時事放談 トップページ 毎週日曜あさ6:00〜6:45
過去の放送 出演者 時事放談「サロン」 テレビプロデューサーの日々
 
 

「2015年10月7日、内閣改造の日に〜安保関連法成立以来の『なぜ』」
【2015年11〜12月号】


エレベーターを降りると、役員室への人の出入りを狙うカメラと記者でエレベーターホールは埋まっていた。掻き分けるようにして自民党本部4階にある記者クラブ「平河クラブ」に入ると、ちょうど昼前の時間帯で、テレビや新聞社それぞれのブースでは記者たちが昼のニュースや夕刊の原稿を必死の形相でパソコンに向かってパチパチ打ち込んだり、会社のデスクと「さっきの原稿に会見を入れて送りますからあ。間もなくはじまるはずです」などとの電話をしたり、騒然とした雰囲気に包まれていた。安全保障関連法の成立、そして無投票での自民党総裁再選を受け、今日は安倍晋三総理が内閣改造に踏み切る日で、自民党でも幹事長らの役員人事なのだ。

その一角にある会見場では、マイクテストが始まっていた。集まったテレビカメラは9台。その照明の熱がこもり、何とも熱いのだ。会見室には35脚の椅子が並べられているのだが、そのどれにも記者の名刺が置かれ席取り済みなので、その後ろに陣取ったカメラのそのまた後ろの10脚ある長椅子(これっていつも夜回り疲れの記者の昼寝の場所なんだけど)の一番奥に陣取ることにした。熱気に汗ばみながら、安保関連法成立以来の「なぜ」が頭をぐるぐるした。なおも、安倍政権の支持率は高いのだ。「なぜ」。留任が決まり、これから会見に登場する高村正彦副総裁と、民主党の藤井裕久元財務大臣が火花を散らしていたのを思い出した。


藤井裕久氏「まだ期待しようという方が…」(10月4日放送)

御厨: あれだけの反対のデモもあったのに、内閣の支持率は微減に留まっているという事実がありますね。どう見てますか。

高村: 私に言わせれば根も葉もないことを言われてね、それで不安に陥れられたというところありますけども、私は日本国民というのは、極めて賢い国民だと思ってます。ですから先鋭的な対立が終わって冷静になれば、やっぱりそんなことないよなと分かって頂ける。必ず分かって頂ける。自衛隊についても、日米安全保障条約についても、PKOについても。あらゆる安全保障の法案は、不安が掻き立てられた時はそれなりの運動が起こるけれど、結局分かって頂けたという歴史を今まで辿ってきたんです。

藤井: まずですね、最後までこの安全保障法制については6割が反対だと。これは歴然と残っていると思うんです。じゃあなぜ支持率がこうなのか。私は2つあると見てるんですよ。ひとつはね、私は今、全国を歩いてますけど、中国がけしからんじゃないかという話が残ってる。もうひとつはね、今の経済政策が上手くいくんじゃないかと。3割の人は上手くいかないよと、数%の人は上手くいってるよと言ってる。あと6割の人は、さあどうだろうかと。この人たちの中にはですね、まだ期待しようという方がいるんですよ。支持率に影響を与えているのは、安全保障じゃないと思うんです。

やにわに、いずれも「留任」となった高村副総裁と、谷垣禎一幹事長、二階俊博総務会長、稲田朋美政調会長、茂木敏充選挙対策委員長の党4役が会見場にやってきて、マイクの両脇に座った。まずは高村副総裁が紺のスーツ姿で「党4役、いずれもしっかりした練達の士であり、大船に乗ったつもりで、しかし緊張感を失わずにやっていきたい」と、一礼し、続く谷垣幹事長は「平和安全法制を前国会で処理できたが、国民の理解をしっかり得ていく。そしてアベノミクスの新しいフェーズ『新3本の矢』に肉付けしないといけない」などと語った。

一方、二階総務会長は何かあったのか、「今日、総務会で了承得て、明日、閣議にかけないといけないというような、ぎりぎりの日程を組んで押し込んでくるが、これでは落ち着いた議論も、重要な議論もできないわけだから、何でも早く了承を得て、次へ進ませろというやり方は受け付けないつもり」と語った。二階派も入閣要請しているものの、「安倍一強体制」の中、組閣が決まったこのタイミングでの苦言は、いかにも政局上手の二階氏らしいなどと思ったりした。いくつかの質問を経て、最後に5人で握手をして写真撮影を受けたのだが、「こっちお願いします」「こちらお願いします」とやたら時間がかかり、その間握手を続けることになった稲田政調会長は「なんか変な…」と言って少し顔を赤らめたように見えた。

喧噪を抜けて自民党本部を出て、間もなく始まる改造内閣の大臣の「呼び込み」に備え、首相官邸に向かいながら考えた。そうなのだ、改造内閣は新3本の矢を看板に掲げたのだ。名目GDP600兆円(2014年度、名目GDP491兆円)、希望出生率1.8(14年、合計特殊出生率1.42)、介護離職ゼロ(現状年間10万人)、というのだ。この新3本の矢を、エコノミストの浜矩子氏は「できるわけない」と一蹴したっけ。


ページ |