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「戦後70年〜猛暑の夏に『91歳』かく語りき」 【2015年9〜10月号】


2015年夏の若者たち

昼間の猛暑は夜になってもそのまま残り、アスファルトから容赦なく襲ってきた。『時事放談』の収録を終えて国会正門前に駆けつけると、道端に「GIVE PEACE A CHANCE」「憲法守れ」「自民感じ悪いよね」とのプラカードや、「私は戦争法案に反対します」との横断幕がいくつも掲げられ、若い人たちが集結していた。「金曜日の夜、今日もやっているんだな」と思った。すると1人がビールケースを2つ並べた「壇上」に立ち、「7時半になったので始めたいと思います」と声を上げた。そして、「最近は国会答弁だけでなく、議員の発言に呆れています。就職活動できねーぞとか、戦争に行きたくないのは利己的だとまで言われて」と声を張り上げた。数日前、自民党の若手議員(武藤貴也)がツイッターで、今回の安保法制の法案に反対するこの若者たちを「彼ら彼女らの主張は戦争に行きたくないという自己中心、極端な利己的な考えに基づく」と批判していた(7月30日)。そしてその若者はマイクを握りしめ「戦前の発想じゃないですかねえ。戦争法案じゃないと言っていたのに、戦争法案であるとバレた。思い切って戦争法案反対と言いたいっ」。そして、どこからか地響きのようにドラムの大きな音がリズムを取りだし、「憲法守れ」と叫ぶと、集まっている若者たちが「憲法守れ」と呼応した。それは「勝手に決めるな」「勝手に決めるな」、「国民なめんな」「国民なめんな」、「戦争したがる総理はいらない」「戦争したがる総理はいらない」、「廃案」「廃案」……と延々と続いた。傍で見ているだけでも汗が噴き出す状態で、声を張り上げている若者たちは汗だくになりながらもリズムに合わせて体を揺すり続けた。そして「あ、べ、は、や、め、ろ」「あ、べ、は、や、め、ろ」と、区切りながら一段と声を張り上げ、別の若者にバトンタッチした。

思えばこの夏、安保関連法案に反対する街頭の抗議行動は、若い人、学者、お母さんたち、そしてお年寄りと広がっていた。そして村山富市元総理が、元総理としては異例の国会前の路上での演説をした(7月23日)。テレビでその姿を見て、91歳にして炎天下の演説に踏み切った思いを聞きたいと思った。


村山富市氏「熱が冷めるというのは間違いだ」(8月2日放送)

村山: これで良いのかという不安を持ってますよ皆、若い人は。私は国会の前に行きましたけどね、それは20年前、もっと前だけども。安保闘争の時はね、私は若い時でね、国会の周辺を8回デモりましたよ。だけどあの時の集まってる集団というのはね、労働組合が主体ですよ。しかも学生なんかもね、ひとつの思想団体が背景にあってね、例えば全学連とかいろんなものがあって、内部でも対立しながらね、全体として集まってやってるという格好ですね。今度の場合はね、そんな背景は全然ないんですよ。全然ないんです。なんとなくやっぱり若い者がね、これで良いのじゃろかと。日本は一体どうなるんじゃろかと。我々の将来はどうなるのかというような事を考えてね、いてもたってもいられなくてね、やっぱり平和と民主主義というのはね、我々の手で守らにゃいかんと。という意味で呼びかけ合ってですね、一斉発生的にずっと集まってきたと、もう今は高校生も集まってますよね。それに加えてね、奥さん方、婦人の皆さんがですね、子ども抱いて来てるじゃないですか。やっぱり不安なんですよ。そういう気持ちに駆り立てるような今の状況というものがね、やっぱり国会を通じて皆さんが感じてるわけです。それで立ち上がっていると。そういう国民の動きというものをね、僕はやっぱり素直に受け止めるべきだと思いますね。何かもう通ってしまえばね、今はこうだけども、通ってしまえばまた熱が冷めて元に戻るんだというような見方っていうのはね、これは間違いだと思いますよ。

ライトアップされた国会議事堂を正面にして道を挟み、暑さの中、「抗議行動」は延々と続いた。まわりはパイプで通路と仕切られているのだが、興奮した男の人が、何やら警官にしたのか、警官が集まりだし、パイプの内側から引きずり出されたりした。ショルダーバックを肩からかけたワイシャツ姿のその人は、抵抗する意思はないと、しきりに手を顔の前で振って「仲間」のいるパイプの中に戻ろうとするのだが、多勢に無勢で警官数人に引きずられるようにして連れて行かれた。

かと思えば、「大学生協」の幟を上下に揺すって声を上げていた真面目そうな男の人に、ある人が血相をかえて駆け寄って何やら抗議しだした。傍にいた警官が止めに入る勢いだったのだが、抗議の後、男の人が幟をたたんでカバンにしまい、拳を振り上げての「抗議行動」に切り替えたところをみると、どうやらここでは「組織の旗」などは上げないしきたりになっているのだろう。確かに見渡してみると「#本当に止める」などとのプラカードは上がっているが、団体の旗はなかった。そして、毎週金曜夜の抗議行動は広く知られるようになり、テレビカメラもたくさん集まって取材する方も汗を噴き出しながらの大騒ぎなのだが、ふと見ると「信濃毎日」の腕章をつけた男の人が、「長野県出身の学生さん取材させてください」と書いた大きな板を胸にさげていた。ドラムのリズムに合わせた連呼は大音声で、話しかけられないのも事実なのだ。

そして若い男の子が「壇上」に立ったと思ったら、「先日原宿のデモに5000人集まりました。高校生を舐めんじゃねーということです」と声を張り上げた。「わざわざ高校生が国会前でこんなことをしているのは異常なんですよ。でも高校生がつぶしてやらないといけないんですよっ」などと声を上げ、司会役から「すばらしいスピーチでした」などと褒められていた。

暑さの中、さっきまでの番組収録で、昭和史に精通する作家の半藤一利氏も「戦争体験者」として、自民党の若手議員を叱り、そして、安倍晋三総理が「中国の脅威」を強調して「抑止力の強化」を理由に法律を成立させようとしているのに激しく怒っていたのを思い出した。


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