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過去の放送 出演者 時事放談「サロン」 テレビプロデューサーの日々
 
 

武村正義氏「堂々と言ってきたことを」(11月30日放送)

武村: 何十年間か自民党政権中心ですけどね、集団的自衛権は出来ないと堂々と言ってきた。それを閣議の解釈でさっと黒を白というふうに言い換えるっていうのはあまりにも安易というか、身勝手という感じがしますね。そこにまずひとつ大きな根本的な問題があります。

なんだか雰囲気にほだされて、電車を乗り継いでJR赤羽駅に行ってみた。ちょうど昼の食事時になっていたが、幅300メートルはあろうかとの広い駅前ロータリーには街宣車から駅ビルまでぎっしりと聴衆があつまっていた。街宣車の上には公明党で地元の候補者である太田明宏国土交通大臣と舛添要一都知事がいて、舛添知事は「私の古い友人、太田さん。なんとしても勝ってもらわないとならないっ。今日はこうしてみると1000人以上いるかもしれないが、みなさんの1票だけでは、難しいんですよ。3票持ってきてくれますか、おかあさんっ」「こんなに来てるから、は甘いっ。帰ったら電話かけて」「おかあさん大丈夫だね。おとうさん5票、10票大丈夫だね」などと、盛んに呼びかけ、そのたびに拍手が沸き起こっていた。そして、マイクを握った太田大臣が「サンゴの密漁船がゼロになりました。私の担当する海上保安庁の役割です」「昨日、走行試験として青函トンネルで北海道から青森まで新幹線が走る歴史的な事を果たしました。これも私が担当する鉄道局の仕事であります」「常磐自動車道が・・・これも私の所管する国土交通省の役割であります」っと声を張り上げると、盛んに拍手が湧き上がった。

そこへ、安倍総理の車列が登場した。そして街宣車に上り右手を挙げると、ここでもロータリーいっぱいの聴衆は盛んにスマートフォンを掲げる。安倍総理が「太田さんは京都大学の相撲部のキャプテンでもありましたが、同時に耐震工学の専門家でもあるんです。相撲を取りながら、耐震工学も勉強するし、哲学書も読む。まさに本当に強い人は人にやさしい。力が強い、人にやさしくて、力持ち。まさしく太田さんこそ、そういう人だと思います」などと持ち上げるものだから、聴衆は大喜びで拍手が沸き起こる。そして、「アベノミクスの効果」を数字を交えて説明し、時折「いいぞー」「そうだあ」などとの掛け声がかかった。街角で聞いていると、ここでも何かいいことが起きそうな気分になるから不思議なものだ。

するとそこに、今度は幅1mぐらいの「日の丸」を掲げた若者が1人登場。なんせ「平和の党」の公明党の聴衆なわけで、その中ではかなり目立つのだ。困惑した警官が歩み寄りなにやら話しかけると「安倍ちゃん見にきたんだよ」などと言い、警官は「でもここ自民の人少ないから」と旗をしまうよう促すのだが「これは普通のことだから」などと聞かないのだ。街宣車の上の安倍総理は「今日は、北区中の、選挙区の輝く女性の皆さんにあつまっていただいております」と例の「盛り上げフレーズ」で聴衆を沸かせ、演説を終えるとハイタッチで練り歩き自動車に乗り込んで、車列を従えて去って行った。「低投票率」の中での結果は見えていた。


増田寛也氏「権利を行使しないと…」(12月7日放送)

増田: 義務じゃなくて権利を行使しないとですね、世の中変えようと思っても変えられません。それから今回の争点は、有権者が自ら作り出していくことじゃないかと私は思いますね。政党から見れば、解散において、大義らしきものをどうやって大義のように説明していくか、それが政党の争点形成能力になるんでしょう。だから有権者が、本当にその争点で良いのかと、その裏を見抜く力を持っていないとやっぱりダメですね。

翌日は、民主党の岡田代表代行が街頭演説があるというので、朝、JR三鷹駅に足を運んでみた。駅前ロータリーは幅25mぐらいで、昨日を思うとこぢんまりした印象だった。10時の演説会までは15分ほどあったが、「議員定数削減の約束は!」「今こそ流れを変える時」との幟が2本ずつ。赤いジャンバーを来た4人のスタッフがビラを配るのだが、平日とはいえ人通りはあるものの、どうも素通りする人が多く反応は良くない。ビラを受け取るのは20人に1人の割合といった感じだ。「世論調査の政党支持率も5%ぐらいだからなあ」と、1÷20と頭に浮かぶ。10時前に青いダウンジャケットを着た民主党の山花郁夫候補が手を振りながらやってきた。「このまま安倍内閣の暴走を許すわけにはいきません。政治の流れを変えていきたいと思います」と声を張り上げるのだが、聴衆はわずか7人。「この2年間、暮らしがどうなったでしょうか。急速に円安が進んでしまっています。80円だった輸入品が120円」「格差も広がっていますっ」と、アベノミクス批判をするのだが、どうも街角で「はずまない」のだ。

しばらくすると岡田代表代行がやってきて、演説を始めたが、それでも聴衆は30人。駅に向かう多くは下を向きながら通り過ぎて行ってしまうのだ。それでも岡田氏は、「集団的自衛権は国会での深い議論ができていない。国民の理解ないまま解釈変えるのでは憲法が形骸化してしまうっ」「アベノミクスは限界に突き当たっている。株は上がっているが、物価高を招いているっ」「いろんな団体に選挙をやってもらっている自民党には規制改革はできないっ」と声を張り上げ続けた。そして、「ぜひ、皆さんの力でもっと力を与えてくださいっ」と演説を締めくくり、周囲にいた聴衆と握手をして回り、次の演説会場へ向かってJR三鷹駅のホームへ小走りに走って行った。聴衆は少し増え40人になっていた。

投票日の翌日の朝、新聞を読んだ。(『朝日新聞』14年12月15日付)「自公大勝3分の2維持」「安倍政権の基盤強固に」「アベノミクス継続へ」「海江田氏落選、民主代表戦へ」・・・。そして本を開いてみた。パラパラめくると線を引いてあるくだりがあった。「政治行動というものの考え方を、なにか普通の人の手の手の届かない雲の上の特殊なサークルで、風変わりな人間によって行われる仕事と考えないで、(略)私たちのごく平凡な毎日毎日の仕事の中にほんの一部であっても持続的に座を占める仕事として、ごく平凡な小さな社会的義務の履行の一部として考える習慣―それが(略)デモクラシーの本当の基礎です」(丸山眞男『現代政治の思想と行動』)ここからまた始めるんだ、と小さくつぶやいてみた。そして、新しい年への誓いにしようと思った。


※本原稿は調査情報1〜2月号に掲載されています。

石塚 博久 (いしづか ひろひさ)
'62 東京都足立区生まれ。早稲田大学卒業後、'86日本経済新聞社に入社。大阪、名古屋、仙台支局(このとき、「みちのく温泉なんとか殺人事件」に出るような温泉はほとんど行った“温泉研究家”でもある)に。
東京本社政治部で政治取材の厳しい(「虎の穴」のような)指導を受け、新聞協会賞(「閣僚企画」共著)も。
'96TBS入社後は、報道局政治部記者、「NEWS23」のディレクターを経て、「時事放談」制作プロデューサー。

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