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「『戦後70年』。野中広務氏の涙」 【2015年5〜6月号】


「粛々」と進む参院予算委員会

春だというのにどんよりと曇り、底冷えのする昼過ぎに参議院の予算委員会室に入ると、ちょうど自民党の質問がはじまるところだった。2日間の審議で今年度予算が成立するというので、集団的自衛権を容認した大きく転換する安全保障問題や、政府と県の対立が深刻化している沖縄問題などを聞こうと、最後の予算案審議を見に来たのだ。(4月8日)

自民党の質問はプロ野球元巨人軍のエース堀内恒夫氏で、「予算委員会は初登板です」と始めると自民党席からぱちぱちと拍手が起きたりしていた。そして、「スポーツは人々に夢を与え、人生を豊かにし、心身ともに充実させる」と政府の取り組みをただすと、答弁に立った下村博文文部科学大臣は「私も堀内さんの活躍に励まされた」などと答えていた。「そして、安倍晋三総理が「文科大臣は堀内さんに勇気をもらったと言うが、堀内さんが活躍していたころ、私はアンチ巨人だった」と言うと、堀内氏は質問席でその大きな体をズッコケて見せた。安倍総理はそのあと「堀内さんに痛い目にあい、本当に憎たらしいピッチャーだなと思いながらもこの人はすごいなと思った。子供をわくわくどきどきさせる力があるのがスポーツだ」と持ち上げたりした。穏やかな時間が過ぎていった。 そして、次に質問に立ったのは民主党の小川敏夫氏だったが、質問の始まりは安全保障でも沖縄問題でもなく、貿易収支の赤字だった。「アベノミクスの見込み違いでは」とただすと、安倍総理は「いい質問をしていただいた」と受けて、パナソニックの例などを交えながら滔々と説明。民主党の議員から「長いよっ」「委員長っ」などとヤジが飛んでも、平気で答弁を続けてみせた。


野中広務氏「この国はどこに行く」(3月29日放送)

野中: まあね、どのような国にしようとしてくれてるのか私は分からないんですよ。本当に70年というのは何だったんだと。もう悔しくて悔しくてね、夜も寝られないほど悔しいんですよ。私自身が戦争で死なないで生き残ったというのは、今もう亡くなった人に申し訳ない。何のために私は戦後70年を生きてきたんだと思うとね、今の状態というのは大変大きな過ちを起こそうとしてます。現職の政治家達が、第一に戦争の経験を知らないんです。したがって、戦争というのがどんなものであったかっていう事をね、まず歴史に注目して冷静に歴史を検証してくれなかったら、これからの日本というのは、本当に恐ろしい戦争の反省も何もない国になり下がっていくという心配を今しておるんです。

委員会室の様子は小川氏の質問がイスラム国の日本人人質事件に及んだ時に一変した。小川氏がカイロでの安倍総理の記者会見で、日本人の人質がいながら、人道支援について「ISILと戦う周辺諸国に」などとの言い回しをしたことをただすと「人質をとられているからといってそういうスピーチをしない、ということであれば、人質をとっていればその国の言論を変えることができる」。「たとえ日本人の人質をとろうとも、私たちはそれを曲げることはないっ。このことによって国際社会はISILの動きを止めることができるんであろうと。この信念を私は変わることはありませんっ」と声を荒らげた。民主党の傍聴席からは「どうなるのかねこの国」「こわいよ」などと声が出たりした。

そして小川氏は「大きな国家の目的の為には一人一人の国民の命は顧みなくていいんだと言ってるように聞こえる」と反論し、民主党席からは拍手が起こった。これに安倍総理は「今、小川さんの発言に民主党から拍手が出たことに唖然としました。まさに日本から人質をとれば日本の意思をくじくことができる、それでいいんだと宣言したようなもんだろうと」と声を上げると、今度は自民党から一斉に拍手が湧いた。


古賀誠氏「声を出さなければ」(3月29日放送)

古賀: 戦後70年。私の父親も靖国の杜にご祭神になってますが、もう本当に自分達の死が戦後70年だけで、あとは無駄死にになってしまうのかというね、本当に言いようのない怒りを覚えているんじゃないかなと。集団的自衛権の議論というのからね、大きく踏み越してますよね。今回の新たな法制化の中身を見てみますとですね、極めて色んな近隣諸国、それからアメリカの力の劣化だとか、色んな事を言いながら集団的自衛権というのを議論してきました。しかも限定的ということで議論してきましたが、どんどん話は別のところにいってしまって、安倍総理の『切れ目のない安全保障』と。まあ、耳あたりの良いフレーズで、中身は、武器の防護にしても対象国のアメリカからトントン拡大されている。周辺事態の地理的概念も外されて、地球の裏まで行っても良い、となってしまっている。とんでもない法制化が進められようとしてますね。自民党の先生方、何か言ってくれよと。なんで黙ってるんだと。ハト派じゃなくて、良質な保守派の人達いっぱいいるはずなんだから、ここで声を出さなければ日本の平和っていうのはどうなっていくんだと。300万人もの犠牲を出した、大東亜戦争。あの反省はどこにいったんだと。まだ70年ですよ、戦後。そういう中で、誠に政権与党の先生方にもしっかりと、考えるだけじゃなくて発信してもらいたい。

翌日、予算案の採決の日も委員会室に足を運んだ。ただ、戦後の「平和主義」の大きな曲がり角であり、白熱すると思っていた集団的自衛権の論議だったが、取り上げたのは昼前になっての社民党の福島みずほ氏だけだった。福島氏は新しい法制で後方支援についてこれまでの「非戦闘地域」から「現に戦闘行為を行っている現場」でない地域に変更することを「もう戦場の隣で弾薬を提供すること、まさに武力行使と一体化するじゃないですか」とただし、安倍総理は「我々は、今までの概念である非戦闘地域という考えの中で、様々な活動を経験をしてきたわけでございます。そういう経験に則った上で、戦闘現場では行わないという考え方をとることにしたわけでございます」と、滔々と答え、福島氏は「これを一体と言わなければじゃあ何を一体と言うのか」と憤慨した。

そして、「今までは自衛隊を海外に派兵するのにテロ特措法、イラク特措法を必要としました。にもかかわらず、このたび恒久法が出てくる予定です。なぜ、新たな立法なくして自衛隊を海外に出せるんですか」と声を張り上げた。これにも総理は「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とすることが重要であると考えております。このような観点からは、具体的な必要性が発生してから改めて立法措置を行うよりも、自衛隊の活動の前提となる法的根拠を予め定めておくほうが、具体的な必要性が発生したのち速やかに派遣準備を行う事が可能になり、閣議決定にある切れ目のない対応が実現できると考えています」と滔々と答えた。福島氏は「恒久法作ったらいつでもどこでも自衛隊行けるじゃないですか。しかも事後承認でも場合によっては可能としています。新たな法律を作るのと、それから承認では国会の関与が全く違いますっ」とかみついたが、委員長から「時間です」と制されて質問を終えた。持ち時間はわずか10分だった。


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