●「デメリットの方が…」古賀誠氏(10月5日放送)
「朝からの番組準備」「ヤジの飛び交う予算委員会」、そして「重鎮の番組収録」と、夜、自分の机に戻った時には、口を開くのもつらいほど疲弊しきっていた(まあ、収録の後はいつでもそうなのだが)。ふと、そういえば、昔のテープがあったけと思いついた。倉庫を探すと、確かに古びたテープが出てきた。10年前、番組を立ち上げるにあたり、探し出した「昔の時事放談」のテープだ。当時は生放送で、テープに収録しておらず、最終回の1本だけが残っていたのだ。小部屋にあるデッキに入れて、スイッチを押すとあのラッパのテーマソングとともに、掛け軸のかかった和室の炬燵に細川隆元氏(1900〜94年)と藤原弘達氏(1921〜99年)が炬燵に入って向き合っていた。セットの庭には桜の花があしらってあり、そういえば最終回は87年の3月だったんだものなと思ったりした。
細川氏が「今日は最後だからあんたがうーんとしゃべんなさい」と言うと藤原氏は「よっしゃ」と応じ、細川氏は「あんたがしゃべんなきゃあんたの値打ちない。悪口言わなきゃ」と始まった。そして細川氏が「だからねー、だから」と口を挟むと、いきなり細川氏が「少し聞きなさいっ」と大声を上げるのだ。そして、「あんたは自分でしゃべることだけだから。私の話を聞いて、それから1時間でもしゃべればいいんだよ」と説教するのだ。そういえば、小学生のころ見たこの番組はこんな調子だったなあ、と懐かしくなった。
話は、当時、半導体のダンピングをめぐり、新たな関税がアメリカから押し付けられ、そんなときに国会は中曽根内閣の売上税をめぐり野党の反発で「空転」しており、「けしからん」というものだった。「だからね、半導体をね」(細川)「おう、半導体戦争」(藤原)「投げ売りみたいなことはやめようと約束したことは間違いないがね」(細川)「半導体協定」(藤原)「協定たって、話し合いと同じことだよっ」(細川)と言う感じで話は進んでいくのだ。
そして、細川氏の怒りは止まらず、「450億円、これだけ日本の違約によって損害を被ったと。それだけ、関税かけようと。」「EC強いだろ、韓国強いだろ、台湾強いでしょ、日本に対して。あれらはみんな組んでるんですよ。そういうことを日本人は何も知らずだな、国会は休み放題。大事なことを全然議論しないっ。こういうことを国会でね、与野党区別なくどう対処すべきか議論しないとっ。このままいけば日本は滅びると思う。ほんとに」。すると、藤原氏は「日本の今一番の責任は、細川さんのご議論によれば『寝ころび国会』だのお。アメリカはいわば『挙国一致体制』なんだよ。我が国はなんだ、単なる売上税の議論だけ。それで、議論もしないで寝ころんで登校拒否のガキみたいなんだな」と言うと、細川氏は「バカがっ」と吐き捨てる。そして藤原氏は「それで304名とった自民党もだ、あたふたしやがってよ。ばかやろうが」と続いていくのである。なにやら懐かしいと同時に、これを少し上品にしたら、野中さんや、浜矩子さんになるのかなと思ったりした。
●「変なシナリオを勝手に書くと」浜矩子氏(8月24日放送)
「昔の時事放談」では、話がひとしきり盛り上がったあとで、藤原氏が不意に話し出すのである。
「『時事放談』が終わるにあたって、わしゃこういう一句作ったんじゃ。『時事放談 金玉寒し 花の雨』」。すると細川氏は怪訝な表情で「ちょっと待って、もう一遍繰り返して」と水を向け、藤原氏はどうだとばかりに句を繰り返す。細川氏は思わず「金玉ぁ?」と聞き直すと、「これはね、良寛さんがね、柿をもぎに行って寒かったの。そして、『金玉寒し秋の風』と詠んだんだ」「はっはっはっ」(細川)。藤原氏が「『時事放談』もね、天下内外の情勢寒々としてるんだよ、あんた」と水を向けると、細川氏も「我々の金玉もなにやら冷えとる。今のような日本じゃ」と、2人でなにやら感じ入り、「これを『時事放談』1551回目の私の傑作として残しておくよ」「その通りだ」と話したりした。そして、この後、細川氏は「長い間の視聴ありがたく…」と声を張り上げ「これからもやろう」「ガンバロー」と言い合った。そして、藤原氏が細川氏に「元気出しなさいよ」と言って握手をして終わった。なんせ、30年、1551回。我々はまだまだだな、なんて思ったりした。
※本原稿は調査情報11〜12月号に掲載されています。
◆石塚 博久 (いしづか ひろひさ)
'62 東京都足立区生まれ。早稲田大学卒業後、'86日本経済新聞社に入社。大阪、名古屋、仙台支局(このとき、「みちのく温泉なんとか殺人事件」に出るような温泉はほとんど行った“温泉研究家”でもある)に。
東京本社政治部で政治取材の厳しい(「虎の穴」のような)指導を受け、新聞協会賞(「閣僚企画」共著)も。
'96TBS入社後は、報道局政治部記者、「NEWS23」のディレクターを経て、「時事放談」制作プロデューサー。

|
古賀: 賃金の上昇で潤うというのは本当にごくわずかな方ですよね。しかも、もろに円安によるデメリットの方が、メリットより多くなってきてる。可処分所得は増えてませんよね。賃上げはしたと言うけど、それは一部の人でありますし、その額によっては、他の値上げ分の方が増加していて可処分所得は減っちゃったというのが今の状況じゃないでしょうかね。