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2014「アベノミクス」の秋に、もの思う
   〜蘇る細川隆元、藤原弘達両氏の声
【2014年11〜12月号】


第2次安倍改造内閣スタート

昼下がり、衆議院の予算委員会の部屋に入ると、記者席には総理の動静をチェックしつづける総理番記者なのだろう、若い2、3人の記者がいるだけだった。今日は、第2次安倍晋三改造内閣がスタートして初めての委員会だった。しかも、民主党も幹事長に新たに枝野幸男元内閣官房長官を据えていた。番組収録の日なのだが、その準備を朝から会社に出て手早くすませ、夕方の収録までの「間隙」を縫ってやってきたのだ。

最前席に陣取ると、野党・民主党に先立って与党・公明党の議員の質問が始まっていた。質問はこの臨時国会のメインテーマになっている「地方創生」なのだが、「地方」を逆手に地元の話ばかりで、なにやら「県議会」の様相だった。ただ、まったりとした時間が過ぎる中、大臣席の最前列で総理の向かって左の方に座る「地方創生担当大臣」の石破茂氏だけは自らの答弁の見せ場を作ろうと、質問に大きく肯いてみせたり、腕を組んだり、果ては質問者をギロギロにらみ返したりするのだ。しかし質問者は涼しい顔で安倍総理へ質問を続け、それに、安倍総理も「石破大臣」の所管である「地方創生」について、「島根県に行った際に『地域おこし協力隊』によって」などと「細かい話」を身振りを交えてとうとうと答えていた。そして、公明党の質問者は「私の地元に有馬温泉があるのですが、お湯が赤い色をしていて」などと「観光」に質問を変え、所管する公明党の太田昭宏国土交通大臣も、「見るもの、買うもの、食べものが大事なんです」などととうとうと答弁を続け、そのあと質問者は「これで質問を終わります」と声を張り上げた。所管なのに出番のなかった石破大臣の頬は、いつもより一層紅くなっていた。

そして、新しい人事で予算委員会野党筆頭理事になった民主党・前原誠司氏が質問を始めた。質問者の背中側の壁にそった傍聴席には民主党議員が立ち見がでるほど集まり、幹事長になった枝野氏も両手に資料の入ったカバンと手提げを持ってやってきた。いつの間にか、記者席も記者でいっぱいになっていた。枝野氏が番組で新しい民主党の意気込みを話していたのを思い出した。


「中間層を分厚く」枝野幸男氏(9月28日放送)

枝野: やはり私たちは、この人口も減少し、本当に地方が疲弊していって大変な状況になっていく中で、日本が世界に誇ってきた『一億総中流』分厚い中間層、ここをしっかりと支えていく。我々の目指す方向は間違っていないと思っています。なので、それをいかに具体的に、しかもリアリティーをもって、どう進めていくのかをもう一度鍛え直し、そして訴えていきます。

前原氏は、傍聴席からの「よしっ」「頑張れっ」などとの掛け声を背に、前に座る安倍総理に、「『アベノミクスがうまくいっている』というが、5つの誤算が出ているのではないか」と声を張り上げた。そして、「一つはこれだけ円安になったのに輸出がのびない」「2つはこれだけ量的緩和を行い金利を下げたのに賃金の上昇や設備投資に使ってもらいたい企業の内部留保か過去最高ですよっ」と言うと、傍聴席からは「だめだー」「おかしいっ」との合いの手。なにやら「桃太郎侍」の悪者をやっつける前の「口上」みたいに、前原氏はだんだん調子を上げてきて、「3番目。安倍総理は賃金が上昇したとおっしゃってますけど(物価上昇を考慮した)実質賃金、実質可処分所得は減っているんですよ」「そーだっ」、「4番目。物価上昇は1%を超えてきている。需要と供給によるインフレならいいが、円安による輸入物価の上昇で望ましくないコストプッシュのインフレが起きている」「とんでもないっ」と続けた。そして、「5番目。財政出動を行い、補正予算を行うことによって、復興地のみならず全国各地で入札不調が起きている」と声を張り上げ、「アベノミクスはぼろぼろだ」と傍聴席も応じた。確かに、傍聴席に応援のまばらだった通常国会とは様変わりだった。

これに対し、安倍総理が答弁に立ち、「我々が政権をとった後は、皆さんは聞きたくないと思いますが、まさにマイナス成長だったのをプラス成長にした・・・」と、反論したので、「質問に答えてないっ」とヤジが飛び、「お静かに」と委員長が制しても、委員会の部屋は双方のヤジで騒然としたりした。そして安倍総理は「輸出については新興国の需要が減速をしたこと、それと日本企業が現地の外貨建て販売額をあまり引き下げずに、輸出数量ではなく収益で稼ぐ傾向が強まったということです」と説明したが(これは『輸出が伸びない誤算』の説明としてはまっとうなのだが)、ヤジは勢いづき「言い訳はいいよ」などと止まらず、安倍総理は「すみません静かにしていただけませんか」と、質問を中断して苛立たしげな表情をみせた。

この後、改めて質問に立った前原氏は「総理であれば、もうそろそろ1年9か月たって民主党政権がどうのこうのというようなことをおっしゃるのは、ちょっと小さく見えますから、あまり言われない方がいいと思いますよ」と応酬し、また双方のヤジで騒然としたのだが、その時、石破大臣が気持ちを隠しきれなかったのか「ニヤリ」とした。

次に質問は辻元清美元国交副大臣に移り、安倍総理が、集団的自衛権の閣議決定後の記者会見でパネルにして説明した「アメリカ艦船に救出される赤ちゃんを抱いた母親」の図について、可能性が低いと質した。そして、アメリカ人がパスポートをとるときの但し書きに話は及び「アメリカ軍のヘリコプターや米国政府の輸送艦が護衛付きで救出してくれると期待するのはハリウッドのシナリオに影響されすぎていて、現実的ではありませんとあるんです。アメリカ人に対してもですよ」などと声を張り上げて追及した。その後話は専門的になっていき、途中、これまた石破大臣が肯いたりするものだから、辻元氏が「石破大臣はうんと言ってますけど」と指摘すると、安倍総理が「いやな顔」をしたりした。これじゃあ、ますます仲が悪くなるだろうなあなどと思ったり、興味の尽きない場面が続いたのだが、番組収録の時間が近づき、部屋をあとにしてスタジオに向かった。

その日のゲストは野中広務、古賀誠両元自民党幹事長の重鎮だった。やっぱり二人とも、アベノミクスについて、委員会室での政府答弁とは違い、「疑問」を投げかけた。「潮目」だと言うのだ。


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