思いがしましたね。戦争はいけないということを、おばあちゃんが言ってるからという事をようやくひとりだけ言って、でも、だから抑止力が必要だという議論になってしまうというところが、猛烈にショックでしたね。

やっぱりこれは大人たちの責任なんだろうと思います。本当に実感を持ってる人の、その言葉が届いてないっていうのもあるかもしれないと思いましたけど。それこそ今の安倍政権が言っている、国際情勢がこうだから防衛を強化する事が必要だとか、これは抑止力なんだとかいうのが、非常に簡単に全部スーッと入っちゃってるところが、今日の議論を聞いてきた中で一番怖いなと。こういう、いわば呪縛から、若者たちを解き放ってあげないと大変なことになるなという思いを持ちましたね」

そして、スタジオの片山善博元総務大臣は、若者が歴史を知らないことを嘆いた。


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